「建築基準法からみた既存建築物のいま」~ 住宅医コラム2025年12月

稲岡 宏住宅医スクール講師 / 株式会社JOIN / 大阪府兵庫県

まさにいま、師走に突入した12月1日にこの原稿を書いているのですが、今年も様々な災害が起こりました。今年は例年に比べて「火災」が多く発生した印象が強いです。建物への被害という面からすれば、おそらく火災による被害が最も多いのではないかと、改めて感じています。
私自身、設計実務の仕事を始めて約2年、既存建築物の防耐火対策に関してそれほど重要なことだという認識がなかったと痛感いたしました。今後は耐震・耐風・防水・地盤(土砂災害)に加えて、防耐火面についても可能な限り考えていきます。
また火災に関していうと、日本国内のみならず世界的にも大規模な森林火災が頻発しており、地球環境保全の面からも木材という建築資材の面からも、森林資源を維持保全していかなければならないと、改めて身の引き締まる思いがします。気になって調べてみると、ネット情報ですが2025年までの1年間の森林消失面積は370万平方キロメートル超えでインドの国土より広く、CO2排出量は過去20年平均より1割多い80億トン超に達したということです。( 出所:https://www.alterna.co.jp/162533/


さて、2022年12月以降3回にわたって取り上げてきた「建築基準法改正」が、とうとう今年4月1日に施行され、ちょうど8か月が過ぎました。前回のコラムで「建築基準法の未来」としていたものが、まさに「いま・現在」起きています・・・一言で言うならば「大混乱」。
1年前に掲げた未来へのビジョンも、いまでは達成・実現どころか、日常の仕事に忙殺されつつある始末。それでも日々の仕事の合間を縫って、様々な学びやボランティア活動の場に自分の身を置き、ビジョンが自分の中に存在し続けられるように取り組み続けています。これもひとえに住宅医スクール講師、ならびにリレーコラムの執筆を任せていただけているからこそだと、感謝の念に堪えません。
私自身のいま・現在について述べさせていただいたところで、本題の「建築基準法からみた既存建築物のいま」について、この1年実務で経験し、学びの場で得られたことを述べていきます。
まず国(国土交通省)の動きですが、「既存建築物の活用の促進について」として、既存建築物の確認審査等の円滑化、既存ストックの有効活用を促進する観点から、「既存建築物の現況調査ガイドライン」「既存建築物の緩和措置に関する解説集」が令和6年12月に策定・公表されています。
2025年4月の法改正直前に策定・公表されてから、法改正後に改訂を重ねて今ではもう「第3版(令和7年11月)」。実務で必要であったため、改訂されるたびに内容を理解しようと努めてきましたが、今年8月の住宅医スクール講義のために理解した後も内容が追加・変更されたため、いまの時点ではすべてを把握しきれていないのが正直なところです。
( 国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_fr_000061.html

また国土交通省は、令和7年8月22日、住宅ストック活用のため、改正建築基準法のポイントを解説! ~リフォーム事業者向け説明会の開催~ と題し、9月12日・東京を皮切りに12月24日・福岡まで、全国で説明会を開催しています。大阪は12月3日開催で、私は明後日受講予定です。まだ受講していないので正確ではありませんが、説明会資料のうち第2部「既存建築物の現況調査」は「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」、第3部「改修の際の基準緩和」は「既存建築物の緩和措置に関する解説集(第3版)」となっており、前段で紹介した資料そのものになっています。第1部「建築基準法の基本的な事項」に関しては、同じく前段で紹介した国土交通省ホームページにある「既存建築物の活用の円滑化に係る解説動画」で説明されているものと思われます。

他には、「改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に関する連絡会議」なるものが、令和7年11月10日に第6回として開催されています。なお初回は、法改正が交付された令和4年6月17日の約半年後11月25日に開催されています。
( 国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000168.html

もう1つ、面白いと言ったら皮肉になりますが、こんなものまで用意されています。日付を見ると令和7年11月10日、ごく最近です。個人的にはどんな内容なのか興味はありますが、こと既存建築物に関する申請となると、利用していないので何とも言えませんが、果たしてどこまで有効なのかは大いに疑問が残ります。

「AIが建築確認申請図書の作成をサポートします!」
~ 建築確認申請図書作成支援サービスの提供を開始します ~
( 国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_001096.html

これら国の動きや資料の内容をみると、既存建築物に関していかに「確認申請手続きを円滑に行う」のか、という点に主眼が置かれ、本来の目的である「既存ストックの有効活用」を図ること、それを建築士の手によって適正に、かつ既存建築物の性能向上を図るように促進していくという観点が抜け落ちているようにみえてきます。やはりそこは新築・既存問わず、木造2階建て住宅など改正前は特例対象だった建物に関しては、良くも悪くも「プロである」設計者任せ=設計者の責任、というスタンスなのでしょう。
とはいえ、既存建築物の適法化や性能向上を図るために必要な情報についても、前述で紹介した資料のみならず、「技術的助言」(という法律ではなく法制度運用面での決まりごとのようなもの)を何度となく発出したり(すべての情報を追いかけるだけでたいへん)、11月には既存建築物における既存不適格を規定した、基準法施行令第137条の2を改正施行したりと(こちらも出所を探すのに苦労しました)、良く言えば法改正施行後も何とか既存建築物がより良くなるように取り組まれてはいるようですが、悪く言えば何とか混乱を収めようとしているだけに過ぎないともみえます。
( 国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_001079.html のうち、政令改正の概要(7)既存の建築物への制限の緩和:建築物の大規模の修繕又は大規模の模様替えを行う際の現行基準適合義務の緩和措置に、屋根、外壁、軒裏の防耐火性能に関する規定を追加)

そして同じ既存建築物であっても、建築基準法からみると決定的な違いがあることが浮き彫りになってきています。それはこれまでのリレーコラムでも散々述べてきた、「増築」と「大規模の修繕・模様替え」の位置づけです。これは設計者・申請側からみると、特に木造2階建て住宅に関しては天と地ほどの差といっても過言ではありません。
手続き面では「大規模の修繕・模様替え」が確認申請不要から必要になる法改正がなされたことで、実態的にも厳しくなったと捉えがちで、実際、国でも、確認申請が必要になったため手続きの遅れなどで混乱が生じているので、様々な緩和を技術的助言の発出だけではなく、施行令137条の2といった法改正まで実施するなど、混乱収拾に躍起になっているようにみえます。
特に緩和の中でも、大規模の修繕・模様替えに当たらない(=確認申請が不要な)改修内容を、個別の主要構造部(壁・床・屋根・階段)ごとについて、ご丁寧に具体事例の図や写真まで公開して事細かく示しています。まるで、できるだけ確認申請を提出しないように誘導しているかのようです。
そして実態的に個別具体の物件に関して、確認申請の要・不要は特定行政庁の判断によるというスタンスのようです。


( 建築物の改修における建築基準法のポイント説明会 資料より)

そして確認申請手続きは不要でも建築基準法への適合は必要で、構造や防耐火などの安全確保は設計者で適切にやるように指導するという、「設計者任せ=設計者の責任」であるところから「責任逃れ」をしているようです。違反すれば建築基準法における罰則付きだという「脅し」までつけ、しかもそれを「国土交通省からのお知らせ」という周知パンフレットに、わざわざ法改正直前の2025年3月に掲載しているのです。


( 建築物の改修における建築基準法のポイント説明会 資料より
2024年12月のリレーコラムに載せたものと見比べてみてください


一方の「増築」は、結局のところ前述の「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」「既存建築物の緩和措置に関する解説集(第3版)」で、改修にあたってのポイントとして示されたものの、実態的には法改正前と何も変わらない、それどころか「ガイドライン」という名の縛りが追加されただけ、というふうに捉えられています。
もちろん確認申請・検査を通じて「既存建築物」の実態違反を減らしていくことは必要なのですが、このままだと「増築」は建築基準法に適合させることが困難で、計画を断念し工事自体ができなくなり、結果として既存建築物の適法化や性能向上が促進されないことにつながりかねません。さらに穿った見方をすると、確認申請逃れの「大規模修繕・模様替え」に該当するような改修工事ばかりがなされるようになってしまい、結果として違反建築物の増長につながる恐れすらあります。


( 建築物の改修における建築基準法のポイント説明会 資料より )

以上、かなり偏った個人的な見解に基づいて、「建築基準法からみた既存建築物」についてみてきました。これは最近、私自身が強く感じたことが大きく影響しています。具体的に言うと、実務を始めてまだ間もないにも関わらず、建築主・住まい手の立場に立つ責任を持った建築士であるところから、知らず知らずのうちに建築基準法から既存建築物そのものをみるようになってしまっていることに気づきました。なるべく手続き・申請図書を簡略化させようとか、基準法を適用除外することばかりに気を取られ、自らのビジョンとは真逆の方向に進んでしまっていました。
このことに気づいた「いま」だからこそ、そのタイミングでリレーコラムを執筆する機会を得たのは、とても幸運なことだと思います。そしてこれを反面教師とし、改めて建築主・住まい手の立場に立ち、プロの建築士として既存建築物の適法化・性能向上に取り組んでいく所存です。

稲岡 宏
Copyright©Inaoka Hiroshi , Society of Architectural Pathologists Japan


LINK
・ 株式会社JOIN 一級建築士事務所 https://join-binden.com

稲岡先生 これまでのコラム
・「建築基準法の未来」2024年12月コラム https://sapj.or.jp/column20241210/
・「建築基準法はどこへ向かうのか」 2023年12月コラム https://sapj.or.jp/column231211/
・これからの法改正に向けて 2022年12月コラム https://sapj.or.jp/column221210/
・「既存不適格建築物」とは 2021年12月コラム https://sapj.or.jp/column211210/

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