アフター対応の重要性について |リレーコラム2022年9月|

泉保 真史(住宅医協会理事 /新産住拓株式会社/ 熊本県)

皆様は、引渡し後のお住まいの点検・メンテナンスはいかがされていますでしょうか? 弊社では、年間 150棟 前後の引き渡しがあります。定期訪問として、半年・1年・2年・5年・10年に行っています。
初回の半年点検では、お住まいになられての気づきのヒアリングと不具合の補修を行います。その中で設計段階での暮らしのイメージと、住んでからわかるギャップがいかに少なくできるかの要素や、技術的な改善案を引き出すタイミグとなります。
建具の動作不良や内装材のチリ切れ等、メンテナンスで補修できる軽微な状況がほとんどですが、この小さな不満を早い段階で説明補修していくことで、「 建てた会社に安心してメンテナンスも任せられる 」と言う信頼を得る過程でもあると感じています。

現況調査などで様々な築年数の家を診ることの多い皆様
今回は、新築及び改修後に必要とされるメンテナンス・アフター対応について お話させていただきます。
2020年 4月より民法改正に伴い、瑕疵担保責任は契約不適合責任に名称変更となり、買主保護の観点がより明確となりました。造り手としては、より明確な基準と責任をもって施工していかなければなりません。構造上主要な箇所については各社独自の保証期間(10年~30年)を設けておられるかと思います。住宅を設計・施工する中で、お施主様の想いを設計者の様々な考察によるデザインや構造で表現しますが、経年や地震・災害等を考慮した構造とし、一生または子孫の代まで引き継ぐ住居としての強靭さが求められます。
新築および大型改修後において、起こりうる事象についての事例をあげたいと思います。
1年~5年経過の期間において、木造軸組工法の場合、多くは乾燥による木材の反りや割れに伴い、内装(クロス・珪藻土・漆喰)のチリ切れやクラックが生じることが多くあります。漆喰の場合は、部分的な上塗りで補修が容易にできます。仕上がりも補修箇所がわからないくらいです。珪藻土は、同じ色番号でも経年での色の変化や、配合の微妙な差が出てしまいますので、補修する場合は箇所ではなく面での塗直しが必要となります。
クロスのチリ切れはジョイントコークで容易に処理できますが、2年以上経つとロットの廃盤や在庫があっても既存の色褪せ等で補修箇所が目立つ場合がほとんどです。そういった時は、建具裏や目立たない箇所のクロスを剥ぎ取り補修を行います。
既製品建具(メーカー製品・等)や杉造作建具は調整機能付きの丁番・戸車を使用することがほとんどです。調整は定期点検時にお施主様へも調整方法をお伝えし、ご自身でもできるよう覚えていただくようにしています。
5年を経過する頃から、キッチン排水詰まりが多く見受けられます。定期的な排水洗管も重要ですが、キッチン洗剤の適切な使用方法をお伝えすることで、排水詰まりの原因を予防することができます。意外と知られていないのが、液体洗剤を直にスポンジなどに取りフライパンや食器の油汚れを落としているかのように思われていますが、実際は分解せずに固形の油汚れが排水管に溜まっていくという実態です。洗剤の裏に書かれている使用方法をしっかりご説明してください。

北側など日当たりが悪い立地の場合、外壁に緑コケが発生することがあります。キッチンハイターなどの塩素系漂白剤を 4倍程度希釈して高い位置から順に塗布してください。綺麗に落とすことができます。

築10年以降では 外壁塗装、防水処理、設備機器の入れ替えが発生します。
この時点で、建てた会社に依頼があるか、飛込セールスや安売り広告に依頼されるかは、10年間のお付き合いの度合いに影響があるようです。暮らしの中での小さなお困りごとや不具合をいかに解決できるかが後の信頼に繋がることとなります。

【築10年未満のアフター依頼分類】弊社分類調べ
*その他の項目は、引渡し後の軽微な追加注文依頼を含む

築年数が20年を超えてくると、製品自体が廃盤になったり製造メーカー自体なくなったりして、部品の供給が難しくなったりします。可能な限り修理を希望される場合、代用品やメンテナンス部品を探します。最近ではホームセンターでも代用できる部品の購入が可能ですので、修理にもチャレンジされてみてはいかがでしょうか。
定期的な訪問で、暮らしの変化に気づき、適切なアドバイスを行うことができます。住宅医としてアフターメンテナンスにも着目していければと考えています。


玄関ドアの傾き調整金具 スペーサー

浴室入口サッシ 取替戸車

二次元調整戸車

 

2015年建築「自適荘」を事例にお伝えします。
設計:三澤文子 施工:新産住拓株式会社  LINK_住宅医の改修事例No.0050 自適荘
石場建ての築85年の周り縁のある素晴らしい和建築です。2014年の住宅医調査時、経年劣化、雨漏れもあり朽ち落ちる一歩手前と言う状況でしたが、お施主様より、家族の想いを残し、次の世代に託したいとの思いで改修に至りました。「 長期優良住宅化リフォーム推進事業 」を活用し、性能向上改修を行いました。
その後、今年で 7年が経過しました。お施主様は関西在住の為、年に数回しか訪れることができず、コロナ禍と相まってここ数年来訪できずにおられます。その間、季節ごとに窓を開け風を取り込み、設備機器の作動確認、白蟻や虫害、雨漏れなどの確認を定期的に行い、台風や災害時にもお施主様への連絡を欠かしません。
島原を望む大田尾海水浴場に面し、浜風も強い位置ですが、アコウの木が防風林となっています。これまで台風や地震による被害はでていませんが、歳月とともに枝葉が成長し敷地の雑草も定期的に剪定が必要となります。離れているからこそ、お施主様からは気になる時期に連絡をし、家守りとしてメンテナンスをしていく上で、安心して任せられる。と言うお言葉をいただいています。1棟 1棟 暮らし方も環境も異なりますが、住宅医として6つの モノサシを引き渡した後も継続できるよう、アフター対応に努めてまいります。

□□□自適荘


敷地内の雑草

自適荘写真:外部1

自適荘写真:外部2

設備機器の作動確認

風を通す

アコウの木の防風林

参考資料(アフター基準、点検表)


LINK
・新産住拓株式会社 https://www.shinsan.com/
・住宅医の改修事例(一般社団法人住宅医協会) [№0050「自適荘」住宅医によるストック活用社会への取組み]  https://sapj.or.jp/kaishuujirei-2015-50/
・YouTubeショート動画・音声(新産住拓株式会社) [「自適荘」住宅改修のスペシャリスト”住宅医”が実現した、ご家族の思い出と未来をつなぐリノベーション]  https://www.youtube.com/watch?v=gcrkpTW6820
・グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会) [「自適荘」住宅医によるストック活用型社会への取組みー] https://www.g-mark.org/award/describe/42815