「古民家への道」発刊に際して ~住宅医リレーコラム2019年11月

                       住宅医理事 松井郁夫 

住宅医の活動が大切なのは、すでにある建物資源を活かすことにあります。
特に古民家と呼ばれる明治24年以前の日本独自の建物は、欧米の影響を受ける前の

純粋な日本の構法の持つ文化と美学があります。

ただし残念ながら、民家の価値は、あまりにも身近で、ふつうの建物として顧みら

れませんでした。このままでは世界に誇る日本の技術を失います。
そこで、建築的かつ民俗学的視点を解明したいと考えました。

本書は、古民家の構造と美学と普遍性を解明し、再生法を紹介する一冊です。
日本の民家の再生を通して、本来の日本の住いのあり方と、これからの日本の住い

の行方を探るために、文化面と技術面の両方から古民家を解析しています。

今私達の住んでいる住いは、明治維新で西欧化し、第二次大戦後にアメリカンナイ

ズしたことによる構法の変化が起こり現在に至っています。つまり現代の日本の住

いは、構法の混同した和洋折衷の住いです。

明治以来、地震や台風の災害国である日本独特の構法が軽視され、優れた理念や技

術が伝えられてこなかったことに注視し、古民家と呼ばれる伝統家屋の理念と技術

に学ぼうとするものです。

日本の民家は、欧米の強度による力を押さえる強度設計ではなく、柳に風の力を逃

がす減衰設計です。その優位性を見直し、命を守るためには、自然の猛威をいなす

工法が必要であることを説くものです。

古民家の民俗学的な視点から、気候風土にそった美しさを継続し、さらに科学的な

実大実験による知見も加えて、新しい計算法「限界耐力計算」を紹介し、これから

の日本の住いの行方を追求しています。

この本では、全国各地の古民家再生の事例を示し、その具体的な実践手法を紹介し

ています。さらに、古民家再生の方法として「耐震性能の向上」はもちろん、地球

環境に負荷をかけない省エネルギーの視点から、「温熱性能の向上」を実現化する

手法も紹介しています。

古民家の再生は、日本の再生につながる。と考えます。いまこそ古民家を見直すこ

との大切さを住宅医のみなさんと共有したいと思います。

事例①「八王子の古民家」は、明治40年築の古民家再生です。
耐震補強は限界耐力計算に基づき、石場建てのまま行いました。
高ハッポウと呼ばれる屋根からの採光で室内を明るくしています。さらに断熱改修で、

G1レベルを獲得しているので、無暖房で10度を下回ることは有りません。

事例②「漢方の本陣」は、275年前の古民家再生です。
大きく傾いていた建物を治すことに苦労しました。柱の根元が潰れていましたが、金輪

継という根継ぎで全て改修しました。
強い壁を避けて板壁で耐力要素を担っています。床下エアコン一台で65坪の生活部分を

温めます。燃費計算によれば、費用は1/5まで少なくなりました。

  
2019年日本エコハウス大賞(リノベーション部門)を受賞しました。

事例① 八王子の古民家再生

事例② 漢方の本陣

「古民家への道」書籍紹介ページ(版元:ウエルパイン書店)