住宅医コラム 意見交換2016-66
古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? そのためには、まず、壊されずに残り、愛されて使われている建物を、大いに誉めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「誉められること。」と、多くの人に認識してもらうことなのでは? と考えました。
今月の、誉めコラム「改修建物を訪ねて」は、住宅医スクール講師でおなじみ、小谷和也さん設計のマンションリフォームによるお住まいです。
「改修建物を訪ねて~その5」
木のマンションリフォーム~小谷さんの手法を探る
三澤文子(MSD)
数年前、小谷和也さんのお名前を、編集者の真鍋弘さんから教えて頂いて初めて知りました。「関西でこんな人がいるけど、知ってます?」と、真鍋さんはセンスのよい冊子を見せてくれました。2010年 私が音頭をとって発行をした「木の家リフォームを勉強する本」に掲載する事例をリストアップする作業で、「マンションリフォームの記事をしっかり入れたい。」という真鍋さんの意見があり、彼自身が小谷さんのHPを見つけたのでした。この本の、編集作業まで手伝った私は、ゲラの過程から小谷さんの仕事のおおよそを知り、「このかたには、すぐに住宅医スクールの講師になって頂きたい。」という思いから、今にいたります。
お陰様で、何十回というほど小谷さんの「マンションリフォーム」の講義を聞き、マンションリフォームの設計を警戒していた私が「やってみたい。」と思うようにもなりました。なぜ警戒していたかというと、それは近隣の音問題です。長閑に戸建ての木の家をつくるのと違い、むこうみずなことをするとタイヘン。という思いがあったからでした。その思いを解消してくれた内容は、住宅医の講義にありますので、ここでは割愛いたしますが。
さて、5月になったばかりの晴天のある日、運よくリフォームしたばかりの、小谷さんの自邸に伺うことが出来ました。
きめ細かく考えられた細部と、床、壁、天井の構成と素材感。清々しいという表現が当てはまる住まいでした。
写真提供 小谷和也氏
たとえば、窓のサッシは取り換えできないのが、マンション特有の設計条件のひとつですが、そのような「マンションなので諦めよう。」といったことに、あきらめない提案をしています。そして、その手法が、親切で且つ、いい感じなのです。
外部サッシも、内窓(既製品サッシ)で性能を上げ、さらに端正な障子で、シックなインテリアに変化させています。あえて真壁風の柱を設けていますが、90㎜角の細い柱で、憧れの軽やかさなのです。構造体でないので、細い柱や薄い壁がいくらでも可能。ふと前日訪れた京都の茶室を思い出しました。
床、これが講義で聴いた無垢の厚さ30㎜の杉板です。遮音性能を、実験を通して研究をかさね、無垢の杉板を使用するなら乾式二重床がベストをいうことも教えてもらいました。小節で赤み勝ちの吉野杉。スリッパ無しで暮らせます。
天井は杉板と、白の珪藻土塗りの構成。構成の一要素になっている梁型がむしろ好い存在になっています。さらに、間接照明を上手く仕込んで、杉に色味を与えています。2重になった杉板天井の色味の差ができて、杉板の様々な顔を楽しませてくれていますね。
写真提供 夏見諭氏
いよいよ、気になっていた台所や水廻り。お気に入りというモザイクタイル。色違いでトイレにも使っていました。ステンレスパイプも親切で且つ、いい感じです。
洗面台の収納は内部にもコンセント。親切で、且ついい感じ。隙間利用の工夫は、界壁のコンクリート壁で十分感じます。いかなる空間も使い切る意志が見えてきます。
もうひとつ変えることのできない玄関の鉄扉。ここも講義で聴いていたので、しまわれていた横格子の網戸を引き出してみました。この日は5月でも暑い一日。鉄扉は開け放していましたが、鍵付きの格子網戸で風通しの良い住まいになります。
マンションで諦めていることを、いちいちかなえてあげること。それは住まい手さんがワクワクすることなのではないかと思います。丁寧な設計手法が見て取れる住まいでありました。