住宅医の改修事例 №0156 昭和な旅館の再生活用「理想はあっても現実は厳しい」国栖Core・ゲストハウス空(奈良県吉野町)
澤木 久美子 (住宅医 / アトリエ空一級建築士事務所 / 奈良県)
COPYRIGHT©Sawaki Kumiko, jutakui (上写真 改修後 2024年12月撮影)
ストーリー
2018年 大学教授の友人に誘われ、奈良の吉野で学生や地域の方々との活動を始められた澤木さん。「シェアハウスの様に気軽に泊まれるところがあったらいいのに」と、地元の方に言っていたところ「ここどうですか?」と、空き家となっていた借家(廃業されていた元旅館 大西屋さん)を地元の方に紹介されて 借り、改修工事を行い 2021年 兵庫県神戸市から奈良県吉野町に移住。現在はこの元旅館(国栖Core・ゲストハウス空)の女将業と 地域での精力的な活動に建築仲間から注目されている澤木さん。「住宅医としての建築知識はあっても、予算が追い付かなければこうなりますよね…」と、切実なお言葉もお聞きしましたが、住宅医だからこそ出来た改修と活動で、着実に地域を豊かな場所にされた事例です。
(住宅医協会編集部)
既存建物写真
改修前![]() 外観(北側) |
改修前![]() 外観(南側) |
![]() 玄関 正面には大西屋の暖簾 |
![]() 元旅館の大きな厨房 |
![]() 汲取り式のトイレ、奥に脱衣所と浴室 |
![]() ご両親親が暮らされていた和室 |
この建物の家主さんは、この家で生まれ育ち 嫁がれました。昔は広い土間のある古民家だったそうですが増築されており、一生懸命に働いたご両親が昭和に建て替えられた思い出も。この元旅館は 十数年前に役目を終え、街道沿いにひっそりと建っていました。
家主さんからは「(お貸しする際)水道管が壊れているけれど治せない」と聞きして、思わず「私が治します!」と言っていました。自身の予算の範囲で、建物と土地をお借りして行う改修工事です。
借家の改修 住宅医としての理想と現実。初めてのゲストハウス運営どうする!
・昭和の旅館の現実(浄化槽が無い、水道管が割れている、床に傾きがある)
・改修予算と運営計画、はじめてのゲストハウス運営
改修プラン
既存図面
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当初の改修計画 |
改修計画
・街道沿い道路に面した出入口は半間奥に移動させ玄関戸を木建に
・玄関横の物入を撤去しゲストハウスの顔となる場所に
・調理場は飲食営業許可用専用の厨房調理場と、ゲストが使いやすいシェアキッチンに
・キッチン横はゲストが使いやすい食堂室に
・昔の水廻りを清潔に使いやすく、元旅館の大きな浴室の良さは残す
・浄化槽新設、水道管修理など
・2階廊下の物入れを撤去しゲストのサブリビングに活用(2階トイレ新設は予算上断念)
浄化槽が置けない⁉
浄化槽が無かったため設置を計画。外部で唯一「設置出来そう」と話していた場所の一部が隣地であることがわかり。検討の結果、建物内 土間に設置することにした。
施工の様子
[ 浄化槽の設置 ]
土間への設置は慎重に手掘りで行う。土間の土質がとても良く、石や水も出ること無く無事に設置する事が出来ました。浄化槽は掃除や点検スペースも確保しています。
![]() 手掘りで堀り進める |
![]() 地域の水道屋さん達が協力し合い 担いで搬入 |
![]() 床下浄化槽設置 |
![]() 床下浄化槽設置 |
![]() 洗面所の床と壁、軒の施工 |
![]() 点検 掃除スペースを確保して浄化槽が入る |
[ 床の傾き・浴室 ]
脱衣所の床は、傾斜があり傾きもバラバラでした。下地の調整でフラットな床に仕上がりました。また浴室は、そのまま使う事が難しかったため元旅館の大きな洗い場と浴槽の良さを生かしたユニットバスとしました。
![]() 脱衣所 床の傾斜を調整 |
![]() フラットの床に仕上がった |
![]() 古くなった在来の浴室 |
![]() ユニットバス(タカラスタンダード) |
[ 和室(茶の間) → 板張り床の食事室 ]
キッチン横にある和室は、ゲストが使いやすい板張り床の食事室に変更。食堂には大きなテーブルを配置しました。
![]() 床に熱材の施工 |
![]() テーブル,床材:吉野杉 |
[ 旅館の厨房 ]
元旅館の大きな厨房は、飲食業用(区切りが必要となる専用厨房)とゲストの共有キッチンとしました。それぞれが使いやすいように流しを中央に配置。ゲストからは「使いやすい」と好評です。
![]() 元旅館の大きな台所 |
![]() |
![]() 飲食業専用キッチン(飲食店営業・菓子製造業許可を取得) |
![]() ゲストの共用キッチン |
[ 2階の廊下 ]
廊下の窓下には大きな収納(布団入れ)がありましたが使いにくく撤去しました。収納撤去後 床の施工が必要となりましたが、南側廊下はゲストのサブリビングとなりました。床には吉野杉を施工。
![]() |
![]() |
[ 二年目、断熱材を追加 ]
予算の都合上 後回しとしていた私の居場所の小屋裏に、断熱材を入れました。暖房の効きが良くなった事を実感しています。
![]() 断熱材を準備 |
![]() 小屋裏に敷込みました |
澤木さんの活動 国栖Core
”ゲストハウス空(くう)” は、airbnb(アメリカ発祥の民泊サイト)に登録してからは海外からのお客さまが増えました。海外組は玄関を開けて「beautiful!」と言って下さります。ゲストハウスは長期滞在者の方も利用しやすいプランがあり、吉野で家をお探しの方なども利用されます。町の外から来られる方と地域と場所を繋ぐ ”Come onよしの” の活動や、自分のお店を持つ前のチャレンジで 飲食店営業・菓子製造業許可を取得している ”こけのもり” のキッチンを利用される方もいます。
女将がこけのもりを運営する友人等と3人で月に一度開店する”
また和室を広く使い、イベント会場や集まりの場所としても重宝されています。
■国栖Core ホームページ https://kuzu-core.com/
千本桜で有名な吉野山から国栖までは車で30分ほどです。近くにコンビニやスーパーは有りませんが、吉野町には 原木市場や、樽丸職人さん、製材所、家具工房など建築関係者にとっては見どころが沢山あります。
写真
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After photo:国栖Core ゲストハウス空 https://kuzu-core.com/ku/
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最後に
この事例の改修では、これまで学んできた耐震・断熱・気密に関してほとんど手が出せないまま終わってしまっています。真壁の外壁は柱の際から外光が入るほどの隙間があるまま、アルミサッシは単板ガラスのままです。数ヶ所の窓にハニカムブラインドを入れて抵抗してみてはいますが、恥ずかしいほど何もできませんでした。それでも滞在する宿泊客に喜んでもらえるための優先順位として水回りの改修は必須と考え、そこは可能な限り手を入れました。そして予算は尽きました。今回の物件は借家であり、補助金の採択を受けることができたため、自己投資分は5年で回収することを目標としています。設計者の立場だったこれまでと逆転して、事業を自ら興していく側になると逆算で投資額を決める、という割り切りも大切だと身をもって実感しながら、新たな挑戦を楽しんでいます。
澤木 久美子
COPYRIGHT©Sawaki Kumiko, jutakui
No.0156 昭和な旅館の再生活用「理想はあっても現実は厳しい」国栖Core・ゲストハウス空(奈良県吉野町)
LINK
・ 澤木さんの活動「国栖Core」 https://kuzu-core.com/
住宅医協会
・住宅医協会HPからも澤木さんの動画や作品をご覧いただけます「住宅医の仕事紹介(オンライン)」 https://sapj.or.jp/movielist/
↑画像をクリックすると 動画「昭和な旅館の再生活用 理想はあっても現実は厳しい」をご覧いただけます
・各地の住宅医の日々No2「空き家を見ては妄想中」澤木久美子 https://sapj.or.jp/jutakuinohibi2021-02/
・住宅医の改修事例 №0048「筑紫が丘の家 2世帯で長く住まうための改修計画」澤木久美子 https://sapj.or.jp/kaishuujirei-2015-48/