各地の住宅医の日々No.31 歴史からの視座と住宅医

土居 良助住宅医 /  一級建築士事務所 CAVOK Architects / 香川県高松市

奈良県王寺町で過ごした先月末の三日間は感慨深いものでした。それというのも、「全国近代化遺産活用連絡協議会」の大会で近代化遺産の保存・活用の事例を実際に訪問し、実感する機会を得られたからです。

実は、香川県でも歴史的な建造物の保存や活用を学ぼうという機運の高まりから、ヘリテージマネージャーに準ずるかたちで保存活用のノウハウを学ぶ講座が2016年に初めて開催されました。2018年には講座修了者を中心に保存と活用をめざす団体も組織され、私も活動しています。

歴史的な建造物というと、まず思い浮かぶのは由緒ある社寺や地域の原風景を想起させる古民家、そして前述のような近代の建造物です。

成るほど、建造物が時代を重ねて存在し続けると歴史的、文化的に意義があることは理解できます。しかし、そのような建造物として定義される時間は思いのほか短く、法的にはわずか築50年とされています。

私は住宅医にとって、この「50年」という時間は案外キーポイントではないかと思っています。

自分の数少ない経験から推し量るのも僭越なのですが、改修を前提とした詳細調査の対象として住宅医が関わる建物は、概ね築50年前後(長いものでも100年くらいでしょうか)のものが多いように思います。

住宅医の大きな役割のひとつは、「現在」の視点から建物の価値評価を行い、将来世代のために改修することにあると私は理解しているのですが、前述の定義に基づくと、意識するしないに関わらず常に歴史的建造物と対峙しているとも言えるでしょう。

そのように考えていくと、調査から改修に至る過程において、背景に隠れている歴史的で文化的な価値も決して疎かにはできないことに思い至ります。

しかし50年という年月は、建物にとって短いこともあって、歴史や文化、風景といった視点からの価値を見いだすことはなかなかに難しいようにも思えます。そのような現状を踏まえると、現場に立つ私たちは、まだ気付いていない価値を見いだす目を鍛えなければならないと強く感じます。

見ているはずなのに気付いていない「価値」や「意味」はまだたくさんありそうです。

 土居良助
©Doi Ryosuke , jutakui