木造・非住宅施設の維持管理の現状 ~非住宅施設の木造化にかかる低コストマニュアル・事例集より|リレーコラム2022年10月|
塩田 佳子 ( 住宅医協会理事 / NPO法人WOOD AC / 岐阜県 )
■手前味噌で大変恐縮ですが・・・・弊社が関わった「非住宅施設の木造化にかかる低コストマニュアル・事例集」が今年6月に岐阜県林政部県産材流通課より発行されHP上で公開されました。10年前に発刊された低コストマニュアル・事例集のリニューアル版で、当初の予定を大きく上回った(正確には上回ってしまった)約200ページの情報集です。発注者(施主)向けには木材活用の意義や木造化をすすめる注意点、計画のポイントを、これから木造非住宅施設に取り組む設計者向けには構造、木材調達、防耐火、維持管理、省エネ、積算などの基本の情報を、さらに全国の優れた事例を掲載し、住宅医が関わった改修物件も紹介しています。岐阜県には申し訳ないですが、全部読むことなく、目次で気になるお題の情報をどうぞ、お目通しいただけますと幸いです。
ホームページはこちら → https://www.pref.gifu.lg.jp/page/228031.html
■全国ではデータベース化も進み、HP上の「中大規模木造建築ポータルサイト〜中大規模建築を木でつくるための技術・情報集約サイト〜 (mokuzouportal.jp)」では、官民問わず全国各地の中大規模木造に関する情報が日々紹介されています。登録すると常に更新情報を得ることができ、今年3月に発行された中島正夫先生の執筆本もいち早くお知らせが来ました。
■木造の劣化対策・維持管理は、前述のマニュアル・事例集でも取り上げています。木造住宅の維持管理は、住宅医スクールでも講義があり、先月のリレーコラム内で新産住拓/泉保氏のアフター対応でも具体的な資料と共に紹介されています。木造非住宅施設の点検項目は、木造住宅と同様の部分も多く参考になります。しかし、長期優良住宅の普及によって維持管理の整備が進んだ住宅メンテナンスとは異なる点もあります。
■木造は、建物規模が大きいと、RC造・S造より修繕コストが大きくなりがちで、修繕に至る前段階で劣化を食い止める「予防保全」の考えが、修繕費用の削減や建物の耐久性により効果が高いといわれています。しかし、現状の非住宅施設、特に公共建築物では、多くの場合、危険度が高い修繕箇所の順に対応されるため、「予防保全」の予算確保が難しく、劣化による危険度が増してやっと修繕の話が進み、結果、修繕費用が高くなってしまうこともあります。対応策として、学校などでは、授業の運営費用で予算を組み、生徒のワークショップで木材の再塗装を行う取り組みもあります。
■住宅と違なり、非住宅施設は建設時の発注者と運用時の施設利用者が異なることも多々あります。工事中の関わりが希薄なため、建物運用時の不具合や劣化が工事業者や設計者に届きにくくなります。施設利用者は劣化を早期発見しやすいものの、建築の専門家ではないため症状を放置してしまう可能性もあります。劣化具合を適切に判断するしくみを持つことや自主的な点検方法の確立、専門業者による定期点検の実施を検討する必要があります。
■維持保全計画を作成し、それに基づき点検・ 診断・早めの処置を行うしくみづくりは、建物のことをよく知る設計者と施工業者が適任です。約10年前、公共建築物における木材利用の促進に関する法律が整備され、近年、民間建物も法律の対象となり、今後さらに非住宅木造の建設が進んでいきます。予防保全の有効性を認識して、維持管理・修繕計画を整備していく必要性がますます求められていくと思います。
【 関連リンク 】
・特定非営利法人 WOOD AC
・非住宅施設の木造化にかかる 低コストマニュアル・事例集(発行:岐阜県林政部県産材流通課/編集:特定非営利法人 WOOD AC)