投稿日:2015年10月30日

事例報告(改修事例) 2015-50


自適荘 住宅医によるストック活用社会への取組み

報告 泉保真史/新産住拓株式会社

 

物件概要

所在地 熊本県宇城市三角町

建築年 昭和12年6月上棟(改修時築78年)

床面積 95.40㎡(28.86坪)

改修部 76.17㎡(23.04坪)

増築部 19.23㎡(5.82坪)

敷地面積 1128.19㎡(341.28坪)

用途 別荘として使用

 

主な外部仕様

屋根 天然スレート、粘土瓦

外壁 土壁漆喰

開口部 木製建具

玄関 アルミサッシ(シングルガラス)

設備 汲み取り式便所

井戸水

プロパンガス

立地 三角半島海岸線沿い

南側は急斜面の山、北側は県道を挟み島原湾

近くに本年度世界遺産登録を受けた三角西港

設計 MSD

施工 新産住拓株式会社

 

2014年3月:Ms/MSD三澤文子先生よりご連絡があり、

熊本県三角町の築79年の古民家の調査依頼をいただく。

3月18日 大阪より6名、熊本より3名により計9名にて現況調査をおこなう。

[調査内容]

調査により床下状況は石場建て。一部布基礎。大引きに蟻害箇所あり。

屋根及び軒下、天井は雨漏れによる一部腐敗あり。

壁は木舞描き桟竹壁 漆喰仕上げ

地盤:地盤調査(スェーデン式サウンディング調査)より健全な地盤と判明

マップ

柳原邸調査 127  柳原邸調査 156  柳原邸調査 178

当初、新築での建て替えか、改修かのプラン打ち合わせが行なわれ、結論として、施主お母様の想い入れの在る建物を残したいとの意向で、改修工事となる。

棟別れのキッチン、八畳間和室を解体撤去し減築。

新たな水廻り、キッチン、UB,トイレを増築。

基礎を新設し屋根をガルバリュウム鋼板にて葺き替え。

Ms屋根 038  Ms屋根 045

 

10月24日 何度かのプラン変更、施工費のすり合わせが行われ、契約となる。

11月20日 いよいよ工事着手。再利用の既存建具に番号をつけストックヤードに収納。

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11月26日 熊本の加藤神社様により、清め払いの儀。

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11月27日 解体着手。

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南西角柱、腐敗により仕口が完全に朽ちていることが判明。

自適柱腐敗  IMG_0066

 

12月5日 遣り方。

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12月9日 配金工事。

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石場建ての建物だが、一部布基礎箇所があり、天場をGL設定とし床下空間を

510mm確保。

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12月22日 土間生コン打設 基礎断熱

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12月23日 木工事 新設土台を入れる。

自適基礎コウセイ

レベルを出しサポートで支持しながら柱カット。

鋼製束で支持しレベル調整を行い土台下に配筋行なう。

廻り縁の角柱は、2箇所とも元口が腐敗している為、上部300でカット

追っかけ継ぎにて、柱補強取り替えを行う。

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11月5日 新年明け、屋根の解体着手。

下屋部は天然スレート、大屋根部は陶器瓦。

下屋は既存化粧垂木、化粧天井板をそのまま残し、既存野地板を下地として通気工法としネオマフォーム50mm+45mm施工。

IMG_8733   自適屋根1

 

1月20日 大屋根は垂木から撤去し、入替え。通気工法として施工。

天井断熱は、防湿フィルム、PFB200mm施工。

自適屋根2  自適屋根3  自適屋根通気

 

2月6日 屋根の下地工事完成。

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土壁と和室天井を既存としたため、雨で濡れることが無いよう工程の組み方には十分に細心の注意をはらう。

 

2月17日 板金施工 ガルバリュウム鋼板0.35竪ハゼ葺き

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3月2日 内装工事がいよいよ本格化

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3月16日 外壁モルタル工事

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3月23日 建具をストックヤードから出し洗浄。戸車交換・調整を行う。

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3月25日 内部漆喰工事

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3月26日 外壁塗装工事

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3月29日 柿渋紙施工

MSD支給により、リビング天井を柿渋紙としましたが・・

ここで失敗報告、プラスターボードの下地パテに化学反応をおこし、パテ跡が変色。乾燥期間が少ないためか、材料によるものか今後検証する。

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3月30日 屋根完成

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MSDの象徴 舟形の棟包。大工さんと試行錯誤しながら取り付け。

 

3月31日 トイレ床はトラバーチン施工。

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突き付けると切り口が均等でない為、目地をつけて施工。

玄関はジェットバーナー仕上げの黒御影。石目を互い違いに施工。

 

4月 仕上げ工程。

造作建具、内部漆喰仕上げ、照明造作など。

床の地板に使用されていた欅板は加工後、カウンターテーブルに再利用。

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4月19日 お引渡し式

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自適荘改修工事は、住宅医スクールを受講するきっかけとなり、講義で学んだ事をそのまますぐ実践、検証が行うことができ大変充実した現場となりました。

施主様及び設計事務所が大阪であり、遠く離れた現場であることから、Facebookを利用し、

工事に携わるすべてのパートナー様と共有しタイムリーな質疑応答、現場報告を可能としました。

自適荘改修工事 改修前後 性能比較/矩計図(画像をクリックすると拡大表示されます)

チャート 矩計図

 

■GOOD DESIGN AWARD 2015受賞

自適荘 住宅医によるストック活用型社会への取組み

A1パネル

私たちは、今回新しく設けられた「フォーカス・イシュー」をストック活用型社会への取組みと考え、「プラス デザイン」として「住宅医」による改修を提案しました。

総務省の統計によると、平成25年の総住宅数(ストック住宅)は6000万戸を超え、年々その数は増加しています。

「空間資源」と言えるストック住宅を有効活用する手段(solution)として住宅改修が考えられます。しかし、日本では改修に関して学ぶ機関は少なく、その改修方法は設計者や施工者の経験値にゆだねられていました。その現状を変える為、住宅医は生まれました。

住宅医の活動が普及し、建物の再生だけではなく、家族の絆・文化や技術の伝承・地域コミュ二ティの再生にもつながっていく事。

それこそがストック活用型社会への移行が求められる理由であり、我々が取り組むべき課題(issue)であると考え応募致しました。

6月10日~7月1日 一次審査期間 (書類審査)

7月10日~9月9日 二次審査期間 (現品審査)

8月2日 東京ビッグサイトにおいて2時選考

9月29日 受賞発表

11月4日 授賞式

 

[審査員の評価]

既存の木造住宅を築年数に関係なく劣化部分等を適正に評価し、現在求められる水準に直すための体系「木造建築病理学」に基づいたリノベーションの例として、その方法の汎用性も含めて意味のある実施例である

投稿日:2015年10月01日

事例報告(改修事例) 2015-49


大和高田のいえ

報告:広渡建築設計事務所 広渡早苗

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ホームページ

http://homepage3.nifty.com/hirowatarihome/works/work/yamatotakada/index.html

http://thehouse-a.jp/tatetaie/239.html

 

■設計監理:広渡建築設計事務所 広渡早苗

■施工:株式会社じょぶ

■工事場所:奈良県大和高田市

■設計期間:2010.12~2011.10

■工事期間:2011.11~2012.4

■建築年:昭和50年(改修時築36年)

■構造・規模:木造二階建て 延べ床面積 既設69.66㎡ 改修後78.98㎡

■概要

この物件は、ご両親が空き家となった隣家を古家付きで購入され、息子さん家族がその家をリフォームした例である。

他人が建てたうえに築年数も古くなった家を、いかにして「自分たちの住処」に近づけるかに心を砕いた。

振りかえってみれば、無機質なただの物体に、命を注ぎ込むような作業だったように感じている。

 

■改修内容

耐震性能を上げること、温熱環境をよくすることは確かに大事なのだが、例えて言うならその部分は住み手にとっては「自律神経」のように普段は特に意識することもなく当たり前にそこに存在しているものだと思う。

それに比べ、恐らく数値では図ることのできない、学問にもなり得ないような仔細な事柄が、実際には他にも山のように存在し、とても大切な 「設計者が考えなければいけないこと」 がそこには眠っていて、それを発掘するために日々奮闘している気がする。そういった事柄は、住み手と会ってすぐに答えが得られるものではなく、じっくりと時間を掛けて本当に信頼していただいてこそ、だんだんと見えてくるものなのではないだろうか。

今回、設計者だけがやみくもに突っ走るのではなく、施主側もどんな家が自分たちにとって合うのか、どんな暮らし方を自分たちは望んでいるのか・・・考え始めると堂々巡りになりそうなことがらを、子育てや仕事に忙しい中、本当に真剣にかんがえてくださったと思う。まさに施主と設計者の二人三脚でこの住宅は生れた。

 

■平面計画

元々、改修前のこの家に暮らしておられたわけではなかったため、当時暮らしておられたマンションを訪ね、聞きとりながら必要な機能を探っていった。

玄関の位置を変え、廊下などのスペースに工夫を凝らしながら、必要最小限の収納を取り、残りの空間を広々と使えるように建具なども全て新しく入れ替えた。建ぺい率に余裕があったため南側に少しだけ増築し、小さな子供さんがおられるので、南庭もデッキなどを設けて日常的に使いやすいように考えた。

 

既存平面図

 

 

改修後平面図

改修前正面外観

改修前正面外観

 

改修後正面外観

 

 

 

改修前南面

改修前南面

 

改修後南面

改修後南面、家族室を広くとるため、こちら側の1階のみ少し増築している。増築部分の外壁には玄関扉に合わせて木を用い、表情を出した。

 

 

改修前。ダイニングキッチンの手前に続き間二室があった。

改修前。ダイニングキッチンの手前に続き間二室があった。

 

改修後キッチン

改修後。元々のキッチンと続き間の部分が、南庭に続いた広々とした家族室となった。今回、サッシはほぼすべてペアガラスに入れ替えた。正面妻側の壁は、耐震壁を増やしている。

 

改修前キッチン部分

改修前キッチン部分

 

 

改修後のキッチン

改修後のキッチン部分。奥様と詳細な打ち合わせの上出来上がった。家具はすべてオーダー。「コンパクトでいい」と言ってくださったおかげで、家族室に対して気持ちの良いバランスとなっている。

 

 

改修後の洗面・浴室

改修後の洗面・浴室。浴室の壁のヒノキ材は施主が探してこられた。洗面台上部は下屋になっていたため、トップライトを設けた。尚、改修前に一度リフォームされており、元の建物には浴室はなかった。

 

改修前の階段。うす暗く、かなりの急勾配だった。

改修前の階段。うす暗く、かなりの急勾配だった。

 

 

改修後の階段

改修後の階段、北側に窓を新設し、明るくなった。階段下は収納とトイレ。

 

 

改修後

階段の上がり際に、OSB合板を用い、L型の耐力壁を兼ねた本棚を作った。

 

 

改修後

二階には旦那さんのたってのご希望で小さめながら独立した書斎を設けた。正面壁にくりぬかれた四角い穴は階段と繋がっている。

 

 

 

 

■詳細調査

実は、詳細調査を行った2011年6月には、既に設計契約も結び、計画が進行していた。三澤文子先生より住宅医の科目履修を勧められ、非常に興味深くこの改修にもきっと役に立つと思い、施主に説明し納得していただいたうえで進めていった。そんな折にちょうど東日本大震災があり、もう一度全てのことを見直しながら、「本当に求められていること」を自問自答しながらの設計となった。

良かったことは、詳細調査時にはどなたもここで暮らしておられなかったので、ある程度建物を傷めることも許され、施主にご不便をおかけするのも最小限で済んだことである。

ただ、床下がかなり狭かったのだが調査のため潜ってもらい、担当の方にはご苦労を掛けてしまった。

 

調査の合間に、お施主さんからお団子の差し入れ。このあたりの名物だそう。

調査の合間に、お施主さんからお団子の差し入れ。このあたりの名物だそう。

 

当日、お施主さんに挨拶をした後、調査にかかる。調査道具でカーポートがいっぱいになった。

当日、お施主さんに挨拶をした後、調査にかかる。調査道具でカーポートがいっぱいになった。

 

地盤調査の様子。

地盤調査の様子。

 

 

■耐震改修

設計開始時、既に市の補助で耐震診断を受けておられ、その際の上部構造評点は0.31(倒壊する可能性が高い)であった。

今回、当初は「既存ドックシステム3」の補助金を受ける予定で進めており、上部構造評点は1.0(一応倒壊しない)以上とする必要があったが、結果的には1.08まで上げることができた。

構造補強の方針としては、築年数などを考慮し、細かな耐力壁をまんべんなく配置するような方法を取った。結果的には工期が条件に合わず補助金は断念したが、その分設計者なりのものさしで、施主の意向もかなり自由に取り入れながら進めることができ、良かったと思っている。

 

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既存基礎の強度を測る

既存基礎の強度を測る

この建物の基礎は無筋の布基礎である可能性が高く、どのくらい補強が必要かによって予算配分が大きく変わる可能性があったが、幸いシュミットハンマーによる計測で最小値でも24.8N/m㎡(JAS規格15~21 N/m㎡)と十分な強度があり、ほっとした。

 

 

 

■おわりに

この住宅の最大の特徴は、設計者と施主との対話の多さではないかと思う。

一つ一つのことを、全て施主を巻き込んで進めることで、家を大切に思う気持ちも高まってくるのではないだろうか。

実はこの家の施主は設計者探しに大変苦労されたようで、リフォームの方が新築よりもずっと豊富な経験や知識が必要なはずなのに、まだまだ適切な依頼先の情報があまりにも少なく、今後少しずつでも改善されることを強く望んでいる。

 

改修後