シロアリが木材をかじる音を聴く ~摂食時に発生するアコースティック・エミッションの検出 ~リレーコラム2021年6月

簗瀬 佳之 ( 京都大学大学院 農学研究科准教授 )

シロアリ防除は早期発見が重要!

日本は気候が多湿で、木造住宅が多いなどの理由から、シロアリは木造建築物の害虫として最も重要です。また近年、住宅の高気密高断熱化が進み、シロアリにとっても住宅は温湿度の変動が激しい森林環境よりも生息しやすい環境となってきました。森林環境においては「益虫」であるシロアリも、人間の住環境においては「害虫」として扱われることが多く、これまで様々な対策が施されてきましたが、その一つとして、シロアリ被害を早期発見する技術の開発が挙げられます。

アコースティック・エミッション(Acoustic emission, AE)とは、材料内部での微小な破壊の進行過程を非破壊的に監視する手法です。AE波は、「破壊」という材料内部のエネルギー解放過程に伴って生じる弾性波であり、材料内部で発生する一種の微小な地震波です。木材加害昆虫(シロアリ、カミキリムシ、ヒラタキクイムシなど)が木材を摂食する行動は、木材にとっては一種の破壊であり、材料破壊と同じようにAE波が発生すると考えられます。今回は特にシロアリの木材摂食活動に伴って発生するAEを検出し、被害部位の特定や被害の程度を評価する研究について紹介します。

木材摂食時に発生するAEの検出

シロアリの職蟻がその口器で木材をかじることは、木材の破壊であると考え、職蟻の摂食活動によってAEが発生することが明らかにされてきました。プラスチック製容器内に木材試料を設置し、試料表面に高感度の振動センサ(AEセンサ)を取り付けます(図1 左)。センサからの信号(AE信号)は、増幅等の信号処理ののち、しきい値0.2Vを越えた信号をAE事象として計数します(図1 右)。AE波は微小な振動でノイズ(雑音)の影響を受けやすいため、数kHz~数MHzの超音波領域の振動をターゲットとして検出しています。容器内に構成頭数が異なるイエシロアリ(Coptotermes formosanus)の職蟻・兵蟻を封入し、摂食活動によって発生するAEを計測しました。

図1  シロアリ食害AEの計測方法と検出AE信号波形

職蟻・兵蟻の各構成頭数における1分間当たりのAE事象率を表1に示します。木材を摂食する役割をもつ職蟻の頭数が多いほどAE事象率は大きくなり、職蟻が0頭で、兵蟻だけの場合、AEは検出されませんでした。巣の防衛の役割を持つ兵蟻の口器は、木材を摂食するための形状をしておらず、摂食活動を行わないためにAEは検出されませんでした。また通常の巣内には職蟻以外の階級が職蟻の5~10%程度生息していることから、表中の職蟻のみより、ある程度兵蟻が含まれている方が、AE事象率が高くなる傾向がみられました。

表1 シロアリの頭数とAE事象率の関係

職蟻からのみAEが発生することが確認されたため、実際にCCDカメラによる職蟻1頭の木材摂食活動の観察と同時にAE計測を行いました(図2)。その結果、職蟻の摂食活動は、「引きちぎり」、「切り込み」、「掻き集め」の3つに分類されることがわかりました。「引きちぎり」は大腮を差し入れ、体を前後にゆすりながら、小腮で小片を引っ張り食いちぎる行動で、比較的大振幅のAEが検出されます。「切り込み」は、小刻みに大腮を切り入れる行動で、引きちぎりの行動に先立って行われ、AE発生数が多くなります。「掻き集め」は小腮を小刻みに動かしながら、口器全体で木材を掻き集める行動で、比較的小振幅のAEが検出され、発生数は多くなります。

以上の研究結果より、シロアリ食害によって発生するAEは、職蟻の摂食活動からのみ検出され、走行等の行動からは検出されないこと、また木材摂食という観点より兵蟻の活動からも検出されないことが明らかになりました。


図2  職蟻の摂食行動とAE発生の関係

AEモニタリングを用いた木造住宅におけるシロアリ食害検出

これまでの実験室における研究結果をもとに、シロアリ専用のポータブル型AE検出装置を開発し(図3)、実際の木造住宅でのシロアリ食害検出に適用しました。

図3  ポータブル型AE検出装置

イエシロアリの被害が発生した木造住宅においてAE計測を行った結果の一例を図4に示します。図中の●と×はAE計測点(AEセンサの取り付け位置)を示し、●はAEが検出された部位、×はAEが検出されなかった部位を示します。また、●の横の数字は、5分間当りのAE事象数を示す。間柱S1の上部において21, 61の、S2の上部において27のAE事象が計測されました。さらに一階と二階の間に挟まれている胴差し部分において、5分間で最高676のAE事象が検出されました。その横の位置でも計測を行いましたが、オシロスコープによるAE波形の観察の結果、AE事象率28と333の位置でのAE波の中にはAE事象率676の計測点付近で発生したAE波が胴差し内部を伝搬して検出されたと考えられるAE事象が含まれていました。さらに二階部分の間柱についても計測を行いましたが、AEはほとんど検出されませんでした。このことから、一階から進行したシロアリ食害は、二階へは進行しておらず、胴差しの長さ方向(水平方向)へ進行していると推定されました。また玄関側壁面の胴差しについてAE計測を行ったところ、廊下側に近い点では5分間で約20から30のAE事象が計測されましたが、廊下側から離れた位置では、AEはほとんど検出されませんでした。

AE計測終了後、図4で最もAE事象率が高かった点とその周辺3ヶ所に穿孔し、薬剤を注入しました。約3週間後に浴室周辺の壁紙および石膏ボードを外し、AE計測結果とシロアリの食害状況を比較したところ、AE事象率が最も高かった位置は、最も食害が著しい蟻道の先端とほぼ一致しました。

図4  木造住宅内でのAE計測結果

シロアリ食害検出から食害生態モニタリングへ

シロアリ食害検出のツールの一つとしてAEの研究を進める中で、木材中での目に見えないシロアリの摂食活動をモニタリングする手法としても利用可能であることが明らかになってきました。そして、シロアリ以外にも木材または竹材を食害する昆虫のAEモニタリングに関する研究を進めているところです。