№0040〜緑橋のマンションリフォーム

一級建築士事務所 暮らしの設計ツキノオト 船木絵里子
■所 在 地 : 大阪市城東区
■構  造 : 5階建てRC造マンションの1階住戸改修
■築 年 数 : 築35年(改修当時)
■延べ面積 :  66.39 m2 (20.08坪)  うち 改修面積 63.25 m2 (19.13坪)
■設  計 : 暮らしの設計ツキノオト/船木絵里子
■施  工 : 分離発注方式
・大工工事・水道工事 羽根建築工房
・家具工事  oguma
・電気工事  呉山電気
・サッシ工事 山下硝子建材
・木製建具・畳工事 小池商店
・塗装・左官・雑工事・材料支給 施主によるDIY
■工事期間 : 2011年10月末~12月
■工 事 費 : 建築工事費 500万円(26万円/坪=8万円/㎡)
■補 助 金 : (エコポイント)-10万円
■改修前の問題点
築35年の公社分譲マンションで、70代後半の両親と暮らす実家のリフォームです。
(収納不足)
改修のきっかけの一つは東日本大震災です。
収納不足のマンションで大量のタンスに囲まれて暮らす実家は、大震災が来れば家具による圧死や避難の妨げが十分に有り得ました。
マンションの建て替えや耐震診断といった住棟全体の耐震計画はハードルが高くなかなか進まないなかで、せめて個別に住戸の中だけでも安全を図るということは喫緊の課題でした。
収納が足りないために片付かず、部屋は常に乱雑で、客を迎えられない状況も同時に改善が必要でした。
BEFORE(タンスだらけの寝室)
図1図2
(断熱・通風・床暖房・バリアフリー)
省エネ改修のエコポイントもリフォームの大きなきっかけでした。
底冷えが厳しい1階住戸にも関わらずほぼ無断熱であり、冬は必須となっていたホットカーペットによる両親の転倒が心配でした。サッシは隙間風と冬場の結露がひどく、サッシ周辺にはカビなどのダメージもありました。
一方で風が通らない間取りのため、夏は暑くて常にエアコンが必要でした。
今回はホットカーペットをなくすために床暖房を入れ、同時につまづきやすい段差はできるだけ解消しバリアフリー化も図りました。
(間取り・採光・天井高さ)
さらに、長年の一番の不満は間取りです。
昭和40~50年代に建てられたマンションの間取りに共通することですが、南側の和室は日当たりが良いものの、中央のLDKは全く日の当たらない「アンドン部屋」でした。
部屋は細かく区切られすぎて狭く融通が効かず、廊下も狭く生活に不都合が多く出ていました。
BEFORE(日のあたらないアンドン部屋のリビング)
図3
BEFORE(転倒が怖い本棚と、床には必須のホットカーペット)
図4
BEFORE(狭くて物があふれて納まらない玄関・廊下・洗面)
図7図6図5
(無垢の木と珪藻土の家へ)
リフォーム前の実家の居心地の悪さはなかなか強烈で、「片付けられない」「暗い」という2大要素にもう一つ、「ビニールクロス」「複合フローリング」といった新建材の気持ち悪さもありました。ペタペタ・ベタベタといった触り心地の悪い素材に囲まれる息苦しさ…精神的にも家の「素材」というのは大きく影響しているように強く感じます。
(予算・DIY・直接工事・分離発注)
500万円という限られた予算でできることを最大限にするために、DIYで可能な工事はできるだけ住まい手で行いました。
また、各専門職種の工事はできるだけ分離発注をして施主と各工事が直接契約をし、大工・電気・建具といったそれぞれの工事を設計者(=施主)が調整・統括することで、工務店経費を抑えてコストコントロールを図っています。
システムキッチン・ユニットバス・トイレといった住設機器の更新は15年前に行っているので今回は計画からはずし、間取り・内装・温熱環境・バリアフリーの改修に絞り、予算配分しています。
■改修プラン
(収納計画)
改修前のDKと和室の間にあった押入が採光と通風を阻害していたのでこれを撤去し、玄関を狭くしていた収納も撤去して、新たにLDKの横に大きな2wayの納戸を作りました。
戸境壁に沿って壁面に固定の収納を多く造り付け、収納量を大幅に増やしています。
1図面
(採光・通風)
既存の押入を撤去し、改修後のLDKと南側和室や座敷の間仕切りはフルオープンできる4枚引き分け障子とし、障子を閉めていても常にLDKには屋外の光が感じられる空間にしている。
また、納戸の欄間部分はオープンにしてLDKの一部とすることで空間的な広がりも得られ、洋室の押入壁の一部も撤去し納戸とつなげることで、南北方向の通風も確保しました。
図面2
■改修後写真
LDKと座敷・和室の間仕切りを4枚引き分けのワーロン障子としたため、中央のLDKも常に明るい広がりのある空間となりました。
急な来客時や厳寒や猛暑の時には障子を閉じておいても、LDKには屋外の光が柔らかく拡散されて明るく落ち着いた空間になります。
大きな梁と垂れ壁がRC造で撤去できなかったために、これを逆手に飾り棚として利用して見せています。
図8図9
襖は改修前のものを転用しローコストを図るだけでなく古家具とあわせて部屋を暖かい印象にしています。テーブルは栗、飾り棚はタモ、柱は杉、床板はクルミと、いろんな樹種の木を組み合わせて楽しんでいます。
図10図11

サッシにはすべて内窓を取り付けたので気密と断熱性能は格段に向上し、窓の結露はなくなりました。
座敷の小上がりはベンチやベッドにもなり、この下にダンパーを使った収納を造り、寝具が入れられるようになっています。
和室は母の寝室にもなるため、いろいろと写真や小物が置けるような飾り棚も造り付けています。
図15

LDKにつながる納戸は、高さをぐっと抑えることで天井が一体でつながり、リビングが広く開放的に感じる効果があります。出入り口を2方向に設けて便利に収納できるようになっています。この障子も既存のものを再利用です。
床には断熱材と床暖房を入れました。
壁の珪藻土塗り、天井の自然塗料塗りは、下地ごしらえから全てDIYです。
図16図17
狭かった玄関と廊下と洗面は少しずつスペースを広げ、廊下の引戸を開けておけばいっそう広く感じるようにしています。靴入れだけでなく、小物入れやスリッパ入れを兼ねた飾り棚なども造り付けています。
図18図19
洗面は結露を防ぐために壁・天井とも珪藻土を塗りました。床にはサーモタイルを敷いています。
図12図13
父の仕事部屋兼寝室である洋室は、ベッドの奥にクッション付の背もたれ収納を造り付け、昼はソファとして使い、夜はベッドを手前に引き出して休めるようになっています。クッションの蓋を下にあけると収納になります。
図14
限られた予算の中での部分改修ではありますが、自然素材に包まれて父母ともに気持ちよく暮らしてくれていること、片付けやすく来客を招きやすくなったこと、それによって以前よりも和やかに過ごせるようになったことが収穫かと思います。
これから更に両親が高齢になり要支援・要介護の状況に変化していくことも予想され、引き続き、介護保険の利用なども視野に入れながら、設備の更新なども順次進めていく予定です。