BIM活用した改修設計とは 【その1】~ BIM について~リレーコラム2023年10月

大石 佳知 ( 有限会社アーキ・キューブ / 日本建築士会連合会 情報部会長 / 岐阜県 )

はじめに
近年、BIM(ビム)という言葉を耳にすることが増えてきました。これは Building Information Modeling の略称で、国土交通省の資料によれば、コンピューター上に作成した主に3次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、建物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム、またはプロセスのことをいい、CAD に代わる新しいものとして注目されています。
私の会社では 2012年にそのプロセスを導入しました。在籍している 6名のスタッフ(うち 20歳代が 4名)全員が、新築や改修を問わず、木造や鉄骨造の設計において BIM を活用しています。
今回から 2回にわけて、改修設計における BIM の活用を紹介します。BIM を導入すべきという結論を押し付けるつもりはないので、気軽に読んでいただけたら幸いです。

BIM のプロセス


図 1 .BIM とは 出典:国土交通省建築 BIM 推進会議資料

上図は令和元年から国土交通省が開催している建築 BIM 推進会議の資料です。右側に示された BIM モデルの周囲を、企画設計から建築工事、維持管理までの一連の建築プロセスが囲んでいます。この資料では企画、設計、施工に加え、維持管理に至るまで BIM データが活用されるシーンを示しています。
コンピューター上で仮想の建築物(3Dモデル)を作成(モデリング)することは BIM のプロセスの一部です。ひとつひとつの部位、屋根、壁、床、建具等をオブジェクト単位で作成し、その 3Dモデルを様々な方向からみた“ビュー”を作成して、そのビューに文字や寸法線等の情報を加えて、平面図や展開図など、我々がいつも描いている図面を作成します。
BIM は 3Dで図面を作図するものと認識されがちですが、モデル内の情報を設計から施工を経て維持管理に活用する、そのプロセスこそが BIM であることに着目してください。

B“I”M モデルの情報の活用

BIM のプロセスでは 3Dモデルをオブジェクト単位でモデリングします。
オブジェクト単位とは、たとえば、床の場合は仕上げのフローリングと下地の構造用合板や断熱材を、木製建具の場合は框、ガラスや額縁を、照明器具の場合は照度や型番、耐用年数などの情報を一つのオブジェクトとしてまとめたものをいいます。
それぞれのオブジェクトには、図面上の表現である素材の見た目(画像や目地)、照度検討をするための壁の反射率、断熱材の種類や性能を定義することができます。
Building Information Modeling の文字通り、3Dモデルに“I”の情報を定義するで、後工程でそれらの情報の活用に繋げることができるようになり、設計の情報が資産化するといわれています。

BIM 活用のシーン


図2 BIM モデル活用のシーン

住まい手など関係者との合意形成は、設計を進める上で様々なシーンで必要になります。
みなさんも建築模型、手描きスケッチや 3Dモデリングソフトを活用し、設計イメージを関係者に伝えながら設計を進めていると思います。
BIM の活用をすることにより、空間構成や形状など可視化した建築情報を関係者に容易に伝えることができるようになります。また、モデリングの過程において法規制(斜線制限)を常に確認しながら設計を進めることができます。そして、建物が敷地外に及ぼす影の影響や、周辺環境を踏まえた室内の日射取得の状況などの日照シミュレーションをすることができます。照明器具の照度と壁面反射率から面照度を検討することも可能です。
この一連のプロセスによって、モデリングと並行して設計図を作成することができること、多くの情報をモデルに蓄積することによって、幅広いサービスを効率的に関係者に提供できるようになります。


図3 3D パースや展開図等で情報を可視化

設計図を作成する過程ではモデリングしたものが関連する図面にすべて表示されるので、例えば、展開図に壁オブジェクトに登録した仕上げ情報をタグで自動表示したり、コンセントやスイッチのモデルを電気設備図のとおりに展開図に表示したりすることができます。
建具表を作成する際には、オブジェクトに登録した建具金物やガラスの仕様が表示され、数量が自動集計されます。

BIM の活用で変わる設計事務所の業務スタイル

BIM のプロセスは私たちの業務スタイルを大きく変えます。それは良いことばかりではありません。CAD とは作図方法が大きく異なり、モデリングの過程が複雑でソフトウェアを使いこなすのにある程度の時間が必要です。また、ソフトウェアの使用料は CAD と比べて高価です。しかも BIM データは過去のバージョンに遡って保存することができません。
さらに、一つのプロジェクトデータにはモデルと図面の全ての情報が保存されるため、協働で作図をするには各ユーザーのアクセス設定が必要ですし、バックアップデータの管理に気を使います。
このように導入には障壁もあります。しかし、使い慣れたスタッフが一人でも居れば、社内の BIM スキルが大きく向上することは他のユーザーをみてもわかります。また、個別の図面を描く必要がなくなるので相互の食い違いはなくなり、3Dパースによって住まい手との打ち合わせはスムーズに進みます。BIM はとりわけ若い世代の建築士に受け入れ易いようで、スタッフの感想をいくつか紹介します。

  • ・モデルの作り方にもよるが、基本設計の段階では作業時間は長くなる一方、実施設計へ移行する前提であれば、CAD で作図する場合と比べて約半分の時間で図面が描けるようになった。
  • ・パースを気軽に作成できるので、住まい手から「ここからその部屋を見るとどのように見える?」等という質問にその場で応えられ、他にもパノラマレンダリング(図4)を作成しURL で共有することができるので、打合せ以外の時間にも気軽にみてもらえるようになった。

    図4 パノラマレンダリングの QR コード
    (ジャイロセンサーをONにしてご覧ください)
    図4 ( 画像をクリックでご覧ください)
  • ・ある程度モデルの作成が完了していれば、他のスタッフへ物件の引継ぎが比較的容易に行えるようになった。また、修正作業など、2Dだと分担した作業を 1人で行えるようになった。
  • ・すまい手と建物の雰囲気を共有できるので認識のずれが起こりにくい。

LiDAR カメラが建物調査を変える


図5 点群編集ソフトウェア Autodesk Recap を使用して現場の状況を点群から計測

LiDAR は「Light Detection And Ranging」の略で、レーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術のことを示し、iphoneや iPad の上位機種に搭載されています。
現況調査の際には、このカメラで現地の状況(形状や部材の高さなどの情報)を数値で得ることができます。カメラの性能上、測距 5m まで、かつ明るい場所での使用に限られます。小屋裏、床下等での使用は制限されます。
得られた点群データ(ポイントクラウド)は、ひとつひとつの点が X,Y,Z 方向の座標情報に加え、RGB の色情報を持っています。このデータを BIM のソフトウェアに取り込み、モデル化(図面化)して現況図を作成することがリフォームにおける BIM 活用の特徴でもあります。
次回は点群を参照して 3Dモデリングする過程や、リフォーム設計における BIM活用をテーマにします。

大石 佳知

©Oishi Yoshitomo , Society of Architectural Pathologists Japan


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