№0065〜千葉県「平久里中の古民家再生」

 
改修事例報告
報告:松井郁夫建築設計事務所/松井郁夫氏
 
 
設計主旨
房総半島の山中に建つ、木造平屋建ての古民家の耐震エコ改修である。オーナーの要求は、自然が満喫できる現代的で快適な空間を実現するとともに、母上の保養を兼ねた住まいとしてのやすらぎのある室内環境も必要とされた。
 

改修前外観


 
建物は、この地域の典型的な形態である寄棟の屋根に式台玄関が付く珍しいつくりであった。実測調査の結果、棟木の墨書から明治40年築(110年前)の古民家であることが分かった。土台は敷設されているが、足固め併用の石場置きである。床に多少の不陸は見られたが、小屋組の構造は健全であった。
 

実測野帳はその場で清書する


 

床下に潜って伏図を採る


 

改修前の床下・足固め土台併用


 
 
そこで、屋根瓦を乗せたままのスケルトン改修とした。床をはがしてみると、土台は意外に健全であったためそのまま使用することとしたが、足固めは、松材8寸の挟み材で太いボルトで締めてあって、裏山の湿気で鉄が結露した痕跡があり、松材のため虫食いが激しかった。そのため120角の桧の足固めを輪内でクサビ打ち、込栓止めとして取り換えた。足元とはいえ、できるだけ金物を使わない木組仕様である。
 

床下で結露していたボルト穴


 
問題は、石場置きのまま耐震改修できるのかということであった。通常、古民家は100年以上もの長寿命にもかかわらず、通常の許容応力計算では正しく評価することができないため、耐震改修時には現代工法と同じようにコンクリート基礎にホールダウン金物を設置されてきた流れがある。
わたしは、これまでに経験してきた古民家調査や2007年から実施されている伝統的木造住宅の実大実験に参加してきた経緯から、日本の木造住宅は、木の特性である「めり込み」と「摩擦」によって力を「減衰」することで、粘り強く地震や風に耐えるのであり、土壁や貫、足固めは、改修時にやめてはならない大事な部材であると考えている。
今回、滋賀の川端氏の協力を得て、「限界耐力設計法」によって構造解析を行い、地盤が良いこともあって、土壁を残し足固め貫をそのままに、石場置きのままに耐震改修が可能となった。
 

改修した足固め


 

復元力特性と応答値の関係


 
 
繰り返しになるが、古民家改修は在来工法の建物と違い、木の「めり込み特性」を理解した上で、足固めを重要視し、「貫をやめてはいけない」。つまり復元力特性のある木組みの家には、金物は使うべきではない。金物は復元力がなく、木という母材を壊すからだ。
今回、住宅医ネットワーク事務局滝口氏の協力を得て、実測調査を進め、大切な架構を残しながら、現代的な室内をデザインすることができた。性能面では岐阜森林アカデミーの辻氏の計算ソフトを使ったエコ改修の数値を明らかにし、燃費計算まで算出できたことも、大きな成果であった。
ちなみに、既存のままでは熱損失係数Q値10.54W/㎡Kであった建物が断熱改修によってQ値2.39W/㎡Kまで達成できることが計算上ではあるが確認できた。また、計算には乗らないが湿気対策として、吸放湿性能に優れたゾノトライト系ケイ酸カルシュウム板を全室の天井裏に使用し、断熱、耐火、脱臭の効果も得られた。
古民家改修が、耐震とエコの両面から、さらに長い時間を生きる「社会的資産」となり、これからの日本の木造住宅を考えるうえで、未来の指針となる事を願っている。
「むかしといまをみらいにつなぐ」知恵と工夫は古民家にあると思う。

松井郁夫

 
 

改修後の外観


 

納戸を改修した浴室


 

抜けない柱を残して改修