法改正が2025年4月に迫る! 省エネ適判を省略し、仕様基準で建築確認申請を通す方法等を考察する。コラム 2025年1月

豊田保之住宅医 /トヨダヤスシ建築設計事務所京都府

住宅医協会理事の豊田保之です。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、建築実務者なら誰もが知っている2025年4月からの法改正。建築基準法の4号特例が縮小し、さらには、ほぼ全ての新築住宅に省エネ基準が適合義務になるという改正建築物省エネ法。新築だけならまだしも、リフォーム・リノベ物件まで建築確認申請が必要となる可能性があり、建築にかかわる全てが停滞する懸念も。そこで今回のコラムは、設計者、工務店、職人の方々にはどういったハードルが存在するのか、申請をスムーズに進めるためにどうすればよいのか、改正建築物省エネ法に絞って今わかる範囲で情報を伝えてみようかと思います。

1. 省エネ義務化に向けて、おさえておきたい資料について

まず、改正建築物省エネ法の資料は、とてつもなく膨大で、該当するPDFを探すだけで時間を浪費してしまうこんな世の中です。そんな中、押さえておきたい資料は、資料ライブラリーというWEBSITE内にあり、下図の左側の3つをまずは手に入れることが第一歩です。図の右枠は、併用住宅の省エネ計算と気候風土適応住宅の解説の資料です。もし、実物件がないならば後回しでもよいかと思います。

資料ライブラリー https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html

2. 2025年4月施行 省エネ基準適合義務制度とは?

原則、全ての住宅・建築物を新築・増改築する際に省エネ基準への適合が義務付けされることから、建築確認申請時に、建物の外皮性能と一次エネルギー消費量の計算根拠を添付しないといけません。当然、審査があるということは検査も実施されるので、今後は建築士による現場監理が重要になります。
適用除外されるのは、以下の建築物ですが、2番の「居室を有しないこと」というのが、何か抜け穴がありそうで気になるところです。

<以下の建築物については適用除外>
1,10m2以下の新築・増改築
2,居室を有しないこと又は高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がないもの
3,歴史的建造物、文化財等
4,応急仮設建築物、仮設建築物、仮設興行場等

 

3. 省エネ基準適否 チェック 仕様基準に適合できる?

省エネ適判に該当すると申請処理に時間がかかるというのは誰もがわかるので、仕様基準で申請を通すためにどうすればいいのかが、一番知りたいところでしょう。一方で、長期優良住宅の認定(以下、長期優良)を受けている実務者の方は、認定書さえあれば省エネ適判が不要になるようですが、長期優良は、「技術審査」と「特定行政庁の認定」ということを忘れてはいけません。省エネ基準に適合しているかどうかは、建築確認申請で確認され、現場検査されるということは押さえておきたいところです。

4. 省エネ性能の評価方法について

仕様基準で申請を通す場合は、以下の赤破線で囲った場合のみ適用できます。例えば、外皮性能を仕様基準に適合させても、一次エネWEBプログラムを使った場合は、「仕様・計算併用」に該当し、省エネ適判にまわるので注意が必要です。

 

5. 省エネ基準適否 チェックと必要書類について

質疑応答集から気になるQ&Aを抜き出してみました。床暖房があるだけで省エネ適判行きはなかなか厳しい。何かの間違いであってほしいところ。
右下の表は、省エネ適判の有無における申請図書の違いです。省エネ適判を受けない場合は、計画書と計算書がいらなくなりますが、その他の各種図面や機器表等は必要なので思っている以上に建築確認申請時の書類が増えそうです。

 

6. 省エネ基準適否 チェックリストで仕様基準に適合させるポイントは?

前述した資料ライブラリーに各地域区分に応じたチェックリストがアップされています。チェックリストはPDFですが、青マスところに入力・保存ができるようになっているので、ここに断熱材の熱抵抗、開口部の熱貫流率、設備機器の仕様を入力し仕様基準に適合しているかどうかが確認できます。この表で適合とならない場合は省エネ適判が必要になるようです。
試しに入力してみたところ、屋根・天井、壁、床、基礎壁等は、一般的に使用している断熱材を使い、厚みを調整し、所定の熱抵抗以上になればクリア可能です。窓は、金属製建具+LOWEペアA6、又は、木製建具+ペアA6を使用していれば熱貫流率・日射取得率ともにクリアできます。ただ、木(樹脂)と金属の複合材料製建具であっても、ペアA16を使った場合は日射取得率がクリアできず、金属系の建具の場合は、LOWEペアA6が必須となるので注意が必要です。あと、現場製作の玄関引戸(ドア)は、LOWEペアA12だと不適合になりました。

 

7. 現場製作の玄関引戸ドアの評価を考察する。

建具屋さんがつくってくれる現場製作の玄関引戸(ドア)は、トリプルガラスとしダブルLOWE – G12以上にすればなんとかクリアできました。ただ、厚みが、「ガラス3 – ガス12 – ガラス3 – ガス12 – ガラス3」の計33㎜は最低必要になるので、45㎜厚(押縁外6㎜、内6㎜)でぎりぎりいけるかどうか。仕様基準で通すなら、今後は50㎜厚とした方がよさそうです。表面材が木材なのに、最低ランクの「金属製又はその他 5.61W/㎡K」になってしまうため、なかなかつらい評価となってしまいます。ちなみに、「ガラスなしにすればいいんでは?」と思う方もいると思いますが、戸の種類が「金属製又はその他 5.61W/m2K」となるため、さらに性能は落ちてしまうという残念な結果です。

 

8. 増築部の一次エネルギー評価はどうなる?

既存住宅と一体となった増改築を評価する場合、増築部の外皮性能が仕様基準をクリアしていれば評価が可能です。既存部分との境界となる壁や床等は、基準適合の対象外になるということは、覚えておきたいポイントです。あくまで外気に接する部位のみ仕様基準に該当させればよいことになります。ただ、増築部が仕様基準に該当できない仕様になると評価自体ができないので、今後評価方法の解説が追補されるのかもしれません。
又、吹抜部に増床する場合の評価もできるようなので、増改築時に建築確認申請をされる方は、マニュアルを見ておいた方がよいでしょう。

住宅増改築評価マニュアル https://house.lowenergy.jp/program

9. 気候風土適応住宅の省エネ評価について

気候風土適応住宅は、外皮基準の適用を除外(基準省令改正(2024年6月28日公布)されることになりました。気候風土適応住宅の解説書に示される仕様にする必要があるのですが、その仕様を審査機関でも確認できるようにルール化されたので少し使いやすくなったように思います。一次エネルギーの計算は、これまでUA値が増大しがちであった気候風土適応住宅も、今回改正された気候風土適応住宅の仕様に該当できると、標準の外皮性能(UA=0.87w/m2K等)で一次エネルギーの評価を行えることになったのは建築実務者にとってよかったかもしれません。

 

10. まとめ

改正建築物省エネ法に絞って、「省エネ適判を省略し、仕様基準で建築確認を通す方法等」について考察してみました。わざわざ、仕様を変更してまで仕様基準にあてはめなくても、省エネ適判かければいいのではないかという意見もありますが、建築実務者なら申請に係る時間を最小限にしたいと思うのは当然であり、又、省エネ適判にかかる申請費用もできるだけ抑えておきたいという点もあります。又、UA(外皮平均熱貫流率)が、HEAT20のG3をクリアしている猛者は、仕様基準でも余裕でクリアできるので、おのずと仕様基準で確認済を目指しそうです。

今回、いくつかポイントとなる項目を紹介しましたが、まだ、法改正まで3か月弱あるので、今後、取り扱いに変化があり二転三転しそうな気配です。法改正直前の3月になると、審査機関の業務が増大し、予定通り処理が進まなくなる可能性もあるので、早めの情報収集と対策を練っておくのがよいでしょう。

毎年年始初回にコラムを担当しているのですが、その理由は、私のコラムは数多くある住宅医協会の記事の中で、TOP5に2つもランクインしているからのようです。そんな期待に応えるプレッシャーもありますが、今回は、手堅い時事ネタでコラムを書いてみました。少しでもこのページの閲覧が増え、法改正によるストレスや、時間と費用の浪費を軽減できれば幸いです。

文章 豊田保之
©Toyoda Yasushi , jutakui


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