「今年4月の法改正が、既存建物の改修に関わる影響に思うところ。」リレーコラム 2025年2月

河本和義(住宅医協会理事・住宅医/一級建築士事務所TEDOK代表/岐阜県)

今年4月の法改正により、4号建物範囲の縮小、構造計算を必要とする規模の拡大、46条の壁量計算の係数の変更などが行われます。基本、新築に対するものになりますが、住宅医が扱う新築同等の耐震・耐風性能を目指す改修案件においては少なからず影響があると考えられます。

ちょうど、弊社でご依頼頂いている案件は、2000年の法改正後に新築された非住宅の建物で、2階建て以下500㎡以下の規模のため、壁量計算で確認申請を通しています。これに、新しくエキスパンションジョイントを設けて増築する計画なのですが、現状だと、既存部は上述のように壁量計算を満たしているため既存不適格にはなりませんが、今年4月を超えると既存不適格になる可能性があります(厳密性はおいておいて)。一体増築であれば、今年4月以降に着工であれば、その時点の現行法に則り設計施工し現行基準を満足させる必要がありますが、今回のように、エキスパンションジョイントを設けて分離して考えるものについて、既存部の扱いをどうしようか考えたところからこのコラムを書き出しました。

新耐震前、新耐震後、2000年改訂後、そして、2025年改訂後で、それぞれ耐震基準が異なります。既存木造建物の有効利用を考えた場合、それぞれの建築年代において、安全性の観点からそれぞれの建築年代に合わせて、かつ、現行基準を満たすように耐震補強をして利用することが望ましいですが、コストや物理的な問題から難しい場合は多々あります。そのため、前述のように、一体増築ではなく、個別の増築を考える場合も数多くあると思います。

そのような中で、既存部分が現行法に満たない場合(有筋コンクリート基礎の場合)、耐震補強により現行基準への適合を目指すと、補強に際して、例えば、1階耐力壁の耐力を上げると、それに伴って1階柱の柱脚金物の耐力も大きなものが必要となる場合があります。その場合、今までホールダウンが必要でなかったものが必要になった場合、ホールダウン用のアンカーボルトを設置する必要が出てきます。施工性などを考えるとケミカルアンカーを使いたいところですが、新築においてケミカルアンカーの仕様は限定されており(以前は、ケミカルアンカーの利用が認められいなかった。現在は、法的には認められているが、実際に使うことのできるケミカルアンカーは私の知る限りではないと聞いていましたが、調べてみると、唯一昨年10月に清水建設株式会社が鉄骨小梁の接続に用いる接着系あと施工アンカーで評定を受けているようです)、新しくアンカーボルトを設置する必要があります。その場合、基礎のはつりを行い、アンカーボルトを設置してコンクリート打設といったことが必要になってきます。この基礎問題(アンカー問題)がポイントと考えています。

基礎の補強について考えると、これまで4号建物の場合、増改築を行う際に、既存建物の基礎が無筋基礎であった場合には、それに抱かせる新設基礎(抱かせ基礎)を行うことにより、現行の構造耐力規定に準ずると認められており、既存無筋基礎への抱かせ基礎は、色々な意味で特に短期水平力には、有効な手段であると思います。新設基礎部分に新規のアンカーボルトを設置すれば、納まりは複雑になるかもしれませんが、柱と基礎の緊結や土台と基礎の緊結にも有効であると思うためです。

既存基礎・土台と新設補強基礎・新設土台による補強例

一方、3階建て建物など4号建物以外は、前述のように基礎のはつりなどが必要となり、耐震補強のハードルがかなり上がってしまいなかなか実現が難しい状態でした。法改正後は新3号建物などにおいて、このような対応が必要になるかもしれません。そうなると、旧4号建物の改修のハードルが上がってしまうことが懸念されます。

今までは、新耐震基準や現行基準が満足されていれば、エキスパンションジョイントで構造分離された既存部分は、法的には補強が必要なかったですが、改正により既存不適格となった場合に、現行基準に適合させる必要が出てきた場合や、それを求められた場合、目指そうと考えた場合には、新設基礎や新設アンカーといったことが必要になるかもしれません。住宅医協会では、既存建物の耐震・耐風性能を新築同様まで確保する、目指すが目標だと思います。そういった点で、法的に補強が求められない場合でも、現行基準に準じれる補強を行う場合が多々あると考えられ、その際に、以前までは抱かせ基礎補強で一定の性能を担保していたが、今後は、それ以上のことが必要となるかもしれません。

ちなみにですが、個人的には、梁補強や耐力壁の補強についてはある程度、状況にあわせて、ある一定の根拠をもって対応がとれると考えています(2階の耐力壁が伝わる柱の引き抜き力増加による1階柱脚金物の耐力については除く)。しかし、この基礎問題については、はつりをどこまでやるのか、どのような処置が必要になるのかなどの基準が不明確であると思われますので、今後、対応を考えていかなければならない課題と考えています。逆にこういった部分の整理を住宅医協会で行っていけるとよいと考えています。

例えば、前述のアンカーボルト問題ですが、土台を留めるアンカーボルト、座金の大きさによって考慮できる引張耐力が異なりますので、座金の付け替えによって耐力UP(少しですが)して、L型金物の設置ということなどもあるかと思います。こういったちょっとしたことが整理ができていくとよいかと思います。

※このコラムを書いている現時点において、申請機関の知り合いにもヒアリングしてますが、まだ、既存建物についての基準は、なかなか決まった目安が出てきていない状況のため、どうなっていくのかわからない状況であると思います。また、今年4月以降、運用され出してから、徐々に決まってくるのかもしれません。新築において構造計算が求められる規模について、増築改修などに対してどのような位置づけとなるかが不明確であるため、上記文章も、構造計算が必要か否か、するか否かについての切り分けとしており、わかりずらい点含め、ご留意頂ければと思います。

※書き足しで、独り言ですが、新築についても、軽微変更や計画変更について、厳しくなってきているのかもしれません。ちょうど、新築案件で、耐力壁の変更をせざるを得ない状況になったのですが、以前までは軽微変更で扱ってもらえていたものが現在は、計画変更にあたるとのことでした(状況、ボリュームにもよるかもしれませんが)。今後、4月の改正から色々なことがかわるのかもしれません。

河本 和義
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