住宅医の改修事例№165 ~築58年の混構造 耐震リノベ
井上 泰子(住宅医 / SOMALI 一級建築士事務所 / 大阪府)
改修までのストーリー
懐かしい家に移り住むことを決断されたご家族の住まい。
築58年、混構造の建物は隙間から雨風が入り、構造面もそれなりの問題を抱えています。当初は、リフォーム会社の見積りが予算オーバーだった事に対してのご相談でしたが、まず建物を調査することで既存建物の性能を共有し、ご家族にとって適切な改修計画を提案されました。今回は、ご家族の改修予算に無理のない一期、二期工事までとなりますが、今後も性能向上が可能な計画となっておりご家族に寄り添った改修事例です。(住宅医通信編集部)
建物の概要
築58年(昭和41年新築)の混構造(1階RC、2階木造)の一戸建て住宅である。敷地は高低差があり1階、2階ともに地上へアプローチが可能な断面形状である。1階はLDK+水廻り、2階は個室+WCとして計画されており、丁寧に使われてはいるが2階木造部分の外壁は劣化が激しい状態であった。なお、敷地は風致地区内である。
建物詳細調査
建物調査は2回に分けて実施した。1回目は外観、設備機器の状況確認と2階(木造)天井に開口部を設け筋交いの有無と小屋裏の劣化状況を目視にて確認。2回目は構造設計者とともに壁を一部解体し、2階(木造)の壁内部の劣化度や前回確認した小屋裏の目視調査を行った。1階RC躯体については劣化状況を確認し、外部から躯体の損傷はみられないものの、内部には雨漏りとみられる染みが確認された。2階小屋裏は躯体に少量のカビが確認できたものの、比較的健全な状態であった。(左図:既存図面)
詳細調査 –外部 1階・2階–
1階はRC造で外壁には目立ったクラックなどはなく、躯体は健全で錆などは見られなかった。ただし築年数から構造上の法適合はしていないと思われる。
外部木製建具は劣化が激しく再利用は難しい。また使用されていない設備が放置されており、撤去や整理が必要であった。
【 外部 】![]() 屋根 |
■![]() 修前屋根の劣化破損状況 |
![]() 2階軒裏 |
![]() 2階木部は劣化が激しく塗装は触るとポロポロと剥がれる状況 |
– 内部 1階・2階 –
小屋裏より筋交いの有無と劣化状況を確認。ともに目立った劣化や蟻害は確認できなかったが、一部はね出し母屋にカビのようなものが確認された筋交いは数か所設置が確認された。断熱材はなし。
【 内部】![]() 小屋裏 |
■![]() 小屋裏 |
![]() 隙間のある玄関扉 |
隙間のある木製サッシ(2階) |
雨漏跡 |
![]() 壁面 雨染みの様子 |
![]() 2階床下の様子 |
– 土台の調査 –
次のステップで改修範囲を絞り、土台廻りを確認するために壁を一部解体し、状況を確認した。
アンカーボルトは一定の位置に取り付けられておらず、締まっていなかった。
![]() 和室壁の解体 |
![]() 土台の状況 |
改修前建物の性能は
![]() |
Before 既存建物 性能診断結果 ![]() 一社) 住宅医協会 住まいの診断レポート 事例165 |
既存建物の状況を踏まえて – あらかじめ検討を重ねる –
・初期の段階で内部の改修範囲を最小限にとどめるために壁量計算を行い優先順位を検討した。
・内部の改修範囲が概ね固まった段階で概算見積りを取り、VE案を作成し優先順位を検討した。
・この時点では屋根と外壁は住みながらでも施工可能と判断し、二期工事で実施。
・耐震診断の必要性を説明し、耐震補強工事を実施。
・大阪市の耐震改修補助金の可能性を探ったが、混構造の場合は検査済証まで必要であり、受けることができなかった。
PLAN

第1期工事では2階の温熱環境向上が見込めないため家族が1階のLDKで過ごしたくなるプランを検討
![]() 改修前 平面図 |
![]() 改修後 平面図 |
工事範囲を最小限に抑えるために間仕切り変更は行わず、必要な間仕切りは家具やカーテンで仕切ることとした。
![]() 改修後 断面図 |
構造計画 耐震性能

・評価結果は評点0.28(倒壊する可能性が高い)から、評点1.14(一応倒壊しない)まで向上した。
・あらかじめ想定していた範囲とほぼ同程度の改修範囲で、構造用合板による補強計画とした。(右図:あらかじめ構造を検討することで改修範囲を最小限に留めている)
![]() ![]() ![]() 上部構造評点 0.28「倒壊する可能性が高い」 建築基準法の想定する大地震動時を想定 |
![]() ![]() 上部構造評点 1.14「一応倒壊しない」 ホームズ君耐震診断Pro ㈱柳原建築測量事務所/柳原和馬 |
![]() |
解体後の様子 –1階 –
・1階RC部は閉鎖されていた開口部などが発見され、改修部位が増えることとなった。
・床は鋼製束でレベル調整を行った。
・キッチンの位置を既存より変更したが、水勾配を確保するのに十分な高さがあった。
![]() 1階LDK解体後 |
![]() 1階LDK鋼製床施工中 |
解体後の様子 – 2階 –
・外壁の劣化が激しく、一部雨染みが確認された。
・この時点では屋根からの雨漏りは工事中も確認されなかった。
・耐力壁は構造用合板での耐力壁とし、土台は重ね土台とした。
![]() 2階重ね土台施工中 |
![]() 2階 解体後 |
![]() 構造用合板にて耐力壁新設 |
![]() 耐震補強施工後 |
金物補強

改修前:既存火打金物 ⇒ 改修後:新設火打金物
ブロック塀撤去
・可能な限りCB塀を撤去
・予算の関係で新設することができなかったため、倒れにくい高さ(5段)まで下げた
・施主へは基礎のないCB塀であることをお伝えし、将来改修の必要性を説明した

改修前:隣地既存ブロック塀は押すと揺れる状況 ⇒ 改修後:上部を撤去し倒壊時の危険を軽減。
屋根の葺き替え (二期工事 )
引越し後に雨漏れが確認されたため、二期工事として屋根葺替え工事を行った。風致地区であることから、屋根の改修は許可を受けての実施となった。
材料は金属サンドイッチパネルを採用。断熱性と耐火性に優れている。既存瓦と土を2tトラック2台分撤去し、屋根荷重が軽くなったことを実感いただいた。
![]() 施工前:土葺き瓦は構造面で「非常に重い」分類となる |
![]() 瓦と土 撤去後:ルーフィングの張方向が逆になっていた |
野地板・ルーフィング施工状況 |
![]() 施工後:断熱材一体型金属屋根 |
家具計画
地震時における屋内で、家具や家電の転倒による怪我を防ぐため、可能な限り家具を固定のものとした。

■
温熱性
・1階のリビングスペースに床暖房を設置した。
・初めて現調を実施したのは3月頃であったが、体感で1階がひんやりしており、冬は寒いだろうと感じたそのため床暖房は直感的に設置した方が良いと考え、VEからも外して予算を調整した。
・空調は既存は不明、改修後は別途工事のため想定での評価とした。

・サッシは当初防火設備+ペアガラス仕様を見込んだが、予算の都合で断念することとなり、一部木製外部建具も残置することとなった。結露対策の提案が求められ、既存のアルミサッシ部分とサッシ更新箇所のみ真空ガラスを採用した。
バリアフリー・火災時の安全性

・敷地の高低差から1階、2階ともにアプローチ可能な建物なため避難が容易な建物であるといえる
・現時点で高齢者の介護や居住は想定しておらず、バリアフリー工事は行わなかったが、将来対応として駐車場からLDKへの段差解消工事を行うことで部分対応を想定している。
・最低限居住家族の怪我などで不便とならないよう、新設するユニットバスには手すりを2か所設置した。
維持管理・メンテナンス
雨漏りなどが早期に発見できるよう、天井に点検口を設置。点検口はフィルター付きで天井から給気を確保。外壁木部は何度も試し塗を行った結果、シリコンウレタン樹脂系の塗料を採用した。

![]() |
小屋裏換気 |
給気 |
改修後の建物性能
■ ![]() |
改修後 性能診断結果![]() 一社) 住宅医協会 住まいの診断レポート 事例165 |
・耐震性は木造部分の評価とし、耐震補強を行ったため性能が向上した。
・耐久性は1階がRCであるため評価が高く、現状維持にとどまった。
・温熱・省エネは空調や照明器具の更新により性能向上がみられたが、予算の都合で断念した。
外壁工事を今後実施することで、さらに性能向上を目指すこととなった。
・バリアフリーは現時点で高齢者の介護や居住の想定がなく優先順位を下げての改修とした。
・火災時の安全性は火災報知器の設置により若干の向上はあったが建物の耐火防火性能が
アップしていないため、将来の外壁工事の実施の時点で性能向上を目指すこととなった。
photo
■
最後に
老朽化が進む築古住宅に、新たな可能性を見出すことから始まった今回の改修計画。
当初は「低予算で、数年間快適に暮らせればよい」というシンプルな要望からスタートしたが、打合せを重ねるうちにクライアントの意識に変化が生まれ、住宅性能の向上や暮らし方そのものを見つめ直す契機となった。
性能面では、断熱や温熱環境に今後の課題を残しつつも、将来的に外壁工事を行うことで、さらなる改善を目指す計画としている。
敷地の高低差により混構造で建てられた住宅であったため、補助金の適用は見送られたが、限られた条件の中で最適解を探る設計となった。
平面構成を大きく変えることはせず、家具やキッチンのレイアウトを工夫することで、「家族のコミュニケーションに小さな変化が生まれた」ことや、「それぞれに心地よい居場所ができた」との声をいただいた。
日々の暮らしの中に小さな変化が感じられる、緩やかな再生のかたちである。
井上 泰子
Copyright © Inoue Yasuko, jutakui
No.165 築58年の混構造 耐震リノベ










雨漏






















野地板・ルーフィング施工状況


給気








