各地の住宅医の日々 No, 59:グリーンビル改修と築古住宅改修事業への挑戦

桑原 誠二住宅医 /(株)プランテック / 神奈川県

いつも住宅医の皆様の活動内容を拝見し、深い学びと刺激をいただいております。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。本稿では、私が日々取り組む活動をご紹介するとともに、私たちが目指すべき持続可能な社会における建築の役割についての思いを共有させていただきます。

築古ビルに「現代の性能」を実装するグリーンビルプロジェクト

私がここ2年ほど注力しているのが、「グリーンビルプロジェクト」という、既存のストックに新たな価値を吹き込む挑戦です。
これは、築30~40年、延床1,000坪規模の既存オフィスビルを対象に、テナントが居ながらにして改修するという難易度の高い取り組みです。外皮性能の向上と空調設備の更新を主とした改修を行い、ZEB Ready認証の取得を目指します。

特筆すべきは、ファンドスキームを活用する形での取り組みは日本初の試みであるという点です。築古ビルでも最新の環境性能を備えることで、経済的な耐用年数を延ばし、物件の不動産価値も向上させることを意図しています。
既に3物件の改修工事が完了し、現在は延床6,000坪の物件が施工中で、来年からは延床10,000坪の物件の施工が始まる予定です。

歴史を担う建物の改修

昨年は、旧江戸川乱歩邸を改修するプロジェクトに携わりました。大正10年に竣工して以来、何度も増築を繰り返した木造住宅です。乱歩が過ごした雰囲気をできるだけ保存しながら、温熱・耐震改修を行いました。仕上げを解体すると、構造体の劣化は予想以上で、柱と土台の半数近くを補修・入れ替えて耐震補強を行うこととなりました。本邸は現在一般公開もされていますので、是非ご覧ください。

現在は、箱根の老舗温泉旅館をラグジュアリーホテルへと改修するプロジェクトが進行中です。敷地内の複数棟の木造建屋群を整理し、客室棟をRC造で増築しつつ、本館木造建屋をメインダイニングに改修する計画です。開業は2030年と少し先になる予定ですが、伝統と未来を繋ぐ取り組みをまたあらためてご案内できればと思います。

「葉山の家」で実証する高性能の快適性

住宅医の改修事例No.111でご紹介させていただいた、自宅である「築57年の葉山の家」は、完成から6年が経過しましたが、目立った劣化もなく、その快適な住み心地は私の性能向上改修への信念を支えてくれています。

夏季の日中は、2階のエアコンを稼働させ、室温30℃・湿度55%の環境でも、暑さを感じず快適です。冬季は、晴れた日中は無暖房で26℃以上に達し、夜間も床下エアコン1台で家全体が暖かく、起床時の室温は20℃を保っています。内壁と天井の仕上げに採用したモイスの調湿・蓄熱効果が、数値以上の快適さに繋がっていると分析しています。

「手入れのし易さ」も長寿命化のテーマの一つでしたが、セルフメンテナンスとして、2階の窓も下屋の屋根から清掃することができるため、年に1~2回ほど外部からの窓面清掃を実施しています。昨年は外壁、今年は門塀の再塗装も行いました。養生と下地の清掃に作業の半分以上の時間を費やすこととなり、あらためて下準備が、耐久性を決める重要な作業だと実感しました。

不動産市場に「高性能築古住宅」という新しい価値を

来年からは、性能向上改修による買取再販事業を柱とする新規事業をスタートさせます。
まずは、地元・葉山を中心とした三浦半島西岸エリアから開始し、段階的に、首都圏、中部圏、関西圏へと展開したいと考えています。

私の目標は、性能向上改修の実績を積み重ねることで、不動産市場に新たに「高性能築古住宅」という商品分野を確立することです。世代が変わる度に住宅を建替えるのではなく、性能を刷新した価値ある資産として次の世代へ受け渡していくことが、真に豊かで持続可能な社会の実現につながると信じています。

この理念を広めるため、来年からは東京建築士会のストック委員会に委員として参加することになりました。建築士会の活動を通じても、性能向上改修の取り組みを広く浸透させていく所存です。

今後も、性能向上改修という共通のテーマのもと、全国の住宅医の皆様のお力もお借りしながら、ぜひ連携させていただければ幸いです。皆様の知見を融合し、この国の建築ストックの価値向上に貢献していきたいと願っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

文章・写真・図:桑原 誠二(住宅医・一級建築士・不動産鑑定士)
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LINK
・住宅医の改修事例No.111[減築から生まれる暮らしの豊かさ ~築57年の葉山の家]桑原誠二 https://sapj.or.jp/kaishuujirei2021-111/
・江戸川乱歩記念大衆文化研究センター(一般公開について)https://www.rikkyo.ac.jp/research/institute/rampo/