住宅医コラム 意見交換2015-60

妻にとっての定年リフォーム
宝塚Iさんの場合 ~ その11
 バリアフリー対策の懸案事項
三澤文子(MSD)
 
 
11月5日は東京の住宅医スクールを聴講しました。溝口千恵子先生の「住宅改修における高齢者対応~高齢化社会と住宅改修のニーズと実践」です。講義の中で資料には「高齢化」でなく「超高齢化」と書かれています。その後TVのニュースや新聞で注意深く見れば、もはや「超高齢化」という表現が一般化していることに、改めて気が付きました。
 
講義では、次のようなデータが示されました。高齢者人口2892万人の要介護高齢者率は16.77%、そして要介護高齢者の72.2%が在宅生活者。これは驚きです。
 
要介護者の多くが、介護付きの施設に入るのかと思いきや、在宅生活者がこのように多いとは。それもそうです。環境の良い介護施設に入るためには、経済的にかなりのゆとりがあることが必要とされるのでしょうから。
 
また、高齢者の家庭内事故のことについても講義で説明がありました。Iさんのご主人が心配されるヒートショックでの死亡事故は住宅内の事故死のなかで最も多いのですが、「スリップ、つまずき、および、よろめきによる同一平面上での転倒」が次に多い数字。死亡人数ではヒートショックでの事故死の1/3ほどですが、この転倒を引金に寝たきりになってしまう人がほとんどだ。ということなのです。溝口先生のお身内でも、最近、同じように転倒、骨折そして現在介護施設に移転した、とのリアルなお話も聴きました。
 
講義では、同一平面上でもつまずきは、高齢者の脚のもつれやよろめきなど、身体能力の低下に起因するものとの説明も聴きましたが、やはり床のレベルは基本的に段差無くフラットのほうが良いと私は思っています。I邸も、この改修で床の段差はすべて無くしました。
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数寄屋の設計がお得意の、奈良の梅田工務店、梅田宗春氏は「和室は、床埃を畳に上げないために敷居分(40㎜)上げるのが作法だ。」といって、畳のレベルと板間のレベルを合わせてフラットにすることを「それは和室をつくる作法から外れる。」と断言していました。私も「ウーン…」とうなったきり答えることが出来ませんでしたが、やはり段差なしが良いと思ってしまいます。最近はお掃除ロボット・ルンバが働けるように。という理由も増えましたが。
 
 
ところで I邸では、懸案事項が残っていました。かなり昔に開発された住宅地であり、駅からも近い立地であるため、この敷地には駐車場が無いのです。石積の擁壁があり、駐車場をつくるにはさらにお金が必要です。
 
現在のアプローチは、玄関につながる階段ですが、坂道の最も低いところから上がるので、段数も多く、手摺もありません。
 

改修前のアプローチ階段

改修前のアプローチ階段


 
そこで、南庭にカーポートをつくのはどうか。という計画も浮上しました。坂道の前面道路は、南側が高く、敷地にすり付きが良いのです。カーポートからスロープを設ければ、デッキに上がりそのまま室内に入ることも可能になるのでは。という考えです。
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ただ、今回は見合わせて、しばらく今まで通り、少し離れた駐車場を使うことになりました。ひとまずは、いままでのアプローチ階段に手すりを設けています。
 
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Iさんご夫妻は、私よりはるかに健脚の雰囲気。今のところはこれで大丈夫そうです。
 

つづく