住宅医コラム 意見交換2016-67

古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? そのためには、まず、壊されずに残り、愛されて使われている建物を、大いに誉めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「誉められること。」と、多くの人に認識してもらうことなのでは? と考えました。
今月の、誉めコラム「改修建物を訪ねて」は、鉄骨の自動車修理工場を木の香る事務所空間にリフォームしたNPO法人WOOD ACの社屋です。
 
「改修建物を訪ねて~その6」
自動車修理工場を活かしたリフォーム~木の香るWOOD ACの事務所空間
三澤文子(MSD)
 
NPO法人WOOD ACの拠点は岐阜県美濃市にあります。設立当時からの事務所が手狭になり、3年前ころに移転を決意、空家などを探していたようですが、国道からほんの少し入ったところの古い鉄骨の自動車修理工業を借り受け、リフォームをして事務所空間に。2014年春に完成しました。
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シャッターのある工場然とした構えからも改修前の状況が想像できます。工場だったというのが魅力だったのは、WOOD ACの主なる仕事の一つが、「構造実験のコンサルタント」であり、試験体を制作したり、準備したりと、土間の工場的空間が必要だったから。ということです。
 
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ただ。玄関部分は、WOOD AC らしく木材が使われていて、ほのぼの感があります。
 
玄関ホールは、そのまま打ち合わせ室。ソファーベンチをまわして、沢山の人が座れる椅子を、お安く造る方法です。設計はMs建築設計事務所OBの中島昭之君ということですから、馴染みの手法が見てとれます。
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天井は、梁上にJパネル張。2階があるのか?と思いますが、この上はプラットホームになっていて、どこからも見えにくく、溢れた書類・書籍を置く収納空間にしているとか。
それで、すっきり片付くわけですね。
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そもそも、工場の中に箱を置くような考え方なので、屋根は必要ありません。
「これは確認申請、出したの?」と誰かが質問すると。「出してません。」とWOOD AC代表理事の河本和義氏が即答。
「そうか、インテリアということですものね。」とウィットの効いた受け答えに笑いが起こりました。
それにしても、格天井のように小梁が入ってJパネルに打つビスの数も多そうです。さすが構造系のメンバーが多いことがうかがえます。
 
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打合せ室の壁に、穴の空いた鋼鈑が見えます。これは耐力壁になるパンチングメタルだそうで、商品名は「パンチくん」。これも実験依頼があった製品だということです。
光がもれる感じで、かつ軽い雰囲気の壁として、使えるかもしれません。
 
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設計室内部は、木の香りのするようないい雰囲気。10名ほどのデスクがあり、本棚も充実していて使いやすそうです。
 
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設計室の天井にガルバリウム鋼鈑が見えます。これは、梁の上に、厚さ35㎜の「ニスクボード」を張っているからです。このニスクボードは、断熱材をガルバリウムでサンドイッチした建材で、断熱性能もあり、構造用面材にもなり一挙両得。これも、実験依頼のあった建材です。
工場内部は、いわば外気温と同じですから、快適な事務所空間をつくるためには、断熱化が必要です。今回このケースにおいては、とても良い選択だと思います。
 
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設計室内部の打合せスペースでは、WOOD ACの代表理事で、構造事務所TE-DOC代表の河本和義氏と、TE-DOC在籍、河本氏の右腕の福本満夫氏が。
この両名は、住宅医スクールの講師でもあります。
 
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裏にある通用口から外に出ると、工場内部です。右手、木の箱の様に見える壁の向こう側が、設計室。
これだけの作業スペースがあると良いですね。
右手奥には、古家の建具などが保管されています。羨ましいことです。