「ウッドマイルズ」 設計に取り入れてみませんか 〜住宅医リレーコラム2020年8月

村上洋子(住宅医協会理事)

「ウッドマイルズ」をご存知ですか?ウッドマイルズとは、一般社団法人ウッドマイルズフォーラムが提唱する木材の輸送に関する環境指標で、主に、①ウッドマイルズ(平均輸送距離)、②ウッドマイレージCO2(輸送環境負荷)、③流通把握度(トレーサビリティの確保の度合い)、の3つの指標で評価するものです。
一般社団法人 ウッドマイルズフォーラム
https://www.woodmiles.net/
2011年に父の家を、住宅医協会の前身である住宅医ネットワークの改修方法「既存ドックシステム2」に基づき改修しました。既存ドックシステム2は、国土交通省に採択された長期優良住宅先導事業で、劣化対策、耐震性能、温熱・省エネルギー性能、維持管理、火災時の安全性、バリアフリーに加え、ウッドマイルズの評価も必須でした。一般社団法人ウッドマイルズフォーラムが開発した算定ツールに、改修で使用した木材の入手場所、距離、輸送手段、材積表を入力し、算出します。
次のシートが、父の家の総合評価と各平均値との比較です。構造材は高知の杉、造作材と下地材は高知と愛媛、床板は父の故郷・中国地方の松を使用しました。

ウッドマイルズ関連指標 総合評価


ウッドマイルズ関連指標 各平均値との比較


これを見ると、木材使用量は国内の一般的な住宅(国内平均値)の1.7倍で、まあそんなものかと思いますが、平均輸送距離(ウッドマイルズ)は、平均値の0.095倍で、距離の差は6319㎞!材積に輸送距離を掛けたウッドマイレージは平均値の0.184倍、木材輸送時に排出されたCO2総量は平均値の0.32倍で、CO2削減率は67%になっています。
2011年は東日本大震災の津波により、三陸海岸にあった合板工場に甚大な被害がありました。そのため、一時合板の流通が止まり、父の家で使用する予定だった国産材の合板が入手できず、なんとか確保できたのが北米産の合板でした。合板以外は全て国産材を使用した結果です。
近年、日本のいたる所で水害が発生しています。今年の長雨は、水害だけでなく農作物の成長にも影響を与え、野菜の値段が高騰。水害が心配ない場所にいても、間接的に被害を意識する機会が多いのではと思います。
毎年の酷暑や豪雨災害の頻発で、気候変動を意識せずにいられません。地球温暖化を抑えるためには、温室効果ガスの排出削減が不可欠であることも明らかになりました。先進国の建築における対策の厳しさや、建築従事者や学生の危機意識を知るにつれ、日本の建築業界にももっと具体的な対策が必要ではと感じています。
ウッドマイルズの評価により、地場産材を利用した改修が、温室効果ガスの排出削減に大きく貢献することが一目瞭然になります。みなさんも是非、ウッドマイルズの算定をしてみてはいかがでしょうか。
また、産地、流通、省エネ、品質、長寿命という5つの物差しで、より総合的に木材調達を評価する「木材調達チェックブック」
https://www.woodmiles.net/evaluation/2_index_detail.php
も発行されていて、現在の算出プログラムでは、この総合評価もできるようです。

住宅医協会でもウッドマイルズ算出技術者講習会が開催できればいいなと思っています。