住宅医コラム 意見交換2017-78

高齢者のトイレには、適切な広さ、手すりや、手洗い台、大きめの手洗い器などなど十分な配慮が必要です。・・・今年は、健康にも直結する「トイレ」に注目して、住宅設計のポイントを抑えていきたいと思います。今月の「トイレコラム」は高齢者のためのトイレ、その2です。
 
「トイレコラム」
高齢者のトイレ② ~ 手すりや手洗台の配慮
三澤文子(MSD)
 
先日、10年メンテナンスで、奈良市のK邸に伺いました。事前のお電話で、K邸のご主人が、この3月に足の手術をされ入院されていることを知っていましたので、まずご主人が玄関にお出迎えくださったのには、驚きました。リハビリをしっかり行っていて、見違えるように歩けるようになった。と言われていました。もともと1階にご主人の寝室があり、トイレも、近くにあります。「退院した当時でも伝い歩きでトイレまでは一人で行っていました。」とのお話。トイレを見せていただくと、手すりがありません。タオルバーを握ったのか、タオルバーがとれてしまっていました。
 

 
「何とか、手洗い台に手をのせながら、歩いたので、問題なかった。」とのことですが、今回のメンテナンスでしっかり手すりを設けることになりました。
今回は、市販の金物の手すりを設ける予定ですが、最近は、大工さんに木材でつくってもらう手すりを、トイレには設けています。トイレは、外部や浴室内のような、水の心配はありませんので、木でも問題ありません。
 

 
この写真は、ある福祉施設のトイレです。広く見えますが、長辺が2000㎜ 短辺が1350㎜で、住宅でもよくつくる広さです。
トイレットペーパーの上に、木の小棚と、小棚に垂直に、栗材で造った八角の手すりバーです。丸棒でなく八角にするのは、「握った感覚がいい。」と、住まい手さんから好評のためです。小棚は、携帯やハンカチなどを置く棚として便利です。
住宅医スクールで「高齢者対応」についての講義を担当して頂いている溝口千恵子先生はトイレ内に手洗台は必ずつくってほしいと言います。手洗い台の手洗い器は、小さなものではなく、ある程度大きなものを。と言われます。「いずれ尿瓶の掃除の必要も出てくるから。」とのことです。私は使ったことはあまりないのですが、「ロータンクの上に水が流れて手洗いになるタイプは、便器越しに手を伸ばし、体勢を保つことが難しくなり、高齢者には不向きです。」とのこと。確かに健康な私たちにとっても言えることです。
下の写真の手洗い台は、改修工事で不要になった、座敷の床の間の違い棚を転用していて、磁器製の手洗鉢も、大き目のものを取りつけました。
 

 
このトイレの広さは、壁芯で、短辺1770㎜ 長辺1990㎜。おおよそ畳2畳分です。このように広さが十分とれるときはいいのですが、畳1帖の広さしか取れない場合は、入口を引違にして、いざとなったら、建具をはずして使えることの準備も必要です。
 

 
その場合は、この図のようにトイレの長辺側に入口を設けることが必要であり、そのあたりはプランニング力が頼りになります。
下の写真は、車いす利用をされる女性のトイレです。設計は三澤康彦さん。今から20年前の1997年に改修されました。
正面のテーブルは、化粧台になっていて、大きな洗面器がついています。このトイレはいわばその女性のためのトイレなので、部屋の中に便器がある。といった雰囲気です。写真左手はクローゼットにつながり、ちらりと見える便器の横には紙巻き器や手すり。その手前には、廊下を介して洗面・浴室につながる引き戸があります。

 
ホテルの水廻りのようなつくりで、さらに木の仕上げで温かい印象。常々こんなトイレをつくるように考えたいものです。