「新しい生活様式」で暮らす家に必要な要素とは?~住宅医リレーコラム2020年9月

藤本千絵(住宅医協会監事/かたつむり構造

「新しい生活様式」における幾何学的フラストレーション

設計者の皆様の中には、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行を受けた休業要請以来、在宅勤務を続けている方がいらっしゃるのではないでしょうか。また、休業要請の解除を受けて通常通りの出勤態勢に戻った方々も、遠方への移動は避け、Web会議システムを活用される日々が続いているのではないでしょうか。

 

わが家には幼い子がいるため、の要請以前は参加したい講習会があっても開催地が遠く諦めることが多々ありました。遠方へ出向かずとも、Web会議システムを使って打合せや講習会に参加できるようになったことは幸いです。(アンケート調査の結果、2021年度の住宅医スクールは、遠方の方に嬉しいオンライン開講に決まりました!)
一方で、夫婦そろって在宅勤務をはじめて以来、各室の使い方は大きく変わり、今までは感じなかった家の形と暮らし方の不調和を感じることもあります。

わが家は標準世帯向け賃貸住宅で、LDKに夫婦寝室、こども部屋が2つという間取りです。3月からの臨時休校に際して、教員である配偶者は遠隔講義のために個室が必要になり、当初こども部屋を占拠していました。が、思春期の息子に「居場所がない」と言われて反省し、食卓で講義や執筆をするようになりました。食卓で作業していると、電源に近い位置に夫婦どちらが座るかが問題になります。状況に応じて席替えしたり、一方が寝室に移動したり。くるくるくるくる、安定配置を求めて回り続ける極小の電子スピンにでもなったような落ち着かない気分です。
皆様のご家庭では、いかがでしょうか?

 

フラストレーションの可視化と解消への試み

ハウスメーカー各社はそろって「新しい生活様式」対応住宅を提案しています。「新しい生活様式」対応住宅のセールスポイントのうち、①テレワークスペースの確保(防音性の配慮や、通信機器を接続するための電源の充実を含む)、②十全な換気計画、③ウィルスを持ち込まない動線計画(緩衝空間の確保や、手の触れる場所の抗菌化等を含む)の3つは各社で共通しています。「新しい生活様式に対応した住宅リフォーム補助金」という制度を用意している自治体も複数ありました。こちらも、条件が明示されている場合は①~③+αになっています。

この他に、日中在宅時に緑に触れることのできる植栽計画や、在宅勤務によって増加した光熱費を低減する再生エネルギー機器の設置を加えるものもあります。これらは各提案者が自粛生活の中で感じたフラストレーションの、各々の解消策でもあるのでしょう。④緑化、⑤省エネまたは創エネの提案とまとめることができます。④と⑤の補助金制度は、どの自治体にもありますね。

わが家は2003年のシックハウス法施行以後の住宅なので、②については24時間換気システムが予め備わっています。①テレワークスペースの確保と③ウィルスを持ち込まない動線、それに⑤省エネが課題です。賃貸住宅なので、新たに書斎を増築したり、玄関脇に土間収納を設けたり、庇を付けたりすることはできません。それでも些細な工夫で少しは快適性を上げることができましたので、簡単にご紹介します。

上の写真は、自粛期間内にわが家で行ったフラストレーション解消の試みです。住宅医の皆様はもちろん、先の①、③、⑤のどれに対する解消策か、即座にお分かりになるでしょう。
写真[1]、[2a][2b]が、⑤省エネまたは創エネに当たります。わが家は軒や庇がなく、夏の窓辺では日射熱で肌がじりじり焼けるようでした。しかしタープを張ってからは、エアコンを30℃に設定するだけで涼しく快適に過ごせるようになりました。写真[2a][2b]の『わがや電力』の作り方は、同名の書籍をご参照いただければと思います。材料費1万5千円の設備投資でしたが、1日分の発電で、スマートフォンとノートPC程度なら十分に充電できます。

写真[3]が、③ウィルスを持ち込まない動線計画…というほど立派なものではありませんが、暫定的な緩衝空間として、玄関脇の壁に外で使ったものを収納するためのフックを取り付けたところです。ここに収納を設けたことで、外から持ってきたものを居室内に持ち込むことは減りました。左の扉は洗面脱衣室なので、外から持ってきた鞄や上着を収納したら、すぐに手を洗ったりシャワーを浴びたりすることができます。

聡明な方はお気付きのように、①テレワークスペースの確保は、まだ実現していません。引き続き、くるくる回りながら模索し続ける予定です。

 

「新しい生活様式」を暮らす家

わが家の試みは、賃貸住宅という初期条件に阻まれて、画期的なものにはなりませんでしたが、持ち家の改修であれば、実現できることはもっと、ずっと増えることでしょう。改修の相談に来られた方に提案できることは、きっと沢山あるはずです。
住宅医の皆様、住宅医を目指す皆様の「新しい生活様式」を暮らす家とは、どんな家でしょう?身近な方々と、意見交換してみるのも楽しいかもしれません。


参考資料
『わがや電力 ~12歳からとりかかる太陽光発電の入門書』テンダー著(ヨホホ研究所)https://yohoho.jp/wagaya