各地の住宅医の日々No.27 ~地震から丸7年の熊本より「震災遺構」

井上 恭子 ( 住宅医 / icoa設計事務所 / 熊本県 )

初めまして。私は熊本県央に位置する上益城郡の嘉島町に在住しております。私の所属するicoa設計事務所、本社は有限会社井上工業と言う創業45年の左官会社です。一般的な左官の他に特殊左官(造形モルタルアートや塗り版築、新素材など)も扱い、特殊左官の際は私も左官現場で職人と共に鏝を握ることも…。そんな、工務店スタイルで地元の家づくりに携わっている日々です。
2016年4月の熊本地震から早いもので丸7年が経ちました。
熊本地震直後、熊本で開催くださった「住宅医スクール」。熊本地震がなければ、私は「住宅医」を遠くの存在と感じ、目指す所まで到達していなかったかもしれません。
実際、私が住宅医スクール検定会で報告した内容は、地震で被災されたお施主様のご自宅を限られた予算の中で耐震改修(と、わずかに断熱改修)する事がメーン。それ以外は予算の中で出来る限り!と言う案件でした。
元々じっくりリフォームを検討されていたケースと違い、震災後は「突如降って湧いた天災により家屋損壊した方が急遽捻出した資金で止む無く改修」が殆どです。その際、少しでも性能向上するよう最善を努める事が出来たのは住宅医スクールを受講したから…と心から感謝しています。

現在の熊本は復興も進み、震災の記憶も徐々に薄れてきているように感じます。平和で多忙な日々の中、常に危機感を持ち続けるのは難しいものですね。
今 熊本には、地震の記憶の継承を担う為「震災遺構」なるものがいくつも保存されています。それぞれの震災遺構は「熊本 震災遺構」と検索していただくと、場所や情報が分かり易く掲載され、現地には説明看板が完備されています。

熊本地震 震災ミュージアム 記憶の廻廊 https://kumamotojishin-museum.com

熊本地震により地表断層として現れた「布田川断層帯の断層」は、私の住む嘉島町から南阿蘇村までの長さ約31kmの区間でほぼ連続的に表れ、その区間に多くの 震災遺構 が保存されています。
特に被害が大きかった「益城町」の杉堂・堂園・谷川地区では、上記断層の一部について早期より適切に保存措置をとられ、平成30年2月13日付けで国の天然記念物に指定されています。…天然記念物 というカテゴリーになるのですね。

実際に震災後のままの状態で保存されている


布田川断層帯の現地看板(杉堂地区)

布田川断層帯の現地看板(堂園地区)

現地の案内看板です遺構によっては駐車場も設けられています。


断層によりズレた畔

畑の畔がクランク状に曲がっているのは地震力によりズレたもの…!元々はまっすぐな畔。
街中の復旧は進み、多くの人が日々を取り戻しています。しかし、これら震災遺構の現実と地震の力を目の当たりにすると、自分の担う「建築物の設計」という業務がいかに人命に関わる重要なものであるか、痛感させられます。と同時に、直下で断層がズレてしまった時の無力さも痛感します。


倒壊している状態で保存されている家屋

学芸員の方に詳しくお話を伺うことも出来ました。
倒壊しかかった家屋と断層ともに天然記念物となり、倒れかけの状態を維持するための工事をおこなっているそうです。地中に杭を打ち、鉄骨の梁で倒れた状態のまま保持されています。


倒壊寸前家屋と断層に丸ごと屋根をかけ、歩道を整備する工事の様子


V字に断層が走る様子を見る事が出来ます

コロナもようやく終息の兆しです。元気に復興した熊本も、記憶の継承を続ける熊本も、どちらの熊本にも足を運んでくださると嬉しいです。
また、ここまで読んで下さった住宅医の皆さま
調査業務について場数を増やし勉強したいと思っております。案件あられる際、お声かけいただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!


 LINK
・icoa設計事務所(有限会社井上工業 住宅事業部)https://icoa-ie.com/about
・有限会社井上工業 https://inoue-kg.com/


関連情報
・熊本地震 震災ミュージアム 記憶の廻廊 https://kumamotojishin-museum.com/
▼震災ミュージアム全体MAP

住宅医スクール2016熊本 震災関連特別講義ダイジェスト https://sapj.or.jp/category/kumamoto2016/