住宅医リレーコラム2019年4月

特定非営利活動法人木の家だいすきの会
 代表理事 鈴 木  進

人生100年時代の住まいのトータルサポートシステムの構築 報告

住宅医協会、NPO木の家だいすきの会ほか、金融機関、宅建事業者、工務店、設計事務所等が参加する「地域型住宅リノベーション推進協議会」を立ち上げ、平成29年度・30年度の2ヶ年にわたって住宅ストック維持向上促進事業(国土交通省助成)に応募し、採択されました。今年の3月には仕組みの完成報告書を提出し承認されましたので、この場をかりて事業の概要を報告したいと思います。


(1)概要


地域の木材を使用し気候風土にあった在来軸組工法の既存住宅(地域型住宅)を消費者が安心して購入・売 却、メンテナンス、劣化補修、及び性能向上改修できるよう、専門的な研修を受けた住宅医(建築士)等が窓口 となってワンストップサービスを提供した上、一定の住宅性能の住宅として認定し、リバースモーゲージローン やリフォーム一体型住宅ローンの金融商品を利用できる仕組みを開発しました。


(2)メンテナンスサービスのパッケージ化


メンテナンスサービスは基本サービスと有料のオプションサービスからなります。基本サービスには、住宅履歴情報の保管、ワンストップ相談、住まいの健康管理表の作成、住まい手による自主点検のサポート、定期点検から構成され、住宅医等が所属する設計事務所と工務店により提供可能なサービスです。また、有料のオプションサービスには、劣化診断、シロアリ点検、瑕疵担保責任保険、住宅設備機器の10年延長保証、24時間365日緊急対応サービス、修繕積立からなり、劣化診断を除き連携企業による提供を考えています。
この中で、一番、苦心したのは、定期点検です。というのは、定期点検は工務店が0.5人工程度で実施できる内容(経費約2万円)ですが、この費用を建て主に払って頂けるかというと、現在の段階では、「2万円も払うのなら、定期点検は要らない」と考える方が多いのではないか、ということが見えていたからです。住宅ストック維持向上促進事業に取り組む全国のグループも同様の悩みをかかえ、いろいろな工夫をしていました。当協議会の提案は、工事とその後のメンテナンスを一体的にサービスして、工事費に載せてお支払い頂くという方法としました。


(3)15年周期のメンテナンススケジュール


屋根・外壁の劣化補修は、足場を組んでの作業が必要になりますので、30坪の住宅で300万円前後の費用がかかります。これをどの程度のインターバルで実施するかは、ライフサイクルコストに大きな影響を及ぼす要素となります。例えば、40代前半で新築して、10年サイクルで劣化補修をしたとすると、70代までに少なくとも3回必要となります。これが15年サイクルになれば、2回で済みます。
マンションの修繕積立金の負担額は月2万円程度が多いそうですが、この程度の負担で実施可能なメンテナンススケジュールを検討してみて、15年周期のメンテナンススケジュールを提案しています。(図1)

図1 メンテナンス・スケジュール


(4)住宅の認定


認定住宅とは、新築または改修とメンテナンスの一体的サービスにより、一定の住宅性能を持ちかつ丈夫で長持ちする住宅で、住宅医等(*1)が認定した住宅です。ブランド化することで、消費者にその価値をアピールすることをねらいとしています。住宅性能の要件は、新築、改修いずれの場合も、新築時に義務化された瑕疵保険の検査基準に適合することを基本に、3つの住宅性能レベルを設定しています。

表1 住宅性能の要件


(5)住宅医等によるワンストップ相談


ワンストップ・ショッピングはスーパーマーケットの最大の強みで、行けば必要な買物はほぼ全てできるので大変便利です。住まいのワンストップ相談も同様に、新築・改修、維持保全、売買など住まいのことには、全て相談にのってもらえる窓口です。住まい手は、日頃の維持管理、小さな補修、設備の交換、大規模な性能向上改修など、相談先は設計事務所なのか、工務店なのか、メーカーなのか迷うところですが、全て相談にのってもらえる窓口が一本化していれば迷うことなく大変便利です。
一方、住まい手との緊密なコミュニケーションは、小さな補修工事だけではなく大規模な性能向上改修工事にもつながり、設計事務所・工務店にとっても大切な活動です。

●住宅医等によるワンストップ相談
かかりつけ医のように、履歴、相談、点検・診断のメンテナンスサービスの提供に関して住宅医等が一本化して受け付け、情報を一元管理することにより、劣化補修、調査診断、性能向上改修、売却などの住まいに関するメンテナンスを効率的に行うことを提案しています。
また、既存住宅売買や改修に伴う融資、瑕疵保険付保、設備保証、24時間緊急対応、積立制度については、提携する専門事業者と連携することで対応し、幅広いサポートを可能にします。(図2)

図2 住宅医等による地域型住宅ワンストップ相談)

(6)今後の取組


平成31年2月に事業の仕組みの完了報告書を国土交通省に提出し、承認するとの通知がありましたので、平成31年度は、開発した仕組みの試行事業に応募し、採択されれば、住宅の改修等に上限100万円の補助が認められます。ただし、工事期間が限定されるため助成を実際に利用するのは難しそうというのが実感です。
助成が受けられるかどうかは別にして、今回開発した工事後のメンテナンスの仕組みはさまざまな知恵を結集してつくっていますので、詳しい報告ができる機会を持てればと考えています。