№0048〜「筑紫が丘の家」2世帯で長く住まうための改修計画

報告:澤木久美子/アトリエ空一級建築士事務所

物件概要
■所在地 神戸市北区
■地域  第一種低層住居専用地域
防火地域指定なし
■建蔽率 50%
■容積率 100%
■建築年 平成2年1月(改修時築22年)
■構造・規模 木造在来 2階建て
■敷地面積 55 ㎡
■建築面積 68㎡(41.8%)
■床面積
面積表
■主な外部仕様
屋根     コロニアル葺
外壁     サイディング張り
開口部  アルミサッシ(シングルG)

立地条件
・神戸市北区の郊外型の住宅地
・六甲山の北側で標高が約372 m
・市内より3~4℃気温は低い
・夏はあまりクーラーを使わない
・冬はかなり冷える
・南隣家が迫っている
・西が前面道路、東は水路と擁壁
航空写真UP

改修の与条件
・息子家族(夫婦+幼児)との同居=相談時独居
・とにかく寒いので何とかしたい(床暖房を希望)
・リビングダイニングが暗いので何とかしたい
・細かな段差をなくしたい
・浴室の寒さとカビを何とかしたい
・できれば対面キッチンにしたい
・駐車場からのアプローチの段差をできるだけ解消したい
=車いすやベビーカーが通れるように
・2階にもトイレが欲しい
・耐震性や漏水の心配が無いようにしておきたい

現況の調査・把握
「男ヤモメに〇〇がわく家ですが・・・」とのお電話の言葉に覚悟して伺った。奥様が亡くなられてから、「掃除も炊事も最低限のことしかする気になれなくて」と過ごしてこられた様子。
今回の改修は、ご長男家族との同居を決められ、「私は書斎兼寝室が1室あればいいんです」と。
ご長男御家族(打ち合わせ期間にお一人増えて、4人家族)も一緒に打ち合わせを進めた。
筑紫が丘の家(改修前1階)

1階
・南に隣接する住戸の陰になり、リビングは日当たり乏しく、薄暗い
・ドア下の沓摺が段差となって障害
・床下は特にキッチンの下が湿っぽく、配管の漏れも見られた
・浴室周りは確認できなかったが、在来であるため腐朽を予測

筑紫が丘の家(改修前2階)

2階
・一番日当たりの良い南の部屋が納戸として使用され、窓も小さめの腰窓のみ
・廊下、階段、納戸部屋と2階の中心が効率悪く使い勝手が良くない
・バルコニーの排水が悪く、階下に過去雨漏りの痕跡有り

間取り変更
 1階     書斎をご主人の個室とするべく、畳床をフローリングとし、リビングとの間に壁を設置
キッチン周りを一部増築して、対面キッチンを実現
浴室は在来を撤去して、ユニットバスを設置
1階改修後平面図
(赤は、改修開口部と耐震改修対象壁、水色は増築部分)

2階     玄関上部の吹き抜け部に床を設け、トイレを増設
廊下と納戸の間の壁を撤去し、子供家族がフリーに使えるホールとした
子供室は将来分けられるように、入口は2箇所設置
2階改修後平面図
(赤は、改修開口部と耐震改修対象壁、水色は増築部分)

劣化対策
屋根     高圧洗浄+塗装
屋根高圧洗浄前 屋根洗浄後
(現況)                                                    (高圧洗浄後)

外壁     洗浄+塗装、コーキング入替                 破風・鼻隠し    取替+塗装
外壁コーキング入替前 破風・鼻隠し入替

1階床下地       入替(大引、根太)                    浴室周り          下地入替、柱継
1F床下地入替 浴室周り:柱継

耐震補強
耐震補強(現況1F

改修前 1階 (赤い点線は2階)
 筋交いケサ(1.5)
 筋交いタスキ(3.0)
当初の壁量計算では、建物から外部に出た袖壁も含まれていた。これを入れて一般診断した結果は評点【0.76】となったが、除いた場合を試算すると【0.45】と不安な数字となった。
耐震補強1階

改修後 1階 総合評点 1.10
改修は、袖壁を考慮に入れず、新規壁で補強を行い、特に2階の乗る南東角を強くすることを意識して壁を配置した

耐震2階
改修前 2階

耐震補強2階
改修後 2階
2階も1階と同じく、袖壁は耐震壁として換算せず、3ヶ所の新規設置壁でY方向を補強した

断熱補強
断熱補強

改修前 Q値 7.5(Q-pex既存評価方法による)
改修後 Q値 1.99

開口部  新設窓=アルミ樹脂複合サッシ+普通ペアガラス 熱貫流率 3.49
既存窓=全てに内窓樹脂サッシ+普通ペアガラス 熱貫流率 2.33
(既存アルミ+シングルG算入)

既存天井・壁(GW10K、t50)                       セルロースファイバー充填
現況小屋裏(断熱) 工事中2F壁(セルロース吹き込み後)

既存床下(スタイロフォームt25)                      根太間 EPS t75 充填
現況床下(断熱) 床断熱工事

気流止め                                                          (乾燥木材 設置後)
現況土台周り 工事中土台周り(気流止施工後)
<室温実測結果>
元々あまり暖房されない暮らし向きのようで、室温としては低めだが、温度変化が少なく断熱効果は充分発揮されている結果となったようだ
WADA温度実測グラフ

昼光利用
2階の既存腰窓を床までの縦滑り出し+FIX窓とし、2階床に開口を設け、1階の光天井となるよう、格子にポリカーボネート板をはめ込んだ

昼光利用
竣工6・2Fホール 竣工4・1Fリビング(採光天井)
2階の明かり採り窓と床開口                              1階リビング見上げ(光天井)

竣工3・1Fリビング 竣工5・1Fダイニング-キッチン
明るくなった1階リビング                                  対面キッチン

通風・日射遮蔽
竣工1・外観  竣工2・玄関
西日がよく当たるが、良い風も西から吹いてくる
既存の雨戸を、ブラインド雨戸に取替
玄関ドア横に通風窓設置
(外部固定ガラリ+木建内開きペアガラス扉)

段差解消
段差解消・ドアは引戸に
室内建具は基本的に引き戸とし、沓摺は撤去した

外構まわり
植え込みで行き来できなかったガレージとの間を、植え込みを撤去の上スロープとした
駐車スペースも広げて、2台分確保

リフォームを終えて
初めてご相談頂いてから、ゆっくり打ち合わせを進めている間に息子さん家族には二人目のお子さんが生まれた。家族の形態は日々変化するものであり、柔軟に対応できる住まいであることを念頭に置きながらのプランの提案となった。
長く安心して住まうために必要な耐震性やランニングコストの問題は、すぐに実感してもらえない部分もあるかもしれないが、暮らし方のアドバイスも含め、より快適に過ごしていただくためのご相談を今後も続けていきたいと思う。