住宅医協会の前身団体である「住宅医ネットワーク」の説明です。

 

背景(岐阜県立森林文化アカデミー木造建築病理学)

2001年に開学した岐阜県立森林文化アカデミーは、建築家の設計による木造建築の学舎を有しています。この建築は国内外で高く評価され数々の賞を受賞していますが、木材が露出され使用されている木造建築であるだけに、開学後、学内ではメンテナンスにかかるランニングコストや木材普及による数々の不具合、安全性などが重要な課題になりました。そこで木造建築の専門教育を行う研究室である木造建築スタジオが中心となり、木造建築群を生きた教材としてとらえ、経年変化を観察しメンテナンスの方法やその実施をカリキュラムのなかに取り込んでいく方針をたて、建物のメンテナンス実習が実施されていくことになりました。

一方、アカデミーは岐阜県の長良川中流沿いにある美濃市に位置しています。美濃市は手漉き和紙で知られ、古くから山村と都市の中継地点でした。また美濃市は紙産業等で豊かであった時代に整備された古い町並みがあります。江戸時代の建設当時、防災をテーマにしたその町並みは、現在「うだつの町並み」として伝統的建造物群保存地区に指定されています。このような下地のあるこの地域において、地域住民は古い建物を「残す」「住み継ぐ」という意識が高く、地元の方々から既存建物の改修の相談を受けるようになったことが契機となり、既存住宅の詳細調査方法や、改修技術について研究が始まりました。

そのような時期に関東学院大学の中島正夫教授から、イギリスの「建築病理学」という学問分野について知ることになり、中島正夫先生が紹介する、イギリス、ロンドンのReading大学の建築病理学カリキュラムを参考に、それを日本の木造建築におとしこみ、調査方法の開発や求められる性能を向上させるための改修手法の確立を目指し、同時にそれらを実社会の中で実践していく人材育成を目標として、「木造建築病理学」講座が、2006年より開設されました。


住宅医ネットワーク

高度経済成長期から循環型社会への転換期である今、住宅においては長期優良住宅の普及の促進に関する法律の施行や、リフォームが最重点と位置付けられた国の政策など、スクラップアンドビルドによる大量生産から良質なストックの形成へ、という明白な流れがある中で、建築のプロはこのような社会の要請に答えられる職能を早急に習得する必要があります。

平成20年度第2回超長期優良住宅先導的モデル事業の募集に際し、岐阜県立森林文化アカデミー「木造建築病理学講座」に基づいた既存住宅改修のノウハウを、より多くの実務者に普及するために『木造建築病理学・「既存ドック」システム』を考案し、その活動母体となる組織として、学識者や実務者の有志からなる「住宅医ネットワーク」を発足しました。

 

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住宅医ネットワークは、岐阜県立森林文化アカデミーのOBが中心となって活動しているNPO法人WOOD AC内に事務局を置き、情報技術を提供する岐阜県の教育機関である森林文化アカデミーと木匠塾、および活動に賛同し実務を遂行する設計者や工務店で構成されています。既存住宅の調査診断、改修、維持管理に関する技術開発と人材育成を目的として、活動を行っています。


住宅医スクール

2006年に岐阜県立森林文化アカデミーで開講した「木造建築病理学」講座を軸に、既存住宅の調査・診断から改修設計・施工に至るまでの実践的な手法を、実務者が学ぶためのスクールです。2009年に名古屋で開講し、2011年から東京でも開講します。様々な要因から多種多様な経年変化を有している既存住宅の改修に際しては、実に多様かつ柔軟な対応が求められます。調査・診断や改修設計・施工の技術は発展途上ですが、スクールを通じて、地域の住まいのドクターである「住宅医」を、より多く育成することを目的としています。

講義内容については状況に応じて随時改良していきますが、耐久性能と維持管理、木材の劣化、耐震、温熱・省エネルギー、など、現在は24の講義を基本としています。全ての講義を受講された方(住宅医修了生)に住宅医修了証を発行します。


住宅医の認定

住宅医では、特に実践力を重視しています。住宅医修了生を対象に、毎年1回、実施物件のプレゼンテーションによる住宅医検定会を開催します。机上の知識だけでなく、依頼からリフォーム完了までの住宅医としての実践力を、スクールの講師及び受講生により総合的に判定し、合格者を「住宅医」として認定します。
(※現状では、あくまでも住宅医ネットワークによる認定です。実務者の育成や活動の普及 を目的としています。)