各地の住宅医の日々№61 加子母から一歩ずつ ~山守資料館という場所を未来へつなぐ~
中島 あゆみ(住宅医 / 株式会社KASHIMORI一級建築士事務所あゆみ設計工房 / 岐阜県)
今日は、昨年から事務所として一室を借りている「山守(やまもり)資料館」という、築260年を超える古民家の話を交えながら、近況報告をしたいと思います。
私が住む岐阜県中津川市加子母(かしも)は豊かな山々に囲まれた地域です。

加子母の風景(冬)
良質なひのきが生産されることから、古くから林業が盛んで、法隆寺や姫路城の「昭和の大改修」でもこの地域のひのきが使われました。また地域内には樹齢400年生の木曽檜の天然林があり、昨年は伊勢神宮の式年遷宮に向けた御用材を切り出す「裏木曽御用材伐採式」も執り行われました。
冒頭で触れた「山守資料館」の「山守」とは、かつて尾張藩の命により地域の山々を管理した役職で、代々その職を担い森林管理を行ってきたのが内木家(ないきけ)です。現在、館内には当時を物語る4万点もの貴重な資料が保管されています。
この資料館は、第20代当主である内木哲朗(ないきてつろう)さんが、ご自宅を公開して木曽の山の歴史を伝える活動をされている場所です。
(山守としての職務や内木家はじめ江戸時代の日々の暮らしについては下記参照)
尾張藩の林政と森林文化:
山村のひと・家・つきあい~江戸時代のかしも生活①~ https://rinseishi.tokugawa.or.jp/pdf_file/booklet_09.pdf
2023年の春頃、古民家に興味のあるインターン生と一緒に山守資料館を見学させてもらった際、内木さんとの雑談の中で「しばらくは不在にすることも多く、この建物をどう維持・活用していくべきか考えている。何かアイデアがあれば教えてほしい」とお話がありました。
後日、改めてじっくりお話を伺うと、資料館の屋根修繕をはじめとして、殆どの工事をご自身の手でされてきたという事でした。また260年の歴史の中で、後年の改修によって変わった部分に関しては撤去し「なるべく古い形に戻したい」という方針で修繕を進める一方で「将来はお孫さんへこの家を継いでもらいたい」という想いも聞かせてくださいました。
こうした経緯や内木さんの「この場所を未来へ継いでいきたい」という志に深く感銘を受け、当時0歳だった次男を抱っこしながら何度も足を運び、意見交換を重ねました。
普段、都市部に拠点を置いている団体・企業のサテライトオフィスやサテライト研究室なども含め、 宿泊施設やカフェなど内木さんの構想も含め検討しました。こちらは床面積200㎡以下であれば特殊用途でも建築確認の用途変更の手続き無しで利用可能ですが、事業を開始するには諸々とハードルが上がります。
そこで提案したのが「小さな事務所」としての活用。コンセントとインターネット、デスク等の家具があればすぐに始められ、大きな改修工事の必要もなく建物の原型を保ちながら、将来お孫さんへ引き継ぐ時にも、事業の撤退や転換がしやすいと考えたからです。
そんなある日、内木さんから「あゆみ設計工房で2階を事務所で借りてくれないか」というご相談をいただきました。
自分自身が借りるという選択肢は当初なかったため驚きましたが、有効活用を模索する中で、私自身がすっかり山守資料館と内木家の歴史、それら継承していく人たちの想いに触れ、ファンになっていたことに気づき 「はい、よろしくお願いします」 と二つ返事でこの場所で事務所を構えることになりました。現在は春~秋にかけての期間限定サテライトオフィスとして活用しています。
今では、この資料館や内木家の皆さんと関わりながら仕事ができることを、心から嬉しく思うと当時に、ここで仕事をしていると「古いものを大切に使う」ことの心地よさを改めて実感しています。
また内木家のみなさんと一緒に過ごす時間は、私たち家族(子どもたちも含め)にとって大切な時間となっています。昨年の夏は昼食をご一緒させて頂き、子供たちは庭でスイカ割りをしたり、お屋敷内でかくれんぼをしたりして楽しみました。
「山守資料館」は加子母の歴史はもちろん、日本の林政史においても極めて重要な場所です。この建物が多くの人の記憶に刻まれ、未来へつながっていくことを日々願っています。
また、昨年は新しい事務所での業務開始に合わせ、夫婦で新たに「株式会社KASHIMORI」を設立し、新体制での仕事をスタートしました。社名の「KASHIMORI」は、内木家の職である「山守」から1字いただいき、この「加子母」を「見守る」という意味を込めて名付けました。
加子母周辺には、今も立派な古民家がたくさん残っています。急激な人口減少はじめ様々な課題はありますが「今ある資源を大切に」という理念のもと、建築業を軸にしつつも広い視野で物事に取り組み、地域に必要とされる企業となれるよう、一歩一歩あゆんでいきたいと思います。
※式年遷宮の御用材が伐り出された樹齢400年生の木曽檜備林(神宮美林)の散策とセットで山守資料館の見学も可能です。(要予約)
文章:中島 あゆみ
Copyright ©2026 / Materials: Naiki Tetsuro, Illustration: Homma Kiyoko, Photos: KASHIMORI Co., Ltd. and jutakui
LINK
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・住宅医の改修事例 №125 [住み継ぐ家の変遷 ~旧徳山の家・2世帯住宅という選択~] 中島 あゆみ








