住宅医コラム 意見交換2016-69
古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? まずは、壊されずに残り、愛されて使われている建物を大いに褒めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「褒められること。」と多くの人に認識してもらうことなのではないか。と考えました。
今月の、褒めコラム「改修建物を訪ねて」は、広島県福山市鞆の浦の「後山山荘」です。
「改修建物を訪ねて~その8」
新進気鋭の建築家が再生~聴竹居を彷彿とさせる後山山荘
三澤文子(MSD)
昨年の住宅医スクール大阪、6月の開講日に、ゲスト講師として講義を頂いた、建築家・前田圭介さん。その前田さんが改修設計をされた「後山山荘(うしろやまさんそう)」を昨年11月に訪ねることができました。
阪神淡路大震災を契機に開校したMOKスクール大阪のフィールドツアーの企画でしたが、じつは住宅医スクールでも研修旅行があれば、是非訪れたい建物です。
この後山山荘があるのは広島県福山市鞆の浦。素晴らしい景観の地です。
前田圭介さんが福山市の出身で、今も福山を拠点にして世界的に設計活動をされているのですが、この地の生んだ建築家・藤井厚二(1888~1938)と同郷であることが、この改修の仕事をされた縁となるのでしょう。
京都・大山崎にある聴竹居を彷彿とさせる 後山山荘は、建築家・藤井厚二が、お兄さんのためにつくった昭和初期の別荘。それを2013年に前田圭介さんが改修設計し、見事に再生させています。
高台にある後山山荘へのアプローチ。
期待感をそそる小道です。
独り歩きがちょうどの巾のこんな小道が、工事にとってどんなに厳しい条件になるのかも想像に余りあります。
期待の先にある佇まい。
凛としてこの地に存在し、私たちを迎い入れてくれる、後山山荘。
再生までのプロセスは、前田圭介さんの講義で聴いていたものの、時間をかけて、しつこく丁寧にすすめてきた道のりがあったことに、改めて敬服せざるを得ません。
また、今後の維持に関しても、ボランティア団体をつくるなど、尽力を惜しまない姿勢に対し、微力でも応援したい気持ちになります。
尚、見学は毎月第2日曜日の10時から15時まで受け付けているようです。
雨に濡れた夕闇近くの情景。
時代を越えて上質なものと対話できることは、本当に価値あることです。
高台のこの地からは瀬戸内海に浮かぶ小島や行き交う船の景色を見下ろすことができます。
大切なものを壊してきた時代を過ぎた今だからこそ、壊されずに残った景観を、大切にしていきたいと思います。