住宅医コラム 意見交換2018-86

住宅医リレーコラム 2018年11月号
リレーコラムでは毎月住宅医協会の理事等による月替りコラムです。
11月号は村上洋子氏のコラムです。

 

マイカ先生との再会

村上登男一級建築士事務所 村上洋子
 
スティーヴン・マイカ先生に、6月下旬のオックスフォードでお会いしました。住宅医スクール初日第一講義のスライドに、英国レディング大学の building pathology(建築病理学)の教授として登場された先生と言えばお分かりになると思います。2014年9月にレディング大学を退職され、現在はオックスフォード近くに住まいつつ、複数の改修と新築のプロジェクトを掛け持ちし「定年前より忙しい」と話す先生は、相変わらず気さくで活気に溢れていました。
6年ぶりの再会で、私は今の住宅医協会の様子と、今年4月に宅建業法が改正され建築士による状況調査が必要になったことなどを報告し、先生からは現在手がけているプロジェクトに絡め、英国の不動産市場についてお話を聞くことができました。ご存知の通り、英国では既存住宅流通が新築より圧倒的に多く、また不動産の価値は築年数が経っても下がることはありません。住宅の購入は安定した投資の一つで、収入の少ない若い時に小さな家を買い、家族の増加など生活環境が変わり、家が手狭になったタイミングでより大きな物件に買い替え、子育てが終わって居住人数が減ると、大きな家を売り再び小さな家を購入したり高齢者向けの施設に入居したりします。こうすることで得た利益は老後の資金となるのです。
例としてイングランドの地方都市にある住宅を紹介します。中央に界壁があり左半分を知人のご両親が所有しています。約25年前、結婚と同時に購入し、子供が増えた時、裏庭に一部屋増築して今もお住まいになっています。右半分の住宅は何度か売りに出され、売却価格は2001年から2013年の12年間で2.4倍です。25年前からだと何倍になっているのでしょう?
ところが不動産価格の高騰で、若い人でも手に届くはずの「最初」の住宅まで高額になってしまいました。ロンドンなど大都市はいうまでもなく、マイカ先生が暮らすオックスフォード郊外の町も同様で、簡単に購入できなくなっているそうです。マイカ先生も最初の家を購入してから、DIYでコツコツ改良し価値を高め転売、現在の住宅を手に入れたそうですが、先生やご友人のお子さんは高額なローンの返済に時間と精神的な余裕がなく、「代わりに退職した父親達が子供の家をDIYしている」と笑って話されていました。
 

 
先生とおしゃべりしながらオックスフォードの古い街並みを歩いていると、話題は自然に目に入る建物の劣化と改修方法になります。素材は豊富にあり、あっという間に時間が過ぎてしまいました。私の後に、現在進行中である「新築」のプロジェクトの構造エンジニアと打ち合わせがあると颯爽と去って行かれる先生を見送りながら、次にお会いする時は建築病理学の専門家がこれまでの経験を新築にどう生かしたか、竣工後の建物でお話を伺いたいと思いました。