事例紹介2015-46 東京都国立市 「旧高田邸解剖図展」
旧高田邸と国立大学町~85年の物語~「旧高田邸解剖図展」
旧高田邸プロジェクト実行委員会 酒井 哲
前回の事例紹介でお伝えした、旧高田邸の現況調査をまとめた「旧高田邸解剖図展」が3月16日から3月25日に開催されました。今回はこのイベントの報告をさせていただきたいと思います。【旧高田邸と国立大学町~85年の物語~】では「旧高田邸解剖図展」の他、「医学博士・作家・高田義一郎展」、「国立大学町展」、「昭和モダンなりきり写真館」そして土日には雑貨マーケット「ゆる市」が催され、会期中の10日間に住宅のオープンハウスとしては異例の3000人を超える来場者がありました。建物に興味のある人、なんとなく気になっていた人、雑貨が目当ての人等、皆さん最初の目的は様々ですが、一度玄関に入ると建物の魅力に感化され、4月に解体されることを惜しみつつ会場を後にしていました。
少し長くなりますが、このイベント開催の経緯を紹介しつつ、ご報告したいと思います。一連の企画は2014年の秋、多摩の地域郷土誌「多摩のあゆみ」で小生が担当している建物の連載を読んだ読者から「昭和初期に建てられた洋館を春に解体することになったので、その前に建物を役に立てたい」とのお手紙を頂いたことからスタートしました。その後、様々な出会いの中で、ほんとまちの編集室として活動している「国立本店」の皆さんが中心となり、旧高田邸と、建て主の高田義一郎、そして昭和初期の国立大学町の魅力を紹介し記録する「旧高田邸プロジェクト」が発足しました。その中で私は旧高田邸:建物を担当しました。
旧高田邸は国立町の創成期の建物で、昭和初期の文化住宅の特徴を留めた建築として文化財的な価値の高い建物でした。しかしながら文化財になっていなかったため、公費で記録調査を実施することが難しく、残された方法は有志を募り記録を残すことでした。医学博士・高田義一郎氏の住宅であったことから、建物を人間ドックのように調査し、診断することが、旧高田邸の記録には相応しいと考え、住宅医協会に旧高田邸調査の相談をしたところ、二つ返事で協力いただくことができました(1月22日の最終講義の懇親会の席のことでした!!)。そして、前回の事例紹介2015-45のように3月8日に25名もの住宅医関係者に馳せ参じて頂き「旧高田邸実測・調査会」を実施することができました。
旧高田邸解剖図展は二階の応接間で開催しました。3月8日に実測した全野帳と既存ドックの6つの調査診断項目(劣化、耐震、省エネルギー、維持監理、バリアフリー、防火)を評価し、パネル化しました。実測した図面を展示することで、床下、壁の中、天井の上がどうなっていたのか、現場の臨場感が見学者に伝わるような展示としました。来場者は老朽化のために解体することになったと思い込んでいる方が多く、築85年の住宅でも適正に改修すれば、普通に住める家に直すことがきることを説明しました。旧高田邸は残念ながら解体されてしまいますが、古い建物であっても快適な住まいへと改修できることを、感じとっていただける展示会になったと思います。
既存ドックの診断結果チャートは、建物の状況が一目で分かり、好評でした。また、会場に住宅協会の資料(住宅医協会リーフレット、調査の案内、書籍のチラシ)と「多摩のあゆみ」をフリーテークとして用意しました。残念ながら来場者数の割には、チラシを持って行く人は多くありませんでしたが、何故か専門家向けの住宅医協会のリーフレットは人気で、最初になくなってしまいました。逆に、一般向けに用意した調査案内のリーフレットははけず、在庫が残る結果に……。どうもリーフレットの内容とは関係なく、見た目のインパクトで手に取るようです。今後のチラシの作り方の参考になりました。
3月17日には「建物調査解剖トーク」と題して、調査結果及び住宅医協会の活動と改修事例を紹介するトークショーを三澤文子さん、田中ナオミさん、滝口泰弘さんと酒井の4人で行いました。こちらも30人を超える参加者があり、用意した席が足りなくなる程盛況でした。改修における調査の大切さ、古家も直せば住めるということを、参加者にアピールできたと思います。建物を調査して直すだけでなく、住まいの問題を解決し、既存の建物の良さを引き出すのが重要と、田中さんが事例を通して住宅医の役割を熱く語ってくれました。質疑では改修の予算面での疑問が強かったようですが、旧高田邸も2000万円あればなんとかなる、という三澤さんの回答に会場全員が合点しました。今回の解剖図展では調査・診断結果チャートの提示で終わってしまい、次の改修費用の算段まで行なえませんでしたが、実際に直す場合はいくらかかるのか??このもっともあいまいな問いにたいして、当たらずとも遠からずの具体的な数値を出すことの重要さを改めて実感しました。
以下、高田義一郎展、昭和モダンなりきり写真館と国立大学まち展の様子です。会期中はモダンガール協会の浅井カヨ氏、音楽史研究家の郡修彦氏、法学者の白田秀彰氏が昭和初期の服装で旧高田邸に登場し、昭和初期という時代を再現してくれました。会期の後半は雑貨マッケート「ゆる市」、コンサート、さらに晴れた日には建物のライトアアップが行なわれ、多いに賑わいました。
そして、3月25日さよならイベントは無事終了ました。
旧高田邸解剖図展を全面的に協力して頂いた住宅医協会、実測に手弁当で参加してくださった建築士の方々に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
旧高田邸解剖図展で制作したパネル等はくにたち郷土文化館に寄贈させていただきました。
また、旧高田邸プロジェクト実行委員会では「旧高田邸と国立大学町~85年の物語~」でまとめた、旧高田邸と高田義一郎のことをより深く知っていただく為に、公式カタログの制作を検討しています。野帳や診断結果も整理してカタログの中にまとめさせていただく予定です。カタログ制作に際し、資金調達の手段としてクラウドファンディングサービスを利用することにいたしました。 是非趣旨にご理解いただき、ご協力&拡散いただければ幸いです。
READY FOR? 「国立大学町最初期の住宅・旧高田邸を記憶に残すカタログを制作!」
4月30日(木)午後11:00 まで