住宅医コラム 意見交換2016-73
古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? まずは、壊されずに残り、愛されて使われている建物を大いに褒めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「褒められること。」と多くの人に認識してもらうことなのではないか。と考えました。
今月の、褒めコラム「改修建物を訪ねて」は、京都市にある、魚谷繁礼さん自邸「永倉町の住宅」です。
「改修建物を訪ねて~その12」
魚谷繁礼さん自邸「永倉町の住宅」~京都路地奥の空間資源に色気を
三澤文子(MSD)
20年以上前のことだったか、建築ジャーナリスト・平良敬一さんの別荘(実は平良さんの息子さんの家)仙台の家を見学させて頂いたことがありました。設計は安藤邦廣さんです。そこで平良さんが言われたことが今まで心に引っかかっていました。「木造はもっと色があったほうが良い。この家もそうだが今の木造住宅には色気がない。」
その時は「色気って・・・?」と考えあぐねていたのですが、最近、改修の仕事が多くなり、時間を重ねて色づいた空間や材料の「色」が気になるようになりました。
そのことからか、新しい素地の木の色と、古材の黒の間にグラデーションをつけるように、木材や、壁、天井に少しだけ着色するようになりました。選ぶ色は、いずれも日本の伝統色です。
さて、今回、この連載「改修建物を訪ねて」の最終回は、かねてより訪れてみたかった、魚谷繁礼さんの自邸「永倉町の住宅」。色でいえば、日本の伝統色「黒鳶」の空間でした。
京都の路地奥の住宅。そのプロセスは、以前住宅医スクールのゲスト講義のスライドで見せて頂いておりました。ひどく傾いた柱や梁で、壁も屋根も傷んで荒れ果てていて、現場で、これを改修しなければならないのか。と思うと心が折れそうになる。そんな写真だったことを覚えています。
それを脳裏に浮かべつつ路地を進んでいくと、さりげなく敷きこまれた石畳に、格子の引き戸のある入り口付近までたどり着いたのでした。3軒長屋の2軒を1つに合体しての改修。その名残で、入口建具は2つ。既存の古建具を分解して格子を再利用し、背の高い引き戸が出来たとか。建具高さの変化も新鮮なスパイスになり絶妙。そして落ち着いた色感が懐かしさを醸し出しています。
室内は、吹抜けの大きな空間。壁の残し方や床のつくり方は、構造的に配慮して割り切りの良い明快さがあります。
外部の木製建具は古建具を利用していて、温熱的には弱いのですが、壁・屋根・床の断熱はしっかりされているとのことです。
2階の寝室から見下ろせば、お隣の界壁側が見えます。界壁の手前に柱を立てて2重の壁をつくり、さらに半間奥行の収納をつくっていてお隣との音の問題も心配なしとのこと。写真に見える古建具の上部の白い壁の向こうも、なんと梯子で2階だての収納になっています。かなりの収納量があり、すっきり暮らされていることに納得できました。
玄関土間の壁には、何やら、斜め格子模様の影が。これは、アンティークペンダント照明のなせる業、こんなところにも色気を感じます。
玄関土間の階段は、2階の寝室、ゲストルームにつながっています。
階段上からは、キッチンスペースが見えます。集成材に拭き漆塗りの調理台と奥の収納まで。キッチン側の古建具の収納には食器、什器や冷蔵庫がおさまっています。
改修前の弱々しく力無い既存構造材に、新たに構造材を入れて力強い架構を再構築していることに目を見はりつつ、補強材は古色に着色していますので、均整のとれた架構のみが目に映ります。
路地奥の突き当りが2階ゲストルーム。その窓から大通りまで見通せます。この部屋は、路地から直接入ることができる外部階段もあり、京都の夜を堪能したお友達が宿泊場所によく利用されるとか。
それにしてもこの窓から見える左手の改修住宅と、右手の錆びたトタンの壁。やはりこの色感が魅力です。
今ほど京都の地価が高騰していなかった数年前といっても、京都市内のど真ん中に土地と住まいを所有できるということは、本当に素敵なことです。この窓から見えるお庭が京都の大通りから少し奥に入った、その奥にあるのですから。
昼時におじゃまして、ランチまで。そんなひとときに、最近の路地奥のプロジェクトの紹介もいただきました。
路地奥に注目して、そこにある空間資源に目を向けること。京都に住みながら、身近な問題解決を実践している魚谷さんご夫妻を、こころから応援したい気持ちです。