投稿日:2016年03月10日

住宅医コラム 意見交換2016-64


古く素敵な建物が、簡単に壊されることを阻止するためには、どうしたらいいのでしょうか? そのためには、まず、壊されずに残り、愛されて使われている建物を、大いに誉めて、古い建物を壊さず大切に使うことが「誉められるれること。」と、多くの人に認識してもらうことなのでは? と考えました。

今月の、誉めコラム「改修建物を訪ねて」は、遠くイタリアのベネチアです。

 

 

「改修建物を訪ねて~その3」

時代をつなぐ~トビア スカルパの仕事「アカデミア美術館改修」

三澤文子(MSD

 

私たちの事務所は4年に一度、海外研修旅行に行くことになっています。今年はオリンピックイアーの旅行年。住宅医スクールで講師になって頂いた、篠田望さん(2015年度は浜松スクールの受講生でもありました)とのご縁で、なんとベネチア旅行が実現しました。

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古いものを大切にするイタリア。その建築は時代をつないで、改修が繰り返されています。町を歩いていても、船を使って建築廃材を運搬する様子など、通常の工事では考えられない悪条件が日常になっていることに感嘆します。

 

ベネチアでの改修建物、まず今月は、アカデミア美術館をご紹介いたします。

14世紀に建てられた建築物が1750年に美術学校として改修され、その後、1階が学校、2階が美術館の時代を経て、現在は美術館の機能のみになっています。

 

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平面図での解説では、パラディオ設計の増築棟もあり、ナポレオンにより改修された部分ありと、数々の変遷をへてきました。そして、現在、10年をかけての改修が、トビア スカルパ(カルロ スカルパの息子さんになります)の改修設計によりなされ、ほぼ完了しつつあります。

今回、スカルパ事務所に18年間勤められた、篠田望さんのお蔭で、トビアスカルパ氏じきじきの解説で、アカデミア美術館の見学が実現しました。

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写真中央がトビア氏、その横が篠田望さんです。

 

 

受付のスクリーンもスカルパデザイン。

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この格子に影響されている建築家は、日本でも大変多いことがわかります。でもこの格子も、トビアが改修する前は、倉庫に、使われずにおかれていたとか。それもびっくりです。

 

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こんどは、奇妙な梁がありました。

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この部分は、ある時代の改修において、原形の梁を装飾してしまったので、今回の改修で、「原形をわざと見せるようにしている。」とのことです。改修の変遷を明確にすることも、この時代に改修をする建築家の使命ということなのでしょう。

 

 

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こんどは、階段の踊り場にドアが。だまし絵のような壁ですが、これも改修の変遷とのこと。ナポレオン時代に改修した建築家が、無理やり玄関ホールにお決まりのゴージャスな階段を設けるために以前のプランを無視して、階段を上がりきった、写真右手に新たに設けたため、写真左手の以前の入り口が無意味になった図です。

 

その結果・・・

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部屋の中に入ると、新たな出入口の部分、大切な絵画を切り取る羽目に!

これには、トビア氏も大批判。

これもびっくりです。

いすれにせよ、私たちも数十年先の設計者に苦情を言わせない仕事をしなければならないのだと、身に染みました。

 

 

 

 

さて、時代が経れば、さまざまな変化もあります。数百年前には到底、考えられなかった設備が今は可能で、その設置が必要になります。

例えば、エレベーター

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この階段は、写真右手にあるエレベータの脇につくられた階段室。限られたスペースに設けられた機能的空間が今回トビア氏の設計で新たに改修されています。その上質な空間にうっとり。素晴らしい左官仕上げ。輝くような手仕事の壁が、その質の高さを実現させています。

イタリア語がわからなくても、仕事の質は解るもの。

時代をつなぐ仕事は、真剣勝負しかないのですね。

 

投稿日:2016年03月08日

事例報告(改修事例)2016-54


愛 の家 改修事例報告

・設計 監理:村上登男一級建築士事務所
       Nomad Architects 部 村上洋子
・施 工:有限会社 冨永工務店
・設計期間:2015.2~2015.7
・工事期間:2015.8~2015.11
・所在 地:愛媛県松山市
・建築年数:1968年(昭和43年)築47年
・構造・規模:木造2階建て 延床面 積:165.07㎡
1.DK
■概要 および改修に至った経緯■
住まい手であるご夫婦が、長く健やかに、ともに助け合いながら生活するための空間を作りました。

カトリック教会で知り合い結婚にいたったご夫婦の家庭は、愛に満ちあふれています。体調がすぐれない奥さまのために、料理教室に通うようになったご主人から「台所の使い勝手が悪く、リフォームしたくなったので見てほしい」との依頼があり、お宅にうかがうことになりました。すると、寝室が2階にあり、トイレが1階の離れた場所にあるため、夜間はポータブルトイレを使用していることがわかりました。奥さまは急勾配の階段の上から下まで落ちてしまったこともあったようです。また、1階の和室8帖の天井には大きな雨漏り跡があり、間取りを確認すると、2階の角が乗っている箇所でした。和室8帖と6帖の続き間と、この2室を取り囲む縁側の梁組みに問題があることもすぐに見て取れました。

70台のご夫婦のお住まいとしては、台所の改修よりも寝室を1階に移すことのほうが優先されるべき、また、最低限の構造補強もしておいたほうがよいのではないか、との思いをお話しすると、ご主人から「冬がとにかく寒いので暖かくしたい」との要望も出てきました。このような経緯で詳細調査を行うことになり、改修に至りました。

高齢者の住宅を大規模に改修することを「もったいない」とする意見を耳にしますが、夫婦二人でグループホームなどに入居した場合の費用を計算すると、今回のように改修したほうが安いケースもあります。施設で同居する人たちに気を使うことなく、できる限り自立して過ごすことを望む場合は(私もそう願う一人)住み慣れた家で暮らすことは生きる力につながります。工事金に充てるために、松山市の住まいるリフォーム事業と、国交省の省エネ住宅ポイントの補助金を十分に活用しました。


▼改修前平面図

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▼改修後平面図
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(左: 改修前全景  右:改修後全景 ほとんど見た目に変わりはない)


  • 改修内容

改修の目的は、第一にご夫婦の健康と安全を確保することでした。詳細調査では雨漏り跡も見つかり、耐用年数を超えた屋根材の葺き替えと下地の補修も必要だ、との施工側からの意見もありましたが、決められた工事予算の範囲で、まず優先すべきは「ご夫婦の健康と安全に直結するもの」だと考え、雨漏りに関しては台風や大雨の際に小屋裏の点検ができるように新たに点検口を設け、問題があればすぐに対処できるようにしました。

生活空間を1階の一部に限定することで、温熱環境は、生活空間だけを現在の基準に近づけるための部分断熱、耐震性能は、現在の基準を満たすように建物全体に施しました。和室8帖の、2階の外壁が乗る通りには、新たに基礎と壁を作りしっかりと2階を受け、その部分に寝室とトイレや浴室を配置しました。ご主人の当初の希望通り、台所は夫婦2人で作業がしやすく、かつ、かつて隣接していた応接室との間仕切り壁を撤去して、夫婦、子供夫婦、孫を合わせて20人が集える大きな空間を設けました。

 

  • 工事後の様子
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写真左:詳細調査写真 認定住宅医2名、住宅医スクール終了生2名の、少数ながら調査経験が豊かなメンバーが2日かけて行った
写真右:基礎写真 ご多分に漏れず無筋基礎。荷重を多く負担している柱の基礎には、欠けがあり木のくさびで埋めているのが見つかった

 

 

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写真左:基礎補強 既存の無筋基礎は、鉄筋を入れた新しい基礎で補強
写真右:新設基礎 2階の壁を受ける部分には基礎を新設

 

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写真左: 梁補強和室 2階の壁を受ける鉄骨トラスを補強する梁。この下に壁ができる
写真右:梁補強DK 台所と応接室を仕切る壁を撤去するために、新設梁と添え柱で補強

 

 

 

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写真左: 断熱材 長期優良住宅化リフォームのA基準を満たす断熱性能を確保
写真右:断熱材充填 通気止めも丁寧に行う

 

 

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写真左: 改修前DK 台所と応接室を仕切る壁
写真右:改修後DK全景 壁を取ると、家族20人が集まることができる空間ができた

 

 

 

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写真上: 改修前6帖 鉄骨トラスを多用し、柱と壁の数を極端に抑えていた
写真下:改修後6帖 続き間としての機能を残しながら、耐震補強を行う

 

2階は使用しないことを前提に、耐震補強だけ行う予定でしたが「1階がきれいになったのに見劣りがする」と、急きょ内装工事をすることになりました。奥さまは2階を直したことで、義理の息子さんが気兼ねなく泊まってくれるようになった。また、トイレを昼間用に台所脇、夜間用の寝室脇、の2カ所に設けたことで、とても便利になったと喜ばれています。当初のご主人の希望通り、毎日ご夫婦で台所に立ち、いつお伺いしても暖かいコーヒーを出してくださいます。工事前に計った室内の温度は、上がり下がりの幅が大きかったのですが、工事後にはそれがかなり小さくなっていて、断熱の効果が現れています。温熱計算のツールで「工事後は無暖房で3.5度の室内温度の上昇が見込める」との計算結果が出ていたのを、実際の計測でも3.5度の上昇を確認し、あらためてツールの力を知ることもできました。今回手を入れなかった箇所は、これから必要に応じて直していくことになります。憧れのご夫婦の生活を、かかりつけの住宅医としてサポートできることを、心から嬉しく感じています。

 

Nomad Architects 部 村上洋子