住宅医コラム 意見交換2017-84

「トイレコラム」
トイレ設計手法 ~ 事例から見るトイレ空間③
三澤文子(Ms建築設計事務所)
 
 
秋のトイレコラムは、トイレ内部空間について3名の住宅医が設計したトイレ事例を紹介していきたいと思います。
住宅医3人目の11月は東京の古川泰司さんのお仕事をご紹介させて頂きます。
古川さんには、10月に大阪のMOKスクールで講義をいただきました。
その中で、小さな住宅でのトイレのお話しが興味深かったので、このトイレコラムにてご紹介したいと思います。
その住宅は東京都内の、ある旗竿宅地にあります。夫婦2人が住む18坪ほど+ロフトの小さな住宅で、
1階が水廻りと寝室、2階がキッチンとリビングダイニング+ロフトという構成です。
旗竿にあたる部分には、1階は玄関、2階はワークスペースを突起させるように配しています。
 

 
2階のこの突起部分であるワークスペースが小さな家のポケットのような空間になり、
ゆとりの空間になっていました。
さて、トイレですが1階の玄関から入って左水廻りの中にあるトイレです。しかも入り口には戸がありません。
2階から階段を下りたとたんトイレまで見通せる状態です。
 

 
極めてすっきりしたトイレ空間ですが、いままでのトイレ論が覆された感があります。
お客としてこの家に来た場合は、トイレを我慢して近くのコンビニに行くしかありません。

 
 
そもそも、この家の内部には浴室の入り口以外、建具がありません。
夫婦のみの生活の場ならそれも良し、という割り切りなのでしょう。
おそらくこの写真は竣工写真で、実は便器と洗面器の間に洗濯機が置かれるので、
多少隠れる部分ができる。とも言えますが。
その後8年が経ち、夫婦がホームステイの学生さんを受け入れることになった際、もろもろ改修を行ったそうです。
学生さんにはロフトを個室に提供し、夫婦の寝室にも引き戸を設け、
もちろんトイレを含めた水廻りにも建具をとりつけました。
 

 
これでなんとか、安心して使えるトイレになりました。
つまり、個人差はありますが夫婦だけでの住まいではプライバシーは無く、
家族以外が共同で暮らす場合にプライバシーが必要になる。という基本的なことを示しているようです。
ゴリラやチンパンジーなどにはプライバシーは無いそうですので、トイレに戸が無い家に住む夫婦は、
より原始に近く、標準的現代人は夫婦であってもプライバシーを確保することが必須で、
トイレにこもって本を読む、とかトイレにスマホを持ち込んで長居する、
という「小さな閉じた空間」としてのトイレを必要とするのが、現代人なのかもしれません。