№0058〜東京都「シニアの終の棲家リフォーム」改修事例報告

報告者:株式会社アトリエ・ヌック建築事務所 勝見紀子

・設計 監理:株式会社アトリエ・ヌック建築事務所
・施工:当麻工務店
・設計期間:2013.06~2013.12
・工事期間:2014.01~2014.04
・所在地:東京都青梅市
・建築時期:1989年
・構造:木造軸組2階建て
・床面積 1階58.38㎡(既存48.61㎡+増築9.77㎡)、2階44.47㎡
計 102.85㎡/31.11坪

■建て替えか改修か
子育て期に建築条件付き建て売りで購入した住宅。25年間、塗装などの化粧直しや修繕を行わないまま来てしまい、建て主さんは建物の耐震性や劣化に不安を感じていました。夫婦二人の安心&快適なシニアライフを叶えるのに、建て替えた方がよいのか、改修で済むのか、二つの選択肢を前に迷われていました。
調査を行い検討の結果、基礎はしっかりしていること、補強を施せば安心できるレベルまで耐震性を向上させることができること、外部の劣化修繕は全面的に必要なこと、少しの増築と元の躯体を生かしながら間取り変更を行えば、1階だけでの生活も可能であることが、予測できました。
建て替えた場合と、上記の改修を行った場合のそれぞれで工事費概算を行い、改修は建て替えにかかる費用の7割程度で済むであろうと試算でき、改修で進めることに決まりました。建て替えの場合は解体費用がかかり、工事期間が長くなるため仮住まい費がかさみます。また、直す必要性の低い2階の過半も残せないなど、余計な費用を掛かってしまうことが、改修に踏み切る決め手となりました。
■耐震補強と間取り変更
新耐震後の建物でしたが、壁量不足、バランス不良、金物の不足がわかり、耐震性は現況基準に満たない状態でした。また、荷を背負った大梁を梁で受けるまど無理な床架構があり、間取りを変更しつつ柱を足しこれらを改善しました。補強により耐震診断評点が、概ね1.5を上回る計画としました。
当初、趣味室兼将来の寝室として、建て主さんは和室の増築を望んでおられましたが、重ねての検討の結果、「リビングヌック」と名付けた5畳大の板張りスペースを南側に増築することに落ち着きました。調度品や絵画を飾る和室は独立性が高すぎ部屋の広がりを損なうこと、介助が必要になったとき高齢者のスペースとして、和室は不都合も多いことが理由で、広間と緩やかに区切ったリビングヌックには、将来ふたつのベッドが置けるような計画としました。
夫人の不満の種であった、居間から離れた壁向きのキッチンも、大幅に位置変更し、広間に対面してリビングヌックや庭を望める配置としました。併せて、水回りを経由し回遊できる間取りとしたことで、家事の煩わしさが軽減したとのことです。
■収納とインテリアデザイン
この家のインテリアデザインの要は、ご主人が好きで集めた民芸調家具や絵画・陶器です。自然素材の床・壁・建具は、これらが映える落ち着いた色合いの構成となりました。
調度品から日用品まで、要所要所に十分な造り付け収納を設けたことで、物を簡単には処分できない高齢者の暮らしに寄り添うことができています。
■効果を発揮した温熱改修
建て主さんにとって、冬の寒さをどうにかしたいとの思いも、大規模改修を考えた大きな理由でした。壁床天井に一応断熱材はあったものの、当然貧弱な状態で、冬の朝の居間の室内温度は5℃まで下がっていたとのこと。間取り変更を行わなかった2階の外壁を除き、外気に接する床・壁・天井の断熱を強化し、既存窓を生かした部分には内窓を追加し、新たなサッシは複合樹脂サッシを採用しました。これらの改修効果は大きく、無暖房状態でも冬朝の室温は15℃を下らず、主暖房の石油ファンヒーターの灯油代がシーズン当たり2万円下がり、エアコンの運転時間が少なくなったことで、年間の電気代も2万円下がったとのこと。何よりオープンな間取りと高断熱の組み合わせにより部屋間の温度差が無くなり、思った以上に快適との感想をいただきました。

平面図 改修前

平面図 改修前(クリックで拡大)

 

平面図 改修後

平面図 改修後(クリックで拡大)

<改修前>
01
南側に窓が連続し耐力壁が不足。木工作家にオーダーした漆塗りの食卓セット。

02
居間から離れ壁に向くキッチン。雑多な品々が溢れていた、収納不足のスペース。

03
寒さの厳しい在来の浴室と、設備配置が悪く狭く片付かない脱衣所

04
ドア、引き戸敷居部分で、床と段差。

05
勾配のきつい蹴上22cmの階段。

06
建て主さんの好みでない玄関のつくり。屋根と2階外壁の取り合いで水平谷。

07
25年間メンテナンス無しで、劣化した屋根葺き材

08
湿気がちな土の床下。基礎は健全。

09
小屋裏部分東側。天井断熱は50mmのグラスウール敷き詰め

10
北葺き下ろし部分。小屋裏換気取れておらず野地板合板が腐朽。

11
バルコニー立ち上がり部分軸組。笠木部分からの漏水により木部腐朽。

12
解体時に露見した蟻害が、床下に2か所

<改修工事>
13
根太・大引きの床組を取り除き、防湿コンクリート打設
14
新規耐力壁足元に基礎新設

15
間取り変更により、梁の補強と耐力壁新設

16
劣化したセメント系屋根葺き材はそのままに、上から新たな野地板張り+金属板葺き

17
新規小屋裏断熱は、セルロースファイバー200mmを吹き積もらせ

18
増築部分屋根断熱にセルロースファイバー。
外壁は既存部共グラスウール100mm+防湿シート。

19
1階床断熱。セルロースファイバー(120)吹き込み

<完成後>
001
南側増築に合わせ、玄関の屋根も建物に馴染む形状に造り替え。
ポーチは、門扉を引戸に替え、階段を集約し昇降しやすい高さに。
将来車椅子使用の際は、駐車場よりリビングヌックへ直接の出入りを想定。

002
広間より玄関方向を見る。新たな格子壁と耐力壁で、増築部を緩やかに仕切った。

003
広間北方向を見る。民芸家具など調度品が映えるインテリアに。

004
増築したリビングヌック。将来は両脇に二つのベッドが置けるサイズで設計。パーティションで広間から区切られるよう、天井面にカーテンボックスを切っている。

005
デスクと本棚。たくさんの資料や書籍と、パソコン&周辺機器塁を集約して配置できるようになり、雑然とせず管理が行き届くように。
デスク後ろの引き戸は、冷暖房時に階段を仕切る役割。

007
既存のコーナー出窓はそのまま生かし、樹脂内窓を設置し断熱化した。

009
キッチンはⅡ列型とし、流し台部分が広間に対面する。既存出窓は手前に内窓設置し、陽の当たる乾燥棚の役目を持たせた。

010
キッチンからパントリーに通じる戸と、造り付けの食器棚。

011
勝手口とパントリー。設計時提案するも、どんなふうに使えば…と戸惑いの言葉があったが、ストック品・分別ごみ置き場・冷暗所としてなど、今は「使い勝手よく、なくてはならない場所」との評。脱衣所にも通じ、回遊動線の要位置。

012
広く取った洗面脱衣所。洗面台はたっぷり収納と合わせ造り付けに。

013
玄関の土足使用の納戸。内と外の境界である玄関は、物が集中する場所で、パントリー同様、小ぶりながら大活躍の収納室。扉を設けず暖簾で目隠し。

014
架け替えて一段増やし、緩やかにした階段。手摺と段鼻のノンスリップが、高齢者には必須。

015
リビングヌック掃出し窓。サッシは既存品を再設置し、内窓は複層ガラス入りの木製格子戸で制作。インテリアデザインのポイントとなった。框下端や召し合わせ部に施した気密の工夫が効き、冬の夜でも暖かい場所に。