投稿日:2015年06月08日

事例報告(改修事例) 2015-45


善福寺リフォーム作戦
TownFactory一級建築士事務所 酒井哲(HPはこちら

 

今は亡きおばちゃんが大切に守ってきた実家を耐震・バリアフリー及び温熱性能を強化しながら、おじいちゃんと長男家族が同居する家にリフォーム。この一風変わった物件名はリフォームを家族で乗り越えるべきミッションとして捉え、施主の提案により決まった。

 

【概要】

・所在地:東京都区部

・期間:2012年4月調査・設計、2012年10月〜2013年2月:施工(一期工事)、2014年2月:施工(二期工事:2階窓にインナーサッシの取付)

・家族構成:おじいちゃん+長男夫婦+子供3人+イグアナ1匹

・建築年: 1975年 棟札確認 (リフォーム時の築年数:37年)

・構造:木造在来工法二階建て

・規模:延床面積94㎡(設計図書、実測調査、登記簿で一致)

・確認申請書類:建築時の設計図書の一部はあったが、確認関連書類は無し

・施工:株式会社内田産業

 

 

【要望と課題】

リフォームの具体的な要望を整理すると以下のようになった。

①二世帯6人の住む家として既存家屋の性能を上げ、広々とした家にしたい

②段差を解消し、おじいちゃん(要介護1)が可能なかぎり自立して暮らせる家にしたい

③家相に基づいた間取りなので、玄関・水廻りの位置は変えたくない

④地震後、屋根の葺き替え+外壁を塗り直したので外部の改修は最小限にしたい

⑤区の耐震助成を取得したい

 

敷地が狭く建ぺい率に余裕がなかったために、増築しないことが前提条件となった(敷地に余裕があれば増築も選択肢の一つに入ったが、確認済証の無い古家の場合、合法的な増築はハードルが高い)。

または今回は建物の調査と平行して、おじいちゃんが自立して生活しやすいように、普段使っている介護ベッドや車椅子の寸法、手摺の位置などもヒアリング・実測し、計画の中に盛り込んだ。

 改修前:トイレ 入口に段差20㎝

改修前:居間・食堂 右側の間仕切壁を撤去           改修前:トイレ 入口に段差20㎝

 

  

改修前:アプローチ          改修前:玄関ポーチ          改修前:駐車場側の段差

 

【調査の様子】
 
小屋裏:羽子板ボルト確認、天井と壁断熱材有           床下:筋交い釘留、断熱材無し

 

 
介護用ベッドの可動手摺の位置                   イグアナ(家族の中で寒いのが一番苦手)

 

 

【設計の工夫】

東日本大震災で西側の壁に大きな亀裂が入ったことから、耐震補強も重要な項目であった。構造を調査すると基礎に問題があることが判明し、補強が望まれた。1階部分はバリアフリーと断熱改修も必要となるので、内部をスケルトン状態まで解体することにした。本来であれば2階も構造が露わになるまで解体したいところであったが、予算との兼ね合いで2階の改修範囲は耐震補強上必要な部分のみに押さえ、それ以外の部分は既存のままとした。

耐震診断より廊下の間仕切り壁が耐力壁になっていないことが判ったので、この壁を撤去して通路スペースを居間・食堂に取り入れ空間を広げた。また、居間・食堂の南側の庭にウッドデッキを設け、庭園への視点の誘導の中で室内を広く見せるようにした。

水廻りの位置は変えないという条件の中で、トイレと階段を同じ位置で90°回転することにより、出入口の引戸化、段差の解消、さらに階段の勾配を緩やかにすることができた。位置を回転したことで玄関と階段が一室に同居することになったが、階段の初段をベンチとして使えること、階段の高窓から玄関の採光が得られる等、集約化したことによるメリットもあった。

限られた予算のリフォームでは耐震やバリアフリー等の性能面の向上や損傷部の修繕に予算を使い切ってしまいがちであるが、家のチャームポイントを付加することも重要な項目である。今回のリフォームでは裏動線的な雰囲気の玄関廻りに対し、昭和な雰囲気を残しつつ次の世代に相応しいデザインに修景した。


改修前後の1階平面図

 

【改修後】

 

玄関アプローチ、奥にスロープを設けた                 改修前後の居間・食堂

 

 

玄関兼階段室                              トイレと階段
【レーダーチャートによる診断結果】

 

 

このリフォームは住宅医スクールに参加する前に設計を行なった物件だが、改修前に詳細調査を行なっていたので、過去の事例を検証する意味で6項目を再評価してみた。実際に数量評価してみると、予想とは違う結果になっている項目もあった。二階部分の改修が耐震補強に留まったことから、家全体として数値を出すと評価が下がる傾向となった。また、床面積の制約から特定寝室の広さや水廻りの引戸の幅が規定値をクリアできなかったが、厳しい条件の中の解としては最善の選択だったと考えている。

既存住宅の状態を調査し、性能を評価してからリフォーム進めることは、今回のような部分リフォームの場合は特に重要である。残す、直す、変える部分の見極めは調査によるところが大きい。しかしながら、詳細調査を行なっても、目視だけでは把握しきれない部分が残るので、解体時の補足調査を必ず行なっている。善福寺リフォーム作戦では内部解体時にトイレの柱にシロアリが発見されたため、シロアリ駆除と柱の交換を追加工事として実施した。リフォームでは状況に合わせた柔軟な対応も必要である。

竣工後、新たな課題が施主から上がってきた。修繕積立金は月にどのくらい用立てすればいいのか……。確かにマンションでは共用部を修繕するお金を毎月積立ているが、戸建て住宅ではそのような算段をすることはなかった。今後30年程度この家を維持していきたいという住まい手の要望に応えるべく、見積書と耐用年数を考慮して数値をはじいてみた。結果は3,2000円/月という金額となった。一般的なマンションの修繕積立金に比べると割高だが、この積立で共用部だけでなく専有部分(室内)の修繕もできるとしたら高くないと施主も喜んでいた。修繕積立金と同時に定期的な家の点検もお願いした。備えがあれば、不具合があったとしても早期対処が可能となり、結果として末永く住むことができるのではないだろうか。