№0051〜尾道市某寺本堂改修事例報告
報告:米田雅治/米田雅治一級建築士事務所
■物件概要
所在地:広島県尾道市
築年数:築約290年、約80年前に大改修、約20年前に屋根、天井の改修済み
構造規模:木造平屋建て
床面積:491.31㎡ (148.62坪)
改修部:491.31㎡ (148.62坪)(屋根・内陣外陣天井を除く)
増築部:7.36㎡
敷地面積:9243.05㎡(2796.02坪)
用途:寺院
本堂(調査前)
■敷地概要
敷地は小高い丘の上部にあり、ほとんどの建物が花崗岩質の丘を掘削した切土と建物南及び西側に石垣により盛土をされた平地の境内にある。建物北および東側は丘の地形を残した階段状の墓地になっている。本堂東側には高低差約9mの石垣の上に墓地がある。敷地に上がれる車道はなく、敷地南側の自動車用昇降機で上り下りする。
■行程概要
設計期間: 2010年1月 ~ 2011年1月
工事期間: 2011年4月 ~ 2014年1月(内約一年間は仏具屋さんによる内陣荘厳工事)
設計 米田雅治一級建築士事務所
施工 株式会社葉名組
■調査概要
調査日時:2010年6月25日
依頼主は、お寺の御住職。調査対象は本堂と庫裏を実施、今回は本堂のみの報告。
このたび内陣の御内仏を改修するととなり、その前に耐震改修と外陣を含む内装の改修を行うに当たり、詳細調査。詳細調査は、三澤先生、小原先生、辻先生はじめ、私と科目履修生2名、住宅医スクール生1名、MSD、Ms、関西大学の学生さんほか総勢20名。
調査項目
1. 建物の居住性:段差・通路幅
2. 温熱環境:各部位の断熱仕様
3. 劣化:内外の劣化状況
4. 構造:地盤(サウンディング試験)・床下基礎・小屋裏・柱・壁・常時微動
5. 採寸:平面・立面・展開・軸組図
■調査結果
床下状況は石場建て。一部布基礎。大引きに蟻害・腐朽箇所多数あり。北東部の柱脚部含水率多い。
屋根及び軒下、天井は20年前に改修しており問題なし。
壁は木舞描き桟竹壁 漆喰仕上げ
地盤:地盤調査(スェーデン式サウンディング調査)より健全な地盤と判明
■改修概要
1.耐震改修
べた基礎に改修。耐震壁改修及び新設。床組全面改修。小屋裏鉄筋水平ブレースによる水平構面補強。
2.断熱改修
次世代断熱仕様となるよう床、壁、天井に断熱材新設。外陣西側の内側に断熱樹脂サッシ新設、その他断熱アルミ樹脂複合サッシに改修。北側開口部に稼働ルーバー雨戸、稼働ルーバー格子。
3.バリアフリー改修
南側にスロープを新設。内陣⇔東側廊下等の段差解消。
4.高耐久化改修
落縁の床板を人工木に取替。本堂裏側下屋部の壁をサイディングによる外断熱の通気構法採用。床下換気をステンレス製基礎パッキンで通気隙間確保。
5.防犯改修
表側以外の開口部を雨戸、シャッターまたは格子付とする。本堂と渡り廊下入口は鋼製建具。既存防犯カメラの更新。
■工事概要
▼墨出し 2011年4月28日
▼床組撤去 2011年6月1日
屋根天井はそのままで工事開始。壁もとりあえずそのまま。
▼基礎配筋工事2011年6月11日
礎石に差筋。以前の改修で腐った柱脚を切断し、礎石を重ねているため、ベタ基礎立上りで一体化。
▼1回目(内陣)のコンクリート打設 2011年6月15日
面積が大きいので、4回に分けてべた基礎を打ち継。高低差10mで60m離れた場所よりコンクリート圧送。
▼2回目(外陣)のコンクリート打設 2011年7月6日
▼基礎立上り配筋 2011年8月5日
以前の改修で柱脚が短くなっているため、コンクリート立上りが地貫の代わりとなる。コンクリートと柱はステンレス基礎パッキンで20mmの隙間を開けて通風を確保。
▼床組工事 2011年11月4日
▼壁補強工事 2011年12月10日
既存の壁の補強だけでは壁量が足りないため、建物角の開口部を耐震壁とし、さらに垂れ壁も使って門型のトラス構造として構造計算。
▼小屋裏水平構面補強工事 2011年12月10日
▼増築部軸組工事 2012年3月21日
▼増築部屋根工事 2012年3月27日
▼木工事 2012年4月3日
耐震壁Jパネル取付。
▼壁断熱工事 2012年4月27日
表側の壁は筋違隙間をポリスチレンフォーム90mm充填でJパネルを挟み込んだ真壁。
▼裏側下屋外壁工事 2012年6月5日
裏側下屋は内側既存土塗真壁補修で外側は外断熱サイディング貼り。
▼内装工事 2012年6月5日
天井は既存のまま。
▼内陣床板取付工事 2012年6月5日
既存の床板を再生し取付。この後仏具屋さんが摺り漆仕上げ。
▼増築部サッシ工事 2012年7月2日
▼内装樹脂断熱サッシ工事 2012年9月20日
本堂正面外側の既存木建具はそのまま。
▼広縁床板再生工事 2012年10月2日
▼空調設備工 2012年11月16日
▼内陣御内仏荘厳工事 2013年1月10日
これから約一年間、内陣既存天井以外の絵付け、漆塗り、金箔貼り等の荘厳工事に入る。
▼内陣御内仏荘厳工事 2013年10月11日
▼引き渡し 2014年1月14日 設備機器取説。
完成写真 ▼西側正面外観
▼南側増築部外観
▼北側外観
▼正面人口擬木の落ち縁
▼東側外観
▼内陣
▼内陣床:再生松板に摺り漆仕上げ
▼外陣
▼外陣
▼外陣
▼外陣脇間
▼増築部スロープ
▼増築部スロープ
▼内陣裏廊下:流し台
▼内陣裏廊下:壁Jパネル表し
耐震性能確認
本堂改修工事完了後2014年5月3日(土)に、改修後の耐震性能を岐阜県立森林文化アカデミーの小原先生に常時微動測定により確認。
【改修前】
固有振動数は、東西方向で1.6Hz 程度であり、南北方向で1.5Hz 程度である。最近の一般2階建て住宅の固有振動数は5.5~6.5Hz 程度であることを考えると、非常に低い剛性を有する建物であった。
【改修後】
固有振動数は、東西方向で2.7Hz 程度であり、南北方向で2.4Hz 程度である。最近の一般2階建て住宅の固有振動数は5.5~6.5Hz 程度であることを考えると、非常に低い剛性を有する建物である。ただし、改修後については、当該建物重量と試験住宅重量の相違などを考慮すると、√5 倍、すなわち5.4Hz程度であると推定できる。
■温熱環境性能確認
温熱環境が次世代断熱をクリアーしているかどうかを熱損失係数(Q値)を算定し確認した。改修前のQ値は7.88W/㎡Kであったが、改修後は2.30 W/㎡Kで次世代断熱の2.70 W/㎡Kをクリアーできた。
【改修前】
一人で事務所を開いて間もなく、実家のお墓のあるこのお寺の木造本堂改修設計の依頼がありました。木造本堂新築の経験はあったものの、改修は初めてで試行錯誤していました。当時(2009年)MOKスクールに参加していた私は、三澤文子先生に相談したところ、岐阜森林文化アカデミーで、(住宅医スクールの前身でもある)木造建築病理学科目講座をしているので履修してはというアドバイスをいただき、その春に早速参加し、担当実習をこの本堂でさせてもらいました。
遠い尾道まで岐阜や大阪から先生方や学生さんも来てもらい、調査報告書や現況図面をみんなで作成し、大変助かりました。一人では大変であったであろう調査や設計を1年で終わらせることができたのも、皆様のおかげだったと思います。良き御縁をいただき大変感謝しております。これも本堂の阿弥陀如来様のお導きだったのかもしれません。御住職様、調査にかかわられた方、工事関係者様ご協力本当にありがとうございました。
また、本堂を利用される御門徒の方々には、冬寒く、夏暑かった本堂が快適となり大変喜ばれているとのことです。