各地の住宅医の日々№62 つむぎ、つむぐ。⻄原の古⺠家から始まったこと
谷口 護(住宅医 / 株式会社エヌテック / 広島県)
私の住む広島市安佐南区⻄原は、太⽥川のデルタ地帯にあります。かつては広島城下へ野菜を供給する農村でしたが、今は若い世帯が増え続ける住宅地です。新しい家は増えていますが、古い家は静かに消えていきます。解体しか選べない現実のなかで、街は少しずつどこにでもある⾵景へと姿を変えていきます。その光景に、私はずっと違和感を抱いていました。

航空写真:国土地理院ウェブサイトより https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html
そんな折、とある縁をきっかけに近所の空き家の古⺠家を改修することになりました。地域で保育園を運営する経営者と意気投合し、改修した古⺠家を活⽤してみんなの居場所づくりをしていくというプロジェクトです。と⾔っても予算が潤沢にあるわけではなく、まずは市の補助⾦を活⽤して耐震改修をメインとした⼯事を実施しました。安⼼して過ごせる状況を確保したのち、⽉1 回のワークショップ「ゆるま〜れ」を開催して、床板を張ったり珪藻⼟を塗ったり収納棚を作ったり障⼦紙を貼ったりと、ボランティアの運営チームとともに、内容を考え続けています。
2021 年5 ⽉から始めたワークショップは、2026 年2 ⽉で56 回⽬を迎えました。⼀度きりのイベントではなく、少しずつ「⽇常」になってきたことが、何より嬉しい変化です。⻑く続けていくためには、資⾦のことや参加者の集め⽅など、乗り越えるべきこともありますが、参加する家族を⾒ていると、古⺠家という⽇本建築が潜在的に持つ魅⼒を再発⾒する機会が多々あります。ワークショップでは、実際に⽊や⼟や紙に触れる体験がとても好評です。

© 西原古民家「つむぎ つむぐ」

© 西原古民家「つむぎ つむぐ」
珪藻⼟で⼿も服も真っ⽩になる⼦ども。
のこぎりで切った⽊くずの⾹りに「懐かしい」とつぶやく⼤⼈。
障⼦紙を貼り換えるときの、あの静かな緊張感。
年齢を問わず、誰もが夢中になります。いつでも⼿に⼊る材料を使って、⾃分たちの⼿で家を⼿⼊れする。そんな当たり前のことが、いつの間にか難しくなった住まいに暮らす⼈にとって、とても新鮮な経験となっているようです。⾃分たちで⼿を加えた空間がそれぞれのお気に⼊りとなって、本来の⾃分でいられるような居場所が新たにできているのであれば、これほど嬉しいことはありません。畳敷きの続き間を素⾜で駆け抜け、縁側を⾏ったり来たりする⼦どもたちの姿を⾒ると、現代の住宅建築に失われた⼤切なものを古⺠家が静かに⽰してくれているようです。建物の寿命を延ばすことは、地域の記憶も延ばすことでもあるのだと、この場所で気づかされました。古⺠家を直しているつもりが、直されているのは私たちのほうかもしれません。

© 西原古民家「つむぎ つむぐ」
地域との関わり合いが希薄になりつつあるのは全国的な現象ではありますが、運営の⺟体として保育園事業者が関わってくださっていることは、⼼強い⽀えです。ワークショップのない⽇は、フリースペースとして古⺠家を開いています。それが活動を⽀える⼤切な財源にもなっています。また、古⺠家の活動コンセプトに賛同いただいた⽅を「つむつむファミリー」と称して会員を募集しています。
⻄原という地域に暮らしながら⼯務店も営む⾝としては、このような活動を通じて地域の素晴らしさやふさわしい街並みや環境の⼤切さを学ぶ姿勢を忘れずに、このまちで建物と⼈々の声を聴きながら、いつまでも関わり続けていきたいと思います。
文章・施工写真:谷口 護
Copyright 2026 ©エヌテック,西原古民家つむぎつむぐ,住宅医協会
オープンスペース⻄原古⺠家 つむぎ つむぐ:https://nishihara2626.jp/
これまでのワークショップの様⼦:https://nishihara2626.jp/past_event_category/workshop/
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