基準法改正に併せて、小規模な賃貸集合住宅(木造アパートやシェアハウス)の改修で気をつけたい建築法規のポイント。コラム 2025年4月

村上 康史 ( 住宅医 /村上康史建築設計事務所 /東京都 )

4月の建築基準法改正における4号特例の縮小により、多くの住宅において、大規模の修繕・模様替に該当する改修を行う際には建築確認申請が必要となりました。
都市部によくある4~8戸程度の住戸からなる床面積200㎡以下の小規模な木造賃貸アパートもこれまで4号特例の対象になっていました。そのため今回の4号特例縮小は木造の戸建て住宅に加えて、小規模な賃貸集合住宅も影響を受けることになります。
今後はこうした小規模な賃貸集合住宅も大規模改修を行う場合には確認申請が必要となってきますが、アパートやシェアハウス(基準法における共同住宅や寄宿舎)は特殊建築物に該当し、戸建て住宅よりも厳しい法規制がかかってきます。

一方ここ数年で賃貸集合住宅の耐震化や省エネ改修・太陽光発電等の導入に対する助成金も国や各自治体で整備されてきており、これまで事業性の面から多くの改修費用をかけられず、改善されにくかった既存の賃貸住宅の居住性を改善していこうとする社会的な機運も高まってきています。

そこで今回は200㎡前後以下の小規模な賃貸集合住宅を改修する際に、特に木造戸建て住宅と異なる点に焦点を当てて気をつけたい法的なポイントを、自身の仕事での経験も踏まえながらお伝えできればと思います。

写真:木造賃貸アパート改修時 ©Y・MURAKAMI ARCHITECTS

改修時の施工に気を付けたい住戸間の界壁

まずは住戸間を仕切る界壁に要求される性能です。住戸間は一定の遮音性能(法30条)と準耐火構造の防火性能(令114条1項)を有する壁を小屋裏まで達させることが要求されます(例えばグラスウールやロックウール等の吸音材を充填した上で両面石膏ボード2重張り等の仕様など)。
住戸と廊下間の壁は界壁には該当しないものの、廊下部分の小屋裏には界壁の措置を講ずることが望ましいとされています(「建築物の防火避難規定の解説2023」より)。
改修では難しいところで、廊下上の小屋裏の界壁がうまく界壁が施工できないこともあります。例えば木造アパートを改修した過去の仕事では、既存建物は小屋裏に界壁が施工されておらず、加えて屋外の共用廊下の軒天は予算の観点から再利用する計画だったため、廊下の小屋裏の界壁を施工できず、どう処理するか頭を悩ませました。
このような場合などに、界壁の範囲を緩和できる規定があります。

界壁の範囲を緩和できる規定

数年前の法改正により、天井を一定の遮音性能と防火性能のある仕様とすることで、界壁を天井までの範囲に緩和することができるようになりました。
この場合天井も告示等で示されている遮音性能と防火性能(令112条4項一号の強化天井)のそれぞれを満たすことが必要になります。(遮音性能の告示仕様は石膏ボード9.5㎜以上 + グラスウールやロックウール等の吸音材100㎜以上、強化天井の告示仕様は強化石膏ボード2枚以上かつ総厚36㎜以上)
天井の施工には手間がかかるものの、界壁は天井で止めることができるので既存建物の状況や改修の内容によっては検討できる仕様です。

シェアハウスの間仕切壁に必要な性能と緩和規定

戸建て住宅をシェアハウスに用途変更するなど、基準法における寄宿舎として改修する場合、居室間の間仕切壁は「防火上主要な間仕切壁(令114条2項)」としての規定が適用され、ここでも防火性能が要求されます。この場合も間仕切壁は小屋裏まで達する必要がありますが、共同住宅と同様に強化天井を用いることで天井までの施工に緩和することができます。
また寄宿舎の場合は①居室面積、②煙感知式の消防設備の設置、➂下図のような屋外への避難経路を満足することによって防火上主要な間仕切壁を適用除外にすることも可能で、比較的クリアしやすい条件になっています。遮音性能は法的には要求されませんが、実際には必要なので防火の条件と併せて間仕切り壁の構成を検討する必要があるかと思います。

図※ 国土交通省「寄宿舎等における間仕切壁の防火対策の規制の合理化」より
https://www.mlit.go.jp/common/001151583.pdf

 

室内で木材を使用する際に気をつけたい内装制限

戸建て住宅での内装制限の適用は火気使用室であるキッチン程度ですが、特殊建築物は規模によって建物全体の居室と通路等に内装制限が適用されるので注意したいところです。
木造で「その他建築物」扱いの共同住宅や寄宿舎の場合、その用途に供する部分の床面積が200㎡以上となると内装制限の対象になるので(令128条の4)、内装で木材を使う際には気をつけたいポイントです。

窓の改修時に注意したい排煙設備の規定

200㎡以下の戸建て住宅では免除されている排煙設備の検討(令126条の2)も必要になります。ここで扱っている200㎡程度の小規模な賃貸集合住宅の場合、排煙上の無窓居室(令116条の2 1項二号)に該当する居室には排煙設備の設置が適用されてしまいます。
開口部の改修を行う場合は、各住戸の居室が排煙上の無窓居室(天井から80cm以内の開放部分が居室の床面積の1/50未満)になっていないかチェックして、排煙設備の適用対象とならないよう計画したいところです。

増築で適用対象になっていないか確認すべき避難規定

規模によって共用廊下の幅(令119条)や2以上の直通階段(令121条)といった避難規定の適用対象になります。1層あたり4戸の住戸が2層になった8戸程度以上の賃貸住宅だと規定の対象になるかならないかの規模感になってきます。(共同住宅の場合、廊下幅は住戸面積100㎡を超える階、2以上の直通階段の設置は居室面積100㎡を超える階が適用対象)
改修の場合、建築当時は規定の対象外となる面積であっても、その後の増築によって適用の対象となっている可能性もあります。共用廊下の拡幅や階段数の追加は改修ではかなりハードルが高いため、適用対象になっていないか初期段階で確認が必要です。

 消防法による消防設備の設置

建築基準法に加えて、集合住宅は消防法において消防設備の設置が必要な防火対象物になります。
200㎡程度の規模の場合、消火器や誘導灯、外壁がラスモルタルであれば漏電火災警報器などが検討の対象となる消防設備です。これらの消防設備は各階が消防法上の有窓階か無窓階かによって設置基準が異なりますが、建築当時の届出の内容と現況との食い違いによる影響も確認することが必要です。
以前に改修した木造アパートでは、下図のように建築当時には有窓階となっていた階が、後の増築によって無窓階扱いとなってしまっていたため、所轄の消防署と協議を行ない、新たに共用廊下に誘導灯を設置することになりました。
工事完了時には消防検査も必要になるため、設計時に所轄の消防署と十分に協議をしておくことが大切です。

まとめ

基準法における共同住宅や寄宿舎の場合、全体の床面積200㎡以上か(内装制限)、住戸や居室の面積が100㎡を超える階があるか(廊下や2以上の直通階段階段)、によって適用される法令の内容も変わってきます。都市部に多くある小規模な木造の賃貸アパートの改修や大きめの戸建て住宅をシェアハウスへ用途変更する際はこの規模にかかるかどうか微妙なラインの規模の建物も多いと思います。
建築当時は適用対象外の規模でも増築によって適用対象になっていないか、当時の消防署への届出と状況が変わっていないか、早い段階で確認しておくことが大切かと思います。

これまで4号特例に該当していた小規模な集合住宅も今後大規模な改修を行う場合には確認申請が必要になりますが、確認申請が不要な改修であっても、今回記述した法令の内容は当然遵守して改修を行う必要があります。小規模な規模であっても集合住宅は戸建て住宅の設計と比べると多くの規制が適用されるため、改修を行う際には見落としがないよう設計の初期段階で一通りチェックしておきたいところです。
これまで戸建て住宅に比べて既存の賃貸住宅の居住性は置き去りにされてきた部分がありましたが、ここ数年で整備されてきている賃貸住宅の改修に対しての助成金等も利用して、今後少しずつ賃貸住宅の居住性を改善する改修事例が増えてくれればと考えています。

※以外 図,文章:村上 康史
©Y・MURAKAMI ARCHITECTS, jutakui


LINK
村上康史建築設計事務所 https://ymarchi.com/
住宅医の改修事例 No.0133「賃貸集合住宅における性能向上改修 -築62年木造賃貸アパートの再生-」村上 康史 https://sapj.or.jp/kaishuujirei2023-133/