空き家を活用した『まちづくり』 ~コラム2025年11月

中島 昭之 ( 住宅医協会理事 /一般社団法人インク会長・合同会社oguma社員 / 岐阜県 )

ここ数年、各地域でのまちづくりにおいて、空き家の利活用事例が増加しています。それに伴い、古民家の改修がまちづくりの中心的な役割を果たすことが多くなってきました。私が事務所を置く岐阜県美濃市にも、「うだつの上がる町並み」として国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている古民家の町並みが残っています(1999年指定)。和紙の売買などで栄えた商家町の町並みには、江戸時代後期の建物も数件現存しており、江戸時代から昭和初期までの古民家が統一感を保ちながら残る、古い町並みの雰囲気を味わえる場所となっています。
そんな魅力的な町ですが、私がこの町に関わり始めた2015年当初は、町並みの2割近くの家が空き家となっていました。

【 2015年当時 】伝統的建築物群保存地区に指定されている『うだつの上がる町並み』の空き家状況 
図1:一般社団法人インク

2015年当時、美濃市では古民家(空き家)を利用した店舗がいくつか存在していましたが、市の家賃補助が終了する3年後には閉店するケースが多く、お店が定着しない状況が続いていました。結果として、転入者よりも空き家が増え、町並みの活気が失われつつありました。
この状況を打開すべく設立したのが「一般社団法人インク」です。私たちは美濃市を中心とした空き家問題に取り組む中間支援組織として、以下の事業を展開し、活動を開始しました。

  1.  建物の調査: 建物の図面化や耐震・断熱性能、劣化状況などの報告書作成といった
    「住宅医」としての業務を行います。
    (年間約50棟、2015年~2025年の10年間で約500棟の実績)
  2.  DIYワークショップ: 可能な範囲でお客様と共に改修作業を行います。
  3.  移住者支援: 空き家の紹介や残置物処理のお手伝いを通じて、移住をサポートします。
  4.  地域おこし事業: マルシェ開催や空き家を活用したイベント企画・運営を行います。

特に「建物の調査」は、美濃市だけでなく東海地方を中心に全国各地で実績を重ねてきました。空き家、とりわけ古民家においては、図面や耐震・断熱性能、劣化状況が不明なことがほとんどです。「現状を正確に把握すること」が適切な改修を計画し、大切な古民家を次世代に引き継ぐための第一歩です。私は、建物を診断できる実務者が増えることが、空き家を有効活用するために最も必要なことだと感じています。

2015年から私たちは建物の調査を主軸に、町の空き家を活用したマルシェの開催や、地域の若い移住者とともに新しい祭りを立ち上げるなど、できる範囲で様々なまちづくり活動に携わってきました。しかし、「うだつの上がる町並み」は依然として観光地としては普段の人通りが少なく、新しい店舗が出店しては撤退するという状況に変化は見られませんでした。
そのような中、2017年頃から美濃市に寄贈された「旧松久才治郎別邸」の利活用に関する議論が始まり、2019年に「まちごとホテル(分散型ホテル)NIPPONIA美濃商家町ホテル」が誕生したことは、美濃市のまちづくりにおける大きな転機となりました。一般社団法人インクは、このホテルの建物の調査や設計、ホテルの立ち上げに携わってきました。
通常のホテルは、宿泊、飲食、土産物販売のすべてを一つの建物内で完結させます。しかし、分散型ホテルの考え方は、ホテルの棟にはフロントと宿泊機能のみを持たせ、飲食やお土産物などは町中の既存店舗を利用してもらうことで、「町全体がホテル」という体験を提供するものです。将来的には、町中に点在する空き家もホテルの客室として活用し、宿泊客からの利益が町全体に行き渡る仕組みを目指しています。(美濃市のNIPPONIAでは、ホテルの運営からスタッフまで、すべて美濃市民が担っています)。
このホテルが誕生して以来、美濃市のメディア露出が増え、全国の市町村からの視察も増加しました。それに伴い、町中の空き家の利活用が少しずつ増えてきたように思います。
最近では『うだつの上がる町並み』内で空き家が出るとすぐに借り手がつくようになってきました。現在の町の状況です

【 2025年 】 伝統的建築物群保存地区に指定されている『うだつの上がる町並み』の空き家状況 
図2:一般社団法人インク

近年、町には靴工房、クラフトビール店、アートギャラリーなど、魅力的なお店が増加し、2015年頃のような短期間での撤退事例も減少してきました。しかし、その一方で新たな問題が浮上しています。それが、空き家の老朽化による解体です。
美濃市では、持ち主が県外に居住している空き家が多く、所有者の知らないうちに建物が劣化し、倒壊寸前の状態になるケースも見られるようになりました。その結果、町並みに空き地が増え、かつての景観が損なわれつつあります。この空き家の老朽化と解体による町並みの崩壊は、今後の課題になってくると感じています。

住宅医としての仕事がきっかけでまちづくりに携わるようになってから10年が経ち、今ではまちづくりに関わるメンバーの中で私が最年長となりました。地元の若い世代や、意欲ある若い移住者が中心となり、非常に良い循環が生まれていることを実感しています。
以前は空き家というとネガティブなイメージが先行しがちでしたが、現在ではゲストハウスから店舗まで、地域の活性化に不可欠な要素となっています。地域の貴重な資源であり、後世に残すべき空き家や古民家を適切に維持していくためには、現状調査から改修に至る一連の流れが不可欠です。
全国各地で活動されている住宅医の皆さんも、ぜひご自身の地域のためにその専門性を存分に発揮していただきたいと思います。

毎年新しいお店が増え続けている美濃市へ、ぜひ皆さま遊びに来てください!
私「古民家おじさん」が、町歩きをしながらこれまでの活動についてお話しさせていただきます。

文章・写真:中島 昭之
 図:一般社団法人インク Copyright © Nakashima Akiyuki , jutakui


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・一般社団法人インク https://ink.oguma-co.jp/