「既存不適格建築物」とは ~住宅医リレーコラム2021年12月

稲岡 宏㈱兵庫確認検査機構 確認検査部 構造課 / 兵庫県

既存建物を活用するという社会的な要請に応えるため、既存建築物に係る建築基準法改正が平成17年6月1日に施行され、既存不適格建築物に関する規制の合理化が図られました。
特に 【法20条(構造耐力)】の適用を受けない既存不適格建築物 が建築基準法に位置付けられ、既存建物を増改築する際、竣工時以降に構造関係規定が改正されていたとしても、必ずしも改正後の構造基準にすべて適合させる必要がなくなり、 既存不適格建築物として継続的に使用することが可能 となりました。

一方で、既存建物を増改築や用途変更して活用しようとした場合に、完了検査を受けていない建物が多数存在するという問題が顕在化してきました。確認申請~完了検査まで一連の手続きを経てはじめて、建物が建築基準法に適合していると確定されるのですが、完了検査手続きを経ていないことで既存建物の法適合状況が確認できない、適切に工事がなされたかどうかが判断できない、それによって増改築や用途変更が難しくなる、という問題です。

これらの現状と問題を踏まえ、存不適格建築物と既存建物の適合状況調査について、解説します。


現在すでに建っている既存建物は建築基準法上、次の3種類に区分されます。

適合建築物 / 既存不適格建築物 / 不適合建築物(違反建築物)

 

適合というのは建築基準法に適合しているという意味で、既存建物が建築基準法に適合しているか、それとも不適合であるかがはっきりと区別されます。不適合建築物は違反建築物とも言われます。
それでは「既存不適格建築物」とはどういう建物でしょうか。

簡単に言いますと「既存不適格建築物」とは、建築基準法が改正されることによって、その改正された建築基準法に適合しなくなる建築物のことをいいます。
“不適格”という言葉から不適合建築物(違反建築物)と混同されがちですが、あくまで建築基準法上は適法に建てられた建物です。

建物が確認申請から工事着工、建物竣工、完了検査、そして使用継続中までの手続きを含めた経緯の中で、どの時点で既存不適格建築物となるのかについて、【法改正が行われていない場合】と【法改正が行われた場合】に区別して説明します。
なお、建物の使用継続中に、使用上支障のある著しい劣化等は生じていないものとします。
(建物に使用上支障のある著しい劣化等が生じている場合は、建築基準法上、別の取り扱いとなります。)

【法改正が行われていない場合】

確認申請から使用継続中に係る期間に建築基準法の改正が行われていない場合は、以下の3パターンとなり、既存不適格建築物になるケースはありません。

■上段は、確認申請図書通りに工事を行い、完了検査を受けて合格した場合【適合建築物】
■中段は、完了検査を受けないことにより確認図書通りに工事が行われていることが確認されず、法適合状況が未確定になるとともに、手続き違反となる場合【適合未確定(手続き違反)】
■下段は、工事中に確認申請図書から変更を行い、変更内容が不適合となった場合で、さらに完了検査未受験により、不適合(違反)となる場合【不適合建築物(違反建築物)】
※なお、この中段と下段については、次の【法改正が行われた場合】も共通の考え方となります。

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一方、確認申請手続きを終えて、工事着工後から建物使用継続中に係る期間に法改正が行われた場合は、次のパターンになります。

【法改正が行われた場合】
工事着工後・建物竣工前 に法改正が行われた場合>

■上段は、法改正後も引き続き改正後の建築基準法に適合している場合【適合建築物】
■下段は、法改正後に改正後の建築基準法に適合しなくなった場合【既存不適格建築物】
なお、工事中の建物であっても、既存不適格建築物は適用されます。
※確認申請が交付される前に法改正が行われた場合は、建築基準法に適合させる必要があります。

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完了検査以降に法改正が行われた場合

■完了検査以降に法改正が行われた場合も、工事着工後・建物竣工前の場合と同様になります。
■また法改正時、すでに建っている建築物にも既存不適格建築物は適用されます。
■既存建物に既存不適格建築物が適用されても、引き続き使用を継続することができます。

 


 

次に、最初のケース法改正が行われていない場合で、完了検査を受けなかったことにより建物の法適合状況が確認できない建物や、工事着工後に確認申請書から内容を変更して竣工した建物について、これらを活用するための救済制度が用意されています。

適合状況調査の概要
社会的背景として、既存ストックの有効活用や不動産取引の円滑化を図ろうという動きが活発化してきた一方で、いざ既存建物を有効活用しようとすると、竣工時に検査済証の交付を受けていない建物は、建築当時の建築基準に照らして適切に工事がなされたかどうかを判断できないため、増改築や用途変更が難しくなっていました。
そこで国土交通省は、検査済証のない建築物について、建築当時の法適合状況を調査するための方法を示した『ガイドライン』を、平成26年7月に策定しました。正式には「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」といい、通称『ガイドライン調査』と呼んでいます。
国土交通省のホームページにこのガイドラインについて、ガイドライン全文などとともに掲載されていますので、詳しくはそちらを見ていただくとしまして、ここでは『ガイドライン調査』の基本的な考え方について簡単に触れておきます。

■本ガイドラインに基づく法適合状況調査の報告書は、検査済証とみなされるものではあり
ませんが、 増改築時の既存不適格調書の添付資料として活用することが可能 です。

 

既存建物を増改築したり用途変更する場合、ほとんどのケースで確認申請が必要となりますが、検査済証がないことで既存建物の法適合状況が確認できず、増改築や用途変更を断念せざるを得ないことも多々あるかと思います。
本ガイドラインは、検査済証がないという理由だけでその後の増改築・用途変更等の手続きに進めないようなケースにおいて、効率的かつ実効性のある形で当該建物の法適合状況を調査する一つの方法として取りまとめられています。
建築主(建物所有者)は建築士に依頼して、既存建物の状況を調査し必要な図書を用意した上で、特定行政庁や指定確認検査機関に相談することや、増改築・用途変更の確認申請を行うことができます。これによって、検査済証がないことで手続き違反状態であった建物が、確認申請~完了検査の手続きを経て、適法な状態にもっていく道が開かれるようになりました。

以下に参考として、ガイドラインより法適合状況調査の流れ(フロー図)を抜粋して示します。

『ガイドライン調査』は、建築基準法の枠組みの中で活用されることを前提として作成されており、増改築や用途変更などに活用するために本調査を受託・実施する法人として、『検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドラインについて』(平成26年7月2日付国住指第1137号)に基づき、届出を行った指定確認検査機関が挙げられます。

当機関もこの届出を行った指定確認検査機関として業務を行っておりますので、敷地は兵庫県下に限られますが、既存建物を活用の際にはぜひ相談していただけますと幸いに存じます。


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2022年 8月21日 稲岡宏先生の講義が開催されます
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