住宅医コラム 意見交換2017-77
「ためしてガッテン・トイレ事件」ってご存知ですか? 2015年9月2日放映のNHKのTV番組「ためしてガッテン」のタイトルが「家族が涙!トイレ問題大解決スペシャル」。トイレ問題となれば、みないわけにはいきません。さすが、ためしてガッテン。実験をもとにした検証により、洋便器を使って男性が立小便をした際の尿ハネの実態を明らかにしていたのです・・・今年は、健康にも直結する「トイレ」に注目して、住宅設計のポイントを抑えていきたいと思います。今月の「トイレコラム」は尿ハネ対策の仕上げ事例のご紹介から。
「トイレコラム」
トイレの仕上げ ~ 実用面と豊かさと。
三澤文子(MSD)
「ためしてガッテン・トイレ事件」ってご存知ですか? 2015年9月2日放映のNHKのTV番組「ためしてガッテン」のタイトルが「家族が涙!トイレ問題大解決スペシャル」。トイレ問題となれば、みないわけにはいきません。さすが、ためしてガッテン。実験をもとにした検証により、洋便器を使って男性が立小便をした際の尿ハネの実態を明らかにしていたのです。
さて、その数日後、設計の打合せの際、住まい手さんから「ためしてガッテンをみたんですが、尿ハネが凄くてビックリ。小便器をつけることはできませんか?」とのお話でした。小便器をつけるとなると、それなりの広さが必要なので、プランに影響します。その数日後、他の住宅の設計打合せでは、「うちは座ってしてもらうので、大丈夫。それにしても・・・」と「ためしてガッテン」の話題が続きます。そんなことで、この騒動を「ためしてガッテン・トイレ事件」と私が呼んでいるのです。
トイレの尿ハネについては、それまで住まい手さんとの打ち合わせで、それほど話題にならなかったものの、便器周りの仕上げには、それなりの配慮をしてきました。私の住宅設計において、トイレの壁の仕上げは、木材と珪藻土の2種類のみですが、便器周りは、必ず板張りの仕上げにしています。ただこの番組が話題になって尿ハネを意識してから、便器周りのみ台所の壁に使うキッチンパネルを使ってみました。トイレの幅が狭い(内法790㎜)場合です。
腰は杉板張り。便器の周りのみチリ無しでキッチンパネル貼。
白いキッチンパネルは、艶消しを使えば、嫌み無く、木材や珪藻土にも馴染むと考えてのことです。また、機能的に水拭き掃除が容易だということが一番の理由ですが。
また、床は他の部屋と同じ板張りですが、便器周りに大判のタイルを貼ることがよくあります。実際、このような狭い範囲で効果はどうなのか?そもそも床だけでいいのか?と考えてしまいます。
拭きやすい材料を使っても、床や壁の拭き掃除が必要。ということになりますので、掃除を頻繁にするのか、しないのかという問題になってきます。掃除をマメにする家では、板張りでもいい味に変化していくだろうし、しない家では、仕上げで配慮するほか、小便器をつけるか、男性にも座って使用して頂くことをお願いたいものです。
さて、仕上げについては機能的なことも大切ですが、その他にも大切な要素があります。というのは、トイレは一人きりになる大切な空間。家族が使うのは基本ですが、お客様も使います。
トイレというと、ある大工さんの発言が忘れられません。「リビングなどでは、家族と話をしたりテレビをみたり、日々暮らしていて、部屋の隅々をじっと見る機会は意外に少ないものだが、トイレでは、じっと隅を見たりする。だからトイレの仕上げや造作は気合をいれて入念につくるようにしているよ。」
全く同感です。私も、どこに行ってもトイレ内の観察をしてしまいますし、良いトイレの店舗や旅館は評価が高くなるものです。
そこで、お仕事柄、来客が多いお宅のメイントイレの壁に、漆塗りの板を張りました。
土間サロンにある玄関。その近くにあるメイントイレ。天井は大きくアールになっていて、柿渋紙貼り
床は桧板張り。便器下には大判のタイル。
漆は殺菌効果があると言われています。具体的にそのような利点があるのか今のところ追求していませんが、漆に殺菌効果があると聞いただけで、何か清らかな気がするものです。床は桧板ですが、便器の下には大判のタイルを貼っています。
天井は柿渋紙貼です。私にとって、この柿渋紙がトイレの天井仕上げで定番になっているのは、経年変化とともに、より一層色が濃くなり、深みが増すといった魅力ある材料だからです。
じっとしている空間こそ、他にはない仕上げ材料を。ということで、機能面ではあまり追及されない天井に、いち押しの素材を使っているというわけです。
そもそも、柿渋紙を、最初に使ったのが、我が家のトイレ。すでに25年ほど前になりますが、その時に貼った柿渋紙が、年を経ることに良い味わいになっていて、訪れる人たちに自慢しています。
トイレの巾(内法)955㎜。床は厚30の桧板。良い色に経年変化している。
トイレでは、一人でじっと眺めているせいで、素材の特性や、おさまりのことなど、気づきが多いというわけです。