各地の住宅医の日々No.26 ~木造密集地での日常

伊澤 淳子 (住宅医 / 一級建築士事務所 伊澤計画 / 東京都)

東京の墨田区で設計事務所をしています。北部の木造密集地です。関東大震災でも、東京大空襲でも被害を免れて残った家が沢山あるエリアです。区内は東墨田が 準防火地域であるのを除いて、全てが 防火地域あるいは 新防火地域となっています。ですので、ほぼ住宅は 準耐火45分以上の建物となります。空襲で残った家はほとんどが 既存不適格となっています。
さらに隅田川と荒川に挟まれ、地盤もよくありません。

墨田区 防火地域図 イメージ

10年くらい前から区役所の空き家対策係に週3時間ほど非常勤でお手伝いしています。
利活用というよりは、放置され老朽化した空き家の対策部署です。
近隣から苦情が来れば、建物の所有者を探して、この先どうするか意向を伺い、苦情の元を取り除くよう補修や解体の誘導をします。
改修して利用ができそうか? 解体する上での問題は何か? 借地権はあるか? 接道が取れていない場合、区の条例を使って新築の可能性があるのか? 他の部署に回した方が良いか? など所有者に提示できるように区の職員と話をします。
住宅地区改良法に規定する「不良住宅判定」の採点もします。(100点を超えると除却の助成金の対象となります。)
その中で複雑化させているのが権利関係です。借地の場合に困難な場合が多いです。所有者が亡くなり、相続者が多かったり、海外にいたりすると、解決するまでに数年かかることもあります。
長屋の場合なども区分所有というケースが多く、所有者が複数存在します。耐震補強しようとしても、所有者の合意形成が難しいです。また、耐震助成額も住宅1棟と同じ扱いですので、なかなかすすみません。


▲右側は相談を受けた長屋(銘酒屋だったそうです。)

木造三階建の住宅が 準防火地域でも建てられるようになり、あちこちにメーカーの建売住宅が目立つようになりました。それは商店街にも。作りは通りに対して閉鎖的なプランが多く、商店街としての賑わいを分断してしまいます。
コロナ禍ではリモートワークが増え、ちょっとしたコミュニケーションを求め、散歩がてら買い物に来る人が一時的に増えていました。最近は新しいお店もいくつか生まれています。

今、関わっている仕事は新築ですが、クライアントは商店街のパン屋のオーナーで、まちづくりの専門家でもあります。商店街の近くに建売住宅が建つはずだった土地を買い、1階はシェアオフィスとキッチン、2階は長屋にする工事が始まっています。商店街の活性化につながるはずです。


▲青いブルーシートのところが工事中の物件。

建築基準法と多くの古い建物の間に挟まれながら、まちの魅力を失わず、建物が少しでも安全になるよう、直しながら住み継ぐ一助を担えれば、そう思っています。


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一級建築士事務所 伊澤計画