BIM活用した改修設計とは【その2】 ~リフォーム設計におけるBIM活用~ リレーコラム2023年11月

大石 佳知 ( 有限会社アーキ・キューブ / 日本建築士会連合会 情報部会長 / 岐阜県 )

点群の活用

図1. 3Dスキャンアプリまとめ 出典:モバイルスキャン協会

多くの場合、改修工事は現況建物の状況調査を経て現況図を作成するところから始めます。建物調査には計測を伴いますが、計測と記録をふたり1組で実施することが多いと思います。前回のコラムの最後に紹介した点群測定は我々の現況調査業務をサポートできると思った方も多いと思います。対応可能なiPad等とアプリケーションがあれば簡単に点群測定ができるのでぜひ試してみてはいかがでしょうか。モバイルスキャン協会( https://mobilescan.jp  )にまとめサイトがあるので参考にしてください。

BIMによる改修設計のプロセス

点群計測のあと現況図を作成するには BIMソフトウェアにその点群データを読み込みます。前述のとおり、計測によって得られた点群のひとつひとつの点は X, Y, Z 座標と RGBの色情報をもっています。一方、BIMデータは壁や建具などをオブジェクト単位で入力します。したがって、読み込んだ点群を用いて BIMデータを作成するには要素ごとにモデリングする必要があります。


図2. 点群データをBIMソフトに読み込む

図2 はレーザースキャナで取得した点群を BIMソフトに読み込んだものになります。この点群データは前述の LiDAR(赤外線)カメラで計測したものとは異なります。レーザーで計測したものです。測量機器のように三脚を測点に据えて、そこから見通せる範囲をレーザーで計測します。住宅のように見通しが効かない形状の調査の場合は、部屋ごとに視点を替えて計測します。それぞれの計測データの特徴面をコンピュータが自動判断し、点群の座標を統合して建物全体の点群データを作ります。本図は分かり易くするために測点ごとに色を変えています。測点の数をイメージしていただけると思います。レーザー計測は LiDARカメラのデメリットを補うことが可能です。しかし、機器が高価で住宅規模の調査で使う機会はあまり多くありません。


図3. 点群をトレースしながら現況モデルを作成

図3 は読み込んだ点群に現況モデルを作成したところになります。読み込んだ点群は平面図ビュー、断面図ビューなど全てのビューに表示されるため、その点群を参照しながら、各ビュー を行き来しながら現況モデルを入力します。


図4. 現況モデルの完成

時間軸をパラメーターに

BIMソフトには フェーズという機能があります。例えば、既設の建具と壁の一部を “ 撤去する ” とか、改修にあわせて建具を “ 新設する ” とか、モデルごとにフェーズ(施工時期)を定義することができます。

図5 現況モデルと改修モデルの平面図ビュー

改修設計では以下の ビュー をあらかじめ用意しておきます( BIMによる設計は 3Dモデルを様々な方向からみた “ ビュー ” をいくつもつくりながら作図を進めます )。
1)現況モデルのビュー:全ての現況モデルを表示したもの
2)解体撤去モデルのビュー:現況モデルに加えて、“ 撤去する ”と定義したモデルを指定色で表示したもの
3)改修モデルのビュー:現況モデルを指定色で表示し “ 撤去する ” と定義したモデルを非表示にし、“ 新設する “と付加したモデルを表示する

現況モデル作成の場合は、全てのモデルに “ 現況 ” という情報をパラメーターとして定義します。点群をトレースしたモデルは上記 1)の “ 現況モデルビュー ” にすべて表示されます(図5.の左側の図)。
次に、改修プランにあわせて解体や撤去するオブジェクトに “ 解体 ” という情報を定義すると、上記 2)の “ 撤去モデルビュー ” ではそれらを指定色で表示した撤去図をつくることができます。
なお、3)の “ 改修モデルビュー ” は、私の会社の設定では、現況モデルをすべて青色で表示し、” 新設 ” と定義したものは黒色で、“ 解体 ” と定義したモデルを非表示するよう設定しています。解体と新設のものの取り合いがこのビュー で明確になります(図5.の右側の図)。

B”I”Mの “ I ”、情報を扱うこと


図6. BIMソフトの壁モデル構成( 内壁を選択すると画面右側のプロパティパレット内に壁モデルのタイプと概要が表示される )

前述の通り、BIMソフトの壁モデルはオブジェクト単位(仕上げと下地の情報)で構成されています。
図6 の赤枠ダイアログボックスは壁が仕上げボードや下地胴縁で構成されていることを示しています。また、それぞれの素材にマテリアル情報を設定することができます。マテリアル情報には仕上げ等の文字情報も登録することができます。この情報は BIMソフトのタグ機能を使うと、ビュー の各部分に自動入力されます。仕様が変わった時には容易に変更することができます。
また、集計表の機能を使えばマテリアルごとに面積、長さ等を集計することができます。仕上げ、下地にそれぞれマテリアルを設定すれば、部屋ごとに面積集計することができます。正しくモデリングされていることが前提ですが、実数量を知ることができるので、見積書と設計数量を比較することができます。
導入の初期段階では BIMはパースを描くため、食い違いのない図面を描くためのツールとして効果を発揮しますが、BIMの “I” Information を活用すれば設計情報の価値が高まっていくことがお分かりいただけたと思います。

プレゼンテーションにおける3Dモデルの活用

BIMモデルのデータは他のアプリケーションと相互に連携することができます。特にプレゼンテーションでは可能性が広がっています。Twinmotion( https://www.twinmotion.com/ja/solutions/architecture )というアプリケーション(もとはゲームエンジンとして開発されたリアルタイムレンダリングビューワー)にBIMのデータを転送するとマテリアルが反映された 3Dビューをブラウザで確認することができます。Twinmotionでマテリアルを編集し、オブジェクトを追加することができ、そのデータは BIMソフトで同時に反映されます。


図7. リフォームプロジェクトでのTwinmotionのブラウザ画像


図8. 同様のプロジェクトでのBIMソフト(Revit)の操作画面

最近は、住まい手への提案にTwinmotionのリンクと平面プランのみ提示します。前回のコラムで紹介したパノラマレンダリングとの違いは、住まい手が空間の中を自由に視点移動できることです。BIMソフトと外部のアプリケーションが連携することでデータ活用の可能性が広がります。

建築士とBIMのこれから

BIMソフトを導入する前と比べて社内のコミュニケーションが取りやすくなったように感じます。一つの BIMモデルを複数人で同時編集することができるので、プロジェクト内の連携が以前と比べて容易になり、3Dビューを眺めながらあれこれ話ができることや、私自身も図面相互の食い違いのチェック作業から解放されたことが理由として挙げられます。
在籍しているスタッフのうち1名は家族の都合で今年の4月からカンボジアのシェムリアップに居ながら一緒に働いています。ベトナムのバンメトートという街にも関連会社があり、BIMに精通したベトナム人スタッフ2名と同じBIMソフトを使って一緒に仕事をしています。日本のスタッフも月の半分はリモートワークを選択できるようにしているので、それぞれが場所や言葉を障壁とすることなく自由に働いています。全員が新しいことに挑戦する意欲に溢れていることが今の環境を作っていると思います。
BIMの活用はいわゆる手段なので、それだけで良い設計ができるわけではありません。しかし、コミュニケーションが深まることで、結果、より良いアイデアが生まれると信じています。

さいごに私が所属している日本建築士会連合会の活動について情報提供します。私が所属する情報部会では建築士の新しい職域として、意匠、構造や設備のそれぞれのモデルの干渉をチェックすることや、設計、施工や維持管理の段階でデータを活用するためパラメーターを定義することなど、建築BIMのデータ相互の情報を横断的に健全な状態に保つために必要なスキルをもつ「BIMマネージャー」と「BIMコーディネーター」に関する研究を進めています。欧米では資格や職位として一般的になりつつあります。建築だけでなく情報技術や情報セキュリティーの知識を必要とすることから全ての建築士が得るべきスキルとはいえませんが、BIMに関わる新しいムーブメントとして注目してください。

大石 佳知

©Oishi Yoshitomo , Society of Architectural Pathologists Japan


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有限会社アーキ・キューブ https://archi-cube.com/