各地の住宅医の日々No.29 ~意志なくしては残せない集落の景色(滋賀県より)
市川由美子(住宅医 / 株式会社坂田工務店 / 滋賀県)
滋賀県大津市の工務店で設計を担当しています。当社では私が住宅医スクールを受講する以前に、社長が滝口泰弘先生を存じ上げていたご縁で、住宅医の建物調査を依頼して学ばせていただく機会を持つことが出来ました。滝口先生と他4名ほどの方に来ていただき、当社大工二人と設計担当の私が一緒に調査をしました。野帳の描き方や床下の調査記録方法など様々な手法を学ばせていただきました。
その後、作っていただいた 診断レポートも詳細なもので お客様の建物への理解が深まるとともに、改修設計についても冷静に判断できる重要なものであることに気づきました。
その際に調査・改修した建物は、築180年ということで傾きが大きかったり、昔の土壁のままであったため、雪の日には雪が室内にまで入ってくることもあり、改修しがいのあるお住いでした。
傾きに関しては ワイヤーをかけて建起こしをし、柱の根継ぎと足固めを入れる工事を施し 安心感が大きく増す改修ができたと思っております。まだ若い庭師さんファミリーのお住まいです。ご夫婦とともに家もまだまだこれから年を重ねていきます。
この改修工事の後、私と現場監督、大工二人も続いてスクールを受講させていただきました。スクールでは多くの事例について詳しく聞かせていただけたので、その学びが現場でも生かせ、工法の検討がスムーズに進むようになりました。
改修は家毎にそれぞれ条件が違うため、いつも方向性を決めるまでに時間がかかります。
特に改修工事費用の中でも大きなウエイトを占める基礎工事については毎回頭を悩ませていますが、昨年 石場建ての家を改修した際に、スクールでお聞きした例を参考に「コンクリートの耐圧盤を打つ方法を採用したい」と監督と大工に提案したところ、監督も大工も快諾。(新しい工法は工期やコストの面で却下されることが多かったのですが・・・)耐圧盤を打つ前に柱の傾きや高さを調整し、支える金物が必要です。現場担当者は、事例で使用されていたφ16㎜の市販品では心許ない気がすると考え、近所の鉄工所でφ22㎜の鉄筋によるジャッキ金物を作ってきてくれました。大工は「やってみると二人いれば十分でスムーズに作業できるし、一本一本の柱の高さ調整がやりやすい」と好評でした。様々な事例に学び、自分たちなりのアイデアを加える事が出来、自信を持って提案できるようになってきています。
私は15年ほど大阪の設計事務所で仕事をしていましたが、田舎暮らしがしたくて滋賀に移住してきました。私が好きな田舎の風景は圧倒的な緑の中に深いひさしの伝統的な民家が建ち並ぶ集落の景色です。この風景は、守っていこうという意志なくしては残せない。と、つくづく最近思うのです。古い民家の魅力を引き出し、安心して住めるよう家守りをしていきたいと思っています。
前述の庭師さんの家ではマルシェが開かれることもあり、集落に活気が生まれています。
市川由美子
©Yumiko Ichikawa , jutakui
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株式会社坂田工務店 https://www.sakatakoumuten.co.jp/