住宅医の改修事例№167「継承のパッシブ・ベースin高知」記憶を継ぐ改修と、未来に備える耐震技術

萩野 裕一住宅医 / CROSS建築設計事務所 / 高知県


Photo by サンカメラ建築写真部

【建築概要】
・構造 / 築年数:在来軸組2階建 / 築29年(2025年時)
・建築面積:122.15㎡ 延床面積:196.81㎡
・用途地域:近隣商業地域 法22条区域
・用途:住居(夫婦2人 子供1人)

・耐震性能:上部構造評点 Iw 0.32 → 1.60
・地域区分:高知県 7地域(蒸暑地) 日斜区分 A5,H4
・温熱性能:UA値2.14W/㎡K → 0.53W/㎡K ηAC値1.3
・設計一次エネルギー(戸・年): 68.7 GJ → 53.2 GJ
・補助金:先進的窓リノベ2025事業を活用

・詳細調査・改修設計・監理:CROSS建築設計事務所 / 萩野裕一・大和敦子
・施工:楽建築工房 / 長崎哲也・長崎亜紀

改修までのストーリー

今回の住まい手さんは、住宅医の萩野裕一さんが、かつて設計された「自立循環型住宅(パッシブエコハウス)」で育った施主の息子さんからのご依頼だそうです!
住まい手さんご家族は当初、新たに土地を購入し新築する計画でしたが、予算の都合と、祖母が遺した家の立地や環境から「祖母の家」を受け継ぐ決断をされました。パッシブエコハウスで育った息子さんが、時を経て…どんな暮らしをされる事となるのか、萩野さんが豊富な計画資料と共にまとめて下さりました。(住宅医通信編集部)

既存建物詳細調査

住宅医による3次インスペクション調査
住宅医による性能向上診断、劣化対策、耐震性、温熱性、省エネルギー性、バリアフリー性、火災時の安全性など、3次インスペクション調査を行った。


強度の計測
床下調査 小屋裏調査

 

調査の様子

調査時の既存住宅は築29年、建築家の設計で意匠性が高い。外部木部の劣化や、外壁や軒天に雨漏れ跡がある。基礎は鉄筋探査と強度を測定。一部にジャンカはあるが全体的に良好。床下の調査では断熱材が落ちていた。(調査日:2023年12月13日 晴れ)



外観(西面)

和室B

基礎:ジャンカあり 全体的にクラックなどはない

2階 西デッキ:木部劣化箇所あり

基礎:コンクリート強度計測39N/㎜

基礎:鉄筋あり

倉庫:ガルバの継ぎ目から雨漏り跡あり

倉庫:雨漏り跡

床下:断熱材が落ちている

小屋裏:筋交い、断熱材あり

 

改修前 建物性能

Before
改修前:住まいの診断レポート(性能診断結果概要シート)
Before
  改修前 所見 拡大表示 

改修計画のポイント

 1. 二代にわたる信頼と継承
今回の依頼者は、かつてパッシブエコハウスを設計した施主の息子さん。
親世代:自立循環型住宅としての設計実績(設計者キャリア初期)
子世代:元の家の良さを知るからこそ、再依頼へつながる
設計者として、時間を超えて価値を継承する稀有な機会となった。


 2. 「過酷な日常を癒す家」を目指して
ご夫妻は共に看護師。勤務時間も長く、身体・心の回復の場としての住宅が求められた。
開放的な景観(田園と大型商業施設のはざま)を生かし、自然と利便のバランスを設計に反映。


 3. 南海トラフ地震を見据えた耐震性能の確保
ハザードマップ上では津波浸水区域外
南海トラフ巨大地震を見据え、一般的な補強基準を大きく上回る評点1.6以上を目標値に設定。家族の命と、被災後の生活拠点としての機能を担保します。
ピロティ状のインナーガレージの拡張を行いながら、構造補強も兼ねる設計とした
床面積は増えないが、構造性能と生活の質は大きく向上

液状化
出典:高知県防災マップ液状化可能性予測図より(2025年時)液状化の可能性は低い。
土砂災害
洪水・土砂災害(2025年時)洪水による浸水0.5~3.0mと想定される。土砂災害の危険性はない。
水害
震度分布より(2025年時)
0.3~1.0mの津波が予想される。〇〇〇
水害
震度分布より(2025年時)
最大クラスの地震が発生した際、震度7が予想される。 

 4. 融資・予算との調整
住宅ローンの可否が当初の大きな課題だったが、段階的に設計案と資金計画を調整。改修でありながらも新築に近い快適性・性能を目指した。


 5. 建築家の元設計を尊重
祖母が暮らしていた既存住宅は、以前建築家が設計したもので意匠性が高い。それを尊重しながら、現代の生活と性能に対応できる住まいへ変換。


Before 1階平面図

2階平面図

改修計画 プラン

After 平面図
改修後1階平面図 © CROSS architectural design office

改修後2階平面図 © CROSS architectural design office

改修後 X1 断面図 © CROSS architectural design office

改修後 立面図 © CROSS architectural design office
  • 継承: 親子2代の縁、先代の建築家のデザイン、祖母の家、そして太陽光などの先駆的な思想をすべて受け継ぐこと。ピロティ拡張によるガレージ・半外部空間の利用。
  • パッシブ: 住宅医として担保する「耐震1.6」の強靭さと、自立循環型住宅から続く「温熱性能」の両立。
  • ベース(基地): 看護師として働くご夫婦が、料理や薪ストーブ、アウトドアを楽しみ、過酷な日常から解放される「癒しの拠点」であること。

建物の性能向上計画

耐震計画
耐震補強を行う事により 上部構造評点Iw0.32 → 1.60 に向上。下記図は伏図。


Before

2階床伏図 , 小屋伏図 竣工図より
After2階床伏図 , 小屋伏図
© CROSS architectural design office

 

上部構造評点 改修前

精密診断法による改修前の上部構造評点は 0.32
判定:倒壊する可能性が高い。
改修後

改修後、精密診断法による上部構造評点は 1.6
判定:倒壊しない。

 

耐震 施工写真 
車庫腰壁

新設配筋状況 © CROSS architectural design office

筋交い

外壁下地耐力面材(タイガーEXハイパー)

アンカーボルト新設
筋交い 金物補強:剛性火打ち

● 温熱性能

温熱 施工写真
基礎断熱:(A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b)t=50㎜

壁   :高性能グラスウール 16kg t=105
天井:高性能グラスウール 14kg t=155

 

Before 部位別 熱貫流率
天井 U値 0.51W/㎡K
■白い文字床 U値 1.24W/㎡K ■白い文字窓 U値 5.06W/㎡K

After 部位別 熱貫流率
天井 U値 0.20W/㎡K
■白い文字床 U値 0.36W/㎡K ■白い文字窓 U値 1.40W/㎡K

主要部位の熱貫流率を改善することが出来た。開口部は窓リノベ補助金を活用している。


災害への備え
私たちは今、災害という現実と隣り合わせの時代を生きています。だからこそ、この住まいには「美しさ」だけでなく、「耐え、守る力」を込めました。ここで育つ子どもたちが、変化の多い時代の中でも、しなやかに、そして逞しく歩んでいけることを心から願っています。


薪ストーブの背後の仕上げは特定不燃材 ガルバリウムスパンドレル ZiGを採用
検査時にサーモカメラで確認
薪置き場は大きめにスチール角パイプで製作した軽四2台で3往復してこの量です。10日ほどで前列の半分ほど使ったそうです。

 


省エネルギー 性能


照明:LEDに変更。消費電力の削減と長く使用する事が出来る。
グリーンファン:第三種ダクト式換気、換気性能の安定性と維持管理の容易さからいつも採用している。赤丸は給気、緑の丸は排気口 既存の太陽光パネルを活用
写真は改修前の様子

 

下図は、光熱費の分析。標準値(統計値)よりも使用エネルギーを削減することが出来ている。電気使用量を大きく下げることにより光熱費の負担を減らし、環境にも寄与している。


図1:事例№167光熱費を分析

図1:「環境デザインサポートツール」(環境履歴書)を使用 ・書式:「すまいの診断レポート 」ver.2022
資料まとめ 2025年 CROSS建築設計事務所


温熱性能の比較

熱損失計算結果シート
Before

図2 事例 №167 改修前 熱損失計算結果
グラフは 部位面積と熱損失割合(換気除く, (換気含む)
After
図3 事例 №167 改修後 熱損失計算結果
省エネ地域区分7地域 玄関土間の堺を熱的境界として計算を行っている。グラフは 部位面積と熱損失割合(換気除く), (換気含む)
日射熱取得率 計算結果
Before

図4 事例№167 改修前 (日射取得結果シート)よりグラフを抜粋

グラフは Before冷房期:部位別 部位面積と日射熱取得割合, 方位別 部位面積と日射熱取得割合
日射熱取得率 計算結果
After

図5 事例№167 改修後 (日射取得結果シート)より抜粋

グラフは After冷房期,暖房期:部位別 部位面積と日射熱取得割合, 方位別 部位面積と日射熱取得割合, 省エネルギー基準判定
一次エネルギー使用量計算


Before 


After 

図6 事例№167改修前と後 判定を抜粋

改修後の判定は すべて「達成」 

図1.2.3.4.5:「環境デザインサポートツール」(熱損失計算シート)(日射取得計算シート)使用/書式:「すまいの診断レポート 」ver.2022
図6: 国土交通省・国立研究開発法人 建築研究所「住宅版 省エネ計算プログラム」使用
資料まとめ: CROSS建築設計事務所 2025年 

 

改修後 レーダーチャート

After
改修前の建物性能:ピンク、改修後:ブルー改修後:住まいの診断レポート(性能診断結果概要シート)
After
改修後 所見 拡大表示 

改修後の建物性能は、耐久性(劣化対策):等級3、耐震性: 等級3相当、温熱性:断熱等性能等級5、省エネルギー性:一次エネルギー消費量 等級6、全ての性能向上を行うことができた。

photo 

Before 

■■■■■■
外観
腐食していた2階デッキを撤去し、駐車スペースが広く安全になりました。

After


外壁はガルバニウム鋼板M型スパンドレル 下地はタイガーEXハイパー 断熱材は吸音効果とコストを考えて高性能GW16kg

 


Before 

■■■■■■
土間
かつての玄関を土間空間とし、使い勝手の良い収納部屋が隣接している

 

After


工務店さんがタイルのモックアップを作ってくれました
薪ストーブの背後の仕上げは特定不燃材 ガルバリウムスパンドレル ZiG タニマットホワイト

 


Before

■■■■■■
LDK
会話が広がるLDK。キッチンから、ランドリースペースやクローゼットにつながる。

 

After



キッチンのステンレス天板はTOOLBOX製で下部収納は製作家具。背後の既製品カップボード(WOODONE製)に色合わせ

 


Before

■■■■■■
吹抜け空間の先は
階段の位置を変更 既存のR天井をそのまま生かした。2階の和室と将来の子供部屋は将来、間仕切りで仕切れる様に下地補強が行われている。
After







Before

■■■■■■
2階和室
間仕切ることができ 使い勝手が良い。
After



Before

■■■■■■
2階寝室
心地よい空調計画で快適な寝室。下の写真、左側は書斎コーナー。
After

最後に

この住まいの設計に携わることができたことは、私にとって大きな喜びでした。
親子二代にわたり、人生の節目に寄り添う建築を託していただけたことに、心から感謝しています。

打合せの時間は、単なる設計作業ではなく、暮らしの記憶や価値観を分かち合う豊かな対話の時間でした。笑い、迷い、考え、また前に進む――その積み重ねが、この住まいの骨格になっています。
ともに歩んだスタッフもまた、この家とともに成長しました。
試行錯誤の中で技術を磨き、判断の重みを知り、建築の責任と喜びを体で覚えていく。その姿を見ることができたのも、設計者としての大きな報酬でした。そして何より、確かな技術と誠実な仕事でこの家を形にしてくださった工務店の皆さんに、深く感謝します。
見えない部分にこそ宿る精度と粘り強さが、この建物の静かな強さを支えています。

私たちは今、災害という現実と隣り合わせの時代を生きています。だからこそ、この住まいには「美しさ」だけでなく、「耐え、守る力」を込めました。
ここで育つ子どもたちが、変化の多い時代の中でも、しなやかに、そして逞しく歩んでいけることを心から願っています。
建築は完成した瞬間が終わりではなく、暮らしとともに育っていくものです。私自身もまた、この仕事を通して技術と思想を鍛え続けていきたいと思います。

資料,報告:萩野 裕一
Copyright ©Hagino Yuichi, jutakui
№167「継承のパッシブ・ベースin高知」 記憶を継ぐ改修と、未来に備える耐震技術


LINK
CROSS建築設計事務所 https://cross.faith/ |instagram(yuichihagino) facebook 

住宅医の改修事例№150「赤野の家」風土に根差した地域工法の保存~2階建を平屋に減築 萩野 裕一 https://sapj.or.jp/kaishuujirei2024-150/
各地の住宅医の日々№4 〜土佐の国 ウッドショックと二ホンカワウソ 萩野 裕一 https://sapj.or.jp/jutakuinohibi2021-04/