記事一覧 | 住宅医協会(公式) https://sapj.or.jp 一般社団法人住宅医協会は、既存住宅の調査・診断から改修設計・施工・維持管理など、幅広い知識や高い技術力を備えた建築士・住宅医の育成に取組んでいます。 Wed, 27 Mar 2024 23:38:15 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.3 https://sapj.or.jp/wp-content/uploads/2019/08/cropped-logoicon-1-32x32.png 記事一覧 | 住宅医協会(公式) https://sapj.or.jp 32 32 3月29日(金)開催:住宅医・研究発表会 https://sapj.or.jp/20240329kojima/ Wed, 20 Mar 2024 15:01:25 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29604 ( 岐阜県森林文化アカデミー 森と木のクリエーター科 / 小島亜素佳 )

住宅医・研究発表会
岐阜県森林文化アカデミーをこの春卒業された小島さんは住宅医の改修事例などの研究「既存住宅の性能向上を伴う改修の普及に関する研究」を発表されました。今月の住宅医通信(編集後記)でも話題となりましたが、関係者向けに住宅医・研究発表会が行われます。皆さま奮ってご参加ください!
また、この研究でアカデミーの「最優秀発表賞」も受賞されました。

開催日時:3月29日(金)14:00~15:30(予定)
方 法:ZOOMにて開催
発表者:小島亜素佳(司会:村上洋子)
ディスカッション:辻充孝・三澤文子・滝口泰弘
対象者:住宅医、住宅医スクール生、終了生、会員、関係者
申込締切:3月26日(火)

・・・・・・・・・・・スケジュール・・・・・・・・・・・・・

14:00 研究の背景解説/ 辻充孝(岐阜県立森林文化アカデミー)

14:15「既存住宅の性能向上を伴う改修の普及に関する研究」
発表/ 小島亜素佳

14:45 質疑などディスカッション/ 辻充孝・三澤文子・滝口泰弘

15:30 終了
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ご参加の方は、下記フォームよりお申込下さい。

3月29日 住宅医・研究発表会 お申込フォーム

お申込は締切ました。

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住宅医スクール・オンライン2024【温熱】 https://sapj.or.jp/online240420/ Sun, 17 Mar 2024 20:00:16 +0000 https://sapj.or.jp/?p=28170 第3回 開講日:2024年4月20日(土)
 

接続テスト時間 12:30~13:00
受付時間 13:00~13:20
インフォメーション 13:20~13:30
第1講義 13時30分~15時30分
温熱性能の基礎と改善①

[断熱の基礎を学び、断熱性能を向上させる]

辻充孝/岐阜県立森林文化アカデミー教授

第2講義 15時45分~17時45分
温熱性能の基礎と改善②

[日射制御の基礎を学び、日射制御性能を向上させる]

辻充孝/岐阜県立森林文化アカデミー教授

懇親会 18時00分~19時00分 (※参加任意。意見交換や交流を目的とした懇親会)

スクール カリキュラムは こちら

スポット受講 お申込みは こちら

※ライブ講義配信会場【参加者募集中!】
対象者:住宅医スクール受講お申込み済(新規受講生、終了生、会員、スポット受講)の方

4月20日(土)のライブ講義は、住宅医協会事務局(大阪市福島区)より配信します。
配信会場参加者を4名募集します。(※先着順。定員になり次第、締切とさせて頂きます)
講師の方々とリアルにお会いして講義を視聴されたい方は、下記申込フォームよりお申込みください。
ご自身の講義資料や視聴用のノートPC等は、各自で持参して頂く形になります。
[contact-form-7]

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4月20日(土) 住宅医スクール ライブ講義(大阪) 配信会場参加者【受付開始】 https://sapj.or.jp/news20240420/ Sat, 16 Mar 2024 00:00:02 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29651
第三講義 : 辻充孝先生  対象者:住宅医スクール受講お申込み済で
(新規受講生、終了生、会員、スポット受講)の方

4月20日のライブ講義は、住宅医協会事務局(大阪市福島区)より配信します。
配信会場参加者を4名募集します(先着順。受講お申込み済の方が対象)。講師の方々とリアルにお会いして講義を視聴されたい方は、下記のフォームからお申込みください。

ご自身の講義資料や視聴用のノートPC等は、各自で持参して頂く形になります。

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住宅医や住宅医スクール講師による書籍紹介ページです。 https://sapj.or.jp/post-19262/ Mon, 11 Mar 2024 02:37:30 +0000 https://sapj.or.jp/?p=19262 機関誌:月刊 建築防災 https://sapj.or.jp/29578-2/ Mon, 11 Mar 2024 02:15:52 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29578 発売日:2024年3月1日
機関誌:月刊「建築防災」554号
発行:一般財団法人 日本建築防災協会
価格:1,210円(税込み)+送料
ISBN:0389-1690

特集「令和5年度(第13回)耐震改修優秀建築・貢献者表彰」
住宅医の小柳理恵さん改修設計「旧正力家別邸」が67Pに掲載されています。


 

 

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改修事例 №0145「小茂根の家」築32年の2世帯住宅を改修して世代を超えて住まいを受け継ぐ https://sapj.or.jp/kaishuujirei2024-145/ Fri, 08 Mar 2024 23:00:53 +0000 https://sapj.or.jp/?p=28819 森 孝行住宅医 / 森孝行建築設計事務所 / 東京都No145

1990年 (改修時 築32年) にハウスメーカーによって建てられた2世帯住宅 (建築基準法上の用途は長屋) の1階部分の改修事例です。
建築時は1階に祖母、2階に親世帯が住む2世帯住宅でしたが、介護施設に移った祖母と入れ代わるかたちで、2階で育った息子さんが結婚後に戻ってきて夫婦 (2人とも30代前半) で住み始めていました。


配置図

改修前

 

[ 敷地環境 ]
場所は東京都板橋区で、最寄りの地下鉄駅からもほど近い住宅地にあります。西側には4階建てのマンションが建っていますが、南面で道路に接してひな壇状に土地が上がっているため日当たりの良い敷地です。

既存建物

1人暮らしであった祖母に合わせた間取りは、南面に大きく開口部を取った広い居間と和室があり、明るく日当たりは良いが壁面が少なく家具の配置にも困る状態で、広々としているがどこか落ち着かない印象でした。
逆にキッチンは壁に囲まれて独立した位置にあり薄暗い印象で、また北側の浴室まわりは換気性能が悪いことが原因と思われる湿気でジメジメとして、その湿気がまわりに広がっていました。
これらを改善しファミリー向けの間取りで性能 向上した快適な住まいとしたいという希望で計画がスタートしました。


改修前平面図


建物詳細調査

延床面積86坪に地下駐車場もある大きな住宅であるため住宅医サポートの協力を得て計10名で実施しました。小屋裏や1階床下については全て実測と目視調査などを行い、1階天井裏については調査が難しくおよそ半分くらい調査を行いました。


屋根

小屋裏

床下

[ 耐久性 調査 ]
屋根葺き材や外壁については、漏水や目立った劣化もなく良好な状態でした。
基礎の立ち上がりに微細なクラックがありましたが概ね良好な状態でした。
床下断熱材の脱落や小屋裏断熱材に多数の脱落や欠損がありました。


外壁

小屋裏

床下 断熱材の脱落

[ 耐震性 調査 ]
基礎に鉄筋が入っていることを鉄筋探知器で確認しました。
床下環境は防湿コンクリートがあり良好で、土台はアンカーボルトで固定され、軸組材の接合金物や火打金物についても適切な金物が設置されていました。


基礎鉄筋確認

アンカーボルト

羽子板ボルトと筋交いプレート

[ 温熱性 調査 ]
外壁・1階床・1階天井の断熱材は 10Kのロックウールが50㎜で、屋根裏は10数年前にセルロースファイバーを追加施工されていました。窓はアルミサッシのシングルガラスでした。


外壁:10K ロックウール t50

1階床:10K ロックウール t50

1階天井:10K ロックウール t50

[ 省エネルギー性・バリアフリー性・火災時の安全性 調査 ]
照明器具はすべて白熱灯が使用されていました。
出入口の幅は十分で扉は敷居に少し段差のある開き戸で、手すりは階段にのみ設置されていました。
火災警報器については設置が不十分で、屋根はすべて不燃材料で葺かれており、開口部はほとんどのアルミサッシに網入ガラスが使用されていました。

改修計画について

全体的に水回りなど生活の基本構成は既存住宅の配置を踏襲しながら、光の入り方や壁のバランスや動線を改善することで空間の質を整えることを試みています。
南面に大きく取られていた開口部は開口面積を抑えて同じ大きさで均等に配置して外観を整え、床から少し上げることで窓辺をつくるような開口部としました。その内側には網戸の機能がある和紙張りの障子戸と、光を遮る板戸がそれぞれ戸袋に引き込まれるかたちで設けてあり、光の抑制とプライバシー保護の機能をもたせています。
もとの和室は床を下げてタイル貼りとした食堂に変更し、キッチンと食堂が一体的に使えるように間の壁を大きく開口しました。
広々とした居間は多目的室 (子供室)で間仕切ることで程よく囲まれた居場所となるように変更し、もとの食堂についても中間に変更して家の中心にあってつなぎの間の役割をもたせています。

 改修後 [ 耐久性 ]

耐久性

浴室


柱、土台


設備配管

浴室は解体時に腐朽や蟻害を発見したため、腐朽や蟻害のある土台や柱は全て交換し、天井ラインまでFRP防水を施工しました。
柱や土台などにはホウ酸系の防腐剤を塗布し防蟻処理を行い、基礎立上りのクラックにはエポキシ樹脂を注入補修しました。
防湿コンクリートに埋まっていた床下の設備配管は防湿コンクリート上に新規で配管し直しています。
床下と天井点検口(断熱タイプ)を2箇所ずつ新設し今後のメンテナンスを考慮しています。
また、2階のキッチンの排水音が1階の玄関部分で聞こえるため、音ナインを使用して配管を直しています。

改修後 [ 耐震性 ]

基礎補強
布基礎鉄筋

基礎型枠工事
土台補強
アンカーボルトの増設

新規耐力壁となる部分には、既存基礎にケミカルアンカーを打設し布基礎を新設しました。
土台にはケミカルアンカーを打設しアンカーボルトを大幅に増設しています。

梁受金物と補強梁 施工








既存の梁下に梁受金物で固定した梁成120から360の補強梁を増設しました。
2階の耐力壁が負担した水平力を1階の耐力壁に伝えるため、2階と1階の耐力壁線がずれている箇所については、2階と1階の壁線をつなぐように鋼製火打および構造用合板にて水平構面を補強しています。

耐力壁・新規柱施工
ハイベストウッド 片面貼り

新規柱 105角

構造用合板 t12 片面または両面貼り

新規105角柱と耐力壁 (構造用合板 t=12㎜ を片面または両面)を必要箇所に増設しました。
南面の外壁側はハイベストウッドを片面貼りによる耐力壁としています。
柱頭柱脚接合金物も合わせて補強を行っています。

1階の上部構造評点は、改修前は0.63から 改修後に1.04まで向上しました。


〇〇


〇〇

改修後温熱性・省エネ性 ]

断熱材施工
壁:アクリアウールα 20k t105


床:カネライトフォーム t60(根太間)


天井:アクリアウール 16k t105

外壁面にはアクリアウールα 20K 105㎜を充填、床は既存根太を再利用した部分の根太間断熱はカネライトフォーム 60㎜、食堂の床は新規で大引を組んで剛床工法としたため、大引間断熱でカネライトフォーム 75㎜を敷き込んでいます。
天井裏の断熱材は設計段階ではなかったのですが工事途中に断熱材の有無での温熱性能を比較してアクリアウール 16K 105㎜を追加で充填しています。
気密シートについては、外壁が通気工法でないためタイベックの可変透湿気密シート (VCLスマート)を採用しました。
改修した開口部はサルミサッシのLow-E複層ガラス、既存アルミサッシのままの部分にはおおよそハニカムブラインドまたは障子を設けています。

改修前のUA値が1.29から 改修後に0.64となり、HEAT20の G1水準近くまで向上しました。
ηAc値についても改修前が4.2から 改修後に1.0と向上しています。

省エネ性については、全ての照明器具に電球のみ交換可能なLED照明を採用しました。給湯器は省エネ性の高い給湯器が設置されていたため再利用としています。

改修後 [ バリアフリー性 ・火災の安全性 ]

バリアフリー性については、寝室・トイレ・浴室の配置は良いですがトイレの大きさは不十分なままです。出入口の幅については主要な扉の幅はクリアしています。また間仕切り壁の扉については敷居に段差のない引き戸としています。

火災の安全性については、2世帯住宅 (長屋) の界壁については準耐火構造と遮音性能を満たしています。火災警報器についてはキッチン・寝室・多目的室など主要な室に設置し、新設した壁については防火構造とし延焼ラインにかかるアルミサッシは防火設備としています。

改修前後の性能比較

Before
改修前 レーダーチャート
After

改修後 レーダーチャート

耐震性については建物全体で評価するため、今回改修工事を行っていない2階の上部構造評点が0.56のままであるためレーダーチャートの耐震性は変わっていませんが、1階の上部構造評点は改修前に0.63から 改修後に1.04まで向上していますので、参考までに1階だけで評価した場合は104となります。

参考:1階のみで評価した場合

改修後レーダーチャート

 

photo

Before 

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居間と食堂
和室は食堂に変更しました。
南側の開口部は、開口面積を抑えて床から建具を上げて、アルミサッシの枠が見えない隠し框の納まりとして、その内側に戸袋に納まる木製建具を取り付けています。
After

Before

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居間より食堂を見る
食堂の床を1段下げてタイル貼りとして、空間のバリエーションをつくっています。
床の間だった下屋部分に造作工事で本棚を設けたので図書室のような食堂になりました。
After

Before

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食堂よりキッチンを見る
キッチンと食堂を隔てる壁を大きく開口したことで、キッチンと一体的に使える食堂になりました。
また空間に合わせて別途家具工事でナラ無垢材のダイニングテーブルもデザインして設置しました。
After

Before

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食堂より居間を見る
居間と食堂の間は壁で分けながら、開口を大きく取って居間と食堂のつながりをもたせています。
食堂側に見付の大きな木枠をまわして大きな引き戸が引き込めるため、適度に分けて使うこともできます。
After

Before

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居間より中間を見る
もとの食堂は中間に変更しました。
中間は家の中心にあって、つなぎの間としての役割をしています。天井高を2100㎜と抑えて、小さな空間から各室が広がるように意図しています。
上部の下り天井には壁掛エアコンを設置して木製ルーバーでカバーしています。
After

Before

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多目的室(子供室)
玄関横にあったトイレを廃止して居間の一角を間仕切り多目的室としました。
天井と床に入れた無目を当たりとして将来的にカーテンやパーテンションなどで2つに分けた子供室にもできます。
After

Before

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キッチン
独立した位置にあり閉鎖的なキッチンから明るく開放的なキッチンになりました。
勝手口の内側に木製建具を設け見えにくくしてあります。またトップライト部分には木製ルーバーと透明アクリルを設置してあります。
システムキッチンは既存品を流用していますが、収納量があるので吊り戸棚は廃止しました。
After

Before

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洗面所と浴室
水回りの位置はそのままに設備と内装を刷新しました。天井材はヒノキの羽目板張り、浴室の床と壁にはモザイクタイルを使用しています。
浴室の換気がしやすいように天井ラインにつけた高窓のアルミサッシを新設しています。
洗面カウンターは主にナラ無垢材を使用した別途家具工事で製作しています。
After

Before

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寝室
寝室として落ち着きのある内装としています。
天井や建具にはラワン合板を使用。また天井高さは2190㎜と低めに設定しています。
フローリング材はすべて飯能市の材木屋さんから杉材(西川材)フローリングを購入して施主支給品としています。
After

Before

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玄関
ガラス引戸の向こうに中間があります。玄関から居間やキッチンに至るまでに、バッファーゾーンとしての中間を経由する間取りとしています。
大きな下足入れはこれも別途家具工事で製作して、耐力壁の合板を利用して吊り固定しています。
After

まとめ

今回の改修は住宅医スクールの受講を終えるところでお声掛けいただいた物件でした。ちょうどいいタイミングと捉えて、住宅医サポートの協力も得て詳細調査を行うことで、既存建物の性能や状態を定量的に把握することができました。その上で予算と検討しながら、耐震性能や温熱性能の不足をどこまで向上させるかというところまで提案することができました。
また性能面だけでなく、壁を追加したり天井高や動線を工夫することで空間のバランスを整えたり、開口面積を抑えて建具や納まりを工夫することで光の入り方を調整したり、素材を吟味したりといった小さな変更の集積によって陰影や静寂さを宿した心安らげる住まいとなりました。
1世代分のサイクルを向かえた築32年ほどの住宅ストックをショートサイクルで建て替えるのではなく、既存建物と注意深く素直に向き合った改修を施すことで、世代を超えて住まいを受け継ぐことができました。
新築が当たり前ではなく、直して永く住む、住まいを受け継ぐことがこれからの暮らしにつながる新しい流れとなり、もう一つの定番になっていくことを期待しています。

設計監理:森孝行建築設計事務所 森孝行
構造設計:山辺構造設計事務所 鈴木竜子
施工  :草野工務店
別途木材:岡部材木店
別途家具工事:アクロージュファニチャー 岸邦明 淺井智弘
竣工写真:川辺明伸

[概要]
建築地:東京都板橋区
用途 :長屋 (2世帯住宅)
規模・構造:地上2階建・木造在来工法
建築年 :1990年
敷地面積 :304.07㎡ (91.98坪)
1階床面積:146.42㎡ (44.29坪)
改修面積 :130.52㎡ (39.48坪)
2階床面積:137.99㎡ (41.74坪)
延床面積 :284.41㎡ (86.03坪)
竣工 :2023年8月
 

森 孝行
©2017 森孝行建築設計事務所 t.mori Architect & Associates, jutakui
No.0145 小茂根の家


LINK
森孝行建築設計事務所  https://www.moriarch.com/

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耐震改修された旧耐震木造住宅の地震被害 ~リレーコラム2024年3月 https://sapj.or.jp/column240311/ Fri, 08 Mar 2024 22:00:53 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29374 井戸田 秀樹 名古屋工業大学大学院教授 / 名古屋工業大学高度防災工学研究センター長 / 愛知県

元旦に発生した令和6年能登半島地震から2ヶ月が経ちました。被災地の明るいニュースも聞かれるようになりましたが、復旧・復興に向けての道のりはまだまだ始まったばかりです。あらためて、被災された地域の皆様、ご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

6,434人の犠牲者を出した1995年の阪神淡路大震災以降、国は「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」を制定し、旧耐震木造住宅の耐震改修工事への補助制度を設けるなど改修促進に向けた制度設計を進めてきましたが、残念ながら耐震改修が木造住宅の地震被害を有意に軽減させる効果につながるには至っていません。石川県は住宅耐震化の取り組みに熱心な県のひとつで、名古屋工業大学高度防災工学研究センターが提供する安価な耐震改修技術の講習会「達人塾」を2018年度から6年連続で開講し、耐震改修費補助金額も金沢市で全国トップクラスの200万円を用意しています。2022年には輪島市でも施工者向けの講習会を開催しました。「達人塾」を開催してから、徐々に改修件数の増加が確認されていましたが、安価な改修技術が十分に普及する前に今回の地震が起きてしまったことは本当に残念でなりません。

2016年4月 熊本地震

さて、耐震改修補助制度の運用が始まってから発生した大きな地震災害に2016年4月の熊本地震があります。熊本県は2014年に初めて「達人塾」を開催し、九州の中では比較的住宅耐震化に積極的な県でした。熊本市内には、2016年の地震発生時にすでに100件を越える耐震改修物件がありました。今回のリレーコラムではこの耐震改修物件の被害についてご紹介します。

図1 調査対象物件の所在地と想定震度  [出典:防災科学技術研究所 (2020),J-RISQ 地震速報]

調査対象物件概要
2017年5月15日〜17日、熊本市の協力のもと、熊本市内の改修済旧耐震木造住宅119件の被害調査をしました。これらの住宅は、2009年〜2015年にかけて行政の補助制度を使って耐震改修工事を実施した物件です。
図1に各物件の所在地と損傷度、および熊本市内の震度分布を示します。調査対象物件は熊本市の5区に渡って分布しています。ここでは、益城町との境界近くの推定震度7地域にあった東区の「物件1」と、推定震度6強の西区にある「物件2」について紹介します。

「 物件1」
改修前評点0.97を評点1.52まで改修した図2に示す物件です。筋かいの新設を4箇所、筋かいの取り替えを4箇所に加え、屋根の軽量化をしています。想定震度は震度分布マップを見ると震度7と想定されます。被害は玄関が傾き、南面の壁が一部外れたとのことですが、倒壊は免れ、家主さんも無事でした。損傷度は半壊、木造住宅の破壊パターンに基づくDamage Index¹⁾ は0.4程度と推定されます。調査時、すでに建物は撤去されており、被害度合いを確認することはできませんでしたが、周辺には半壊あるいは全壊のため建物を撤去したと思われる空き地がいくつかありました。

図2「物件1」建物と周辺の状況


「 物件2」
熊本市西区の東端にある図3の物件です。やや急峻な丘の上にあり、周辺地盤の変状と震度マップから現地の震度は6強と推測されます。評点は改修前の0.43を1.03までアップしています。筋かいの新設2箇所、筋かいの取り替え4箇所、構造用合板の取付5箇所に加え、屋根の軽量化も実施しています。被害は北側と東側の外壁モルタルの落下がありましたが、建物全体の残留変形はほとんどありませんでした。損傷度は「一部損壊」, Damage Indexは0.3です。

図3「物件2」建物と周辺の状況


119棟の被害
以上のような調査を熊本市内の耐震改修物件119棟について行い、耐震診断評点と損傷度(Damage Index)の関係を想定震度エリアごとに示したのが、図4です。損傷度は0.1〜0.4が 一部損壊、0.4〜0.6が半壊、0.6以上が全壊に対応します。図中の点線と実線は、文献²⁾ で提案されている耐震診断評点と損傷度の関係を表す曲線で、各震度エリアの下限(実線)と上限(点線)を示しています。また、図中の赤いプロットは調査対象物件の耐震改修前の評点とその評点のときの想定被害、青いプロットは耐震改修後の評点とそのときの想定被害です。そして黒いプロットが調査で得られた実際の被害です。黒いプロットがどこに分布しているのかを見てみると、いずれの震度エリアでも実際の建物被害のほとんどは青いプロットよりも被害が小さく、その多くは損傷度0.1以下、つまり無被害であった割合がとても高くなっています。実際の地震被害から見ても、耐震改修の効果が明確に現れています。

図4 耐震診断評点と損傷度の関係

おわりに

能登半島地震の被災地に住む建築士からは、「近所の耐震改修済住宅はピンピンしている」という声も届いています。耐震改修の効果をこれほど実感させてくれる情報は他にはないと思います。被災地の状況が落ち着けば、能登半島でも耐震改修建物を対象とした同様な被害調査をぜひ実施したいと思っています。

井戸田 秀樹
©Idota Hideki,  Society of Architectural Pathologists Japan


<参考文献>
1) 岡田成幸,高井伸雄:地震被害調査のための建物分類と破壊パターン,日本建築学会構造系論文集,第 524 号,pp.65-72,1999.10
2) 岡田成幸,高井伸雄:木造建築物の損傷度関数の提案と地震防災への適用,日本建築学会構造系論文集,第582号,pp.31-38,2004.8


information
・3月24日(日)開催の 達人塾「木造住宅の耐震改修をあなたのビジネスに!」受付中 https://sapj.or.jp/240324workshop/
・6月8日(土)住宅医スクールは、【防災・高齢者】
井戸田先生・室崎先生です  https://sapj.or.jp/category/school/


 

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各地の住宅医の日々 №38 ~まちライブラリーと地域づくり https://sapj.or.jp/jutakuinohibi2024-0038/ Fri, 08 Mar 2024 21:00:50 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29222 北 聖志住宅医 / THNK一級建築士事務所 / 大阪府

私は大阪市内で設計事務所を営んでいますが、住宅以外に福祉施設の設計に関わることが多く、住宅を改修して施設として利用したいということも度々あります。そういったコンバージョン(用途変更)は、住宅医スクールで学ばせてもらっているおかげでより確かな提案ができていると思います。
はじめに、ここで身近に関わりのある本を紹介したいと思います。「『まちライブラリー』の研究 」(礒井純充、2024年2月出版)という本です。
「まちライブラリー」をみなさんご存知でしょうか?著者が提唱した私設図書館で、みんなで持ち寄った本でできていて、本を通じて人とつながることも目的にしています。巣箱のようなスペースでも始められて、今や全国で大小合わせて1,000ヶ所以上のまちライブラリーがあるそうです。まちライブラリーについて著者が論文としてまとめたものを読みやすく書籍にしたのがこの本です。
私は縁あって自宅のすぐ近くで事務所を借りているのですが、そのビルにまちライブラリーがあり、発祥の地でもあります。私自身の実感として、まちライブラリーを通じてテナントの方と知り合ったり、子どもと本を借りたり、近所の子育て世代の方と知り合いになったり、まちのサードプレイスとしてありがたい存在になっています。


事務所のビル3階にあるまちライブラリー。吉野杉を使った本棚や机はボランティアによる手作りとのこと。

本の中ではその試行錯誤、まちライブラリーに至る経緯、うまくいく例、うまくいかない例などが紹介されています。まちライブラリーの認知度は高まっていて、最近では施設計画中のクライアントから「まちライブラリーを併設したい」という話を聞くまでになっています。建築関係の方や地域に根ざした事業をされている方にとっては興味深く、アイデアの広がる内容なのでぜひ一度お読み下さい。

次に地域づくり的な視点で日々の仕事に立ち戻ってみると、昨年、京都府与謝野町で民家を高齢者施設に改修するプロジェクトに関わらせてもらいました。そこではクライアントが介護に関わってきたシズエさんというおばあさんのご子息から、「この家を引き継いでもらえないか」という相談を受け、看護小規模多機能型居宅介護事業所という地域での在宅を支援する施設として改修に至りました。


民家が地域での在宅を支援する施設となる。桁行方向に増築されており、もともとの釉薬瓦の美しい屋根が町並みに馴染んでいる。

既存建物は昭和54年に建てられ、その後、家族構成の変化と共に2回増築がされていました。そして現在はシズエさんが施設に入り、住まい手がいなくなっていました。柱梁はしっかりしており、夫婦や核家族で住むには広い間取りは人が集まる場所としてはぴったりでした。検査済証がない建物で用途変更申請が必要、施設として介助ができるお風呂が要るので増築・減築も必要、もちろん耐震改修も必要でした。補助金を利用したり、クラウドファンディングで資金を集めたりもして、無事オープンできました。

他に最近印象深かったのは、昨年(2023年)11月に雑誌「住宅建築」の企画で三澤文子さんと吉村理さんの対談イベントが奈良県御所町にある吉村さんの事務所であり、現地で参加させてもらいました。そこはもともと吉村さんの祖父母の家で、空き家になったことをきっかけにそこを拠点とし、現在、御所町のプロジェクト(住宅特集2022年12月号他)にも関わられているという話をお聞きできました。


奈良県御所町にて

両者とも残したいと思う古民家、住宅があって、それをきっかけにまちや地域に関わっていくという事例でした。
こういった日々の出来事を通じて「既存建物をインフラととらえ、改修して地域づくりにつなげていく」ということは、これからますます求められてくることで住宅医の活躍の場になるのではと感じています。

( 写真・文章:北聖志 )
©Kita Satoshi , jutakui


 LINK
THNK一級建築士事務所 https://thnk.jp/


 

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雑誌:建築知識ビルダーズNo56 https://sapj.or.jp/post-29209/ Sun, 25 Feb 2024 22:48:04 +0000 https://sapj.or.jp/?p=29209 発売日:2024年2月27日
雑誌:建築知識ビルダーズNo.56
出版社:エクスナレッジ
発行形態:紙版、デジタル、
参考価格:1,980円
ISBN-10:4767832470

住宅医の村上康史さんの「築63年木造賃貸アパートの再生」が【巻頭特集】に掲載されています。
「建て替えない」選択の可能性 第7回日本エコハウス大賞グランプリ受賞作品


 

 

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住宅医スクール・オンライン2024【木材劣化】 https://sapj.or.jp/online240316/ Sun, 18 Feb 2024 21:00:28 +0000 https://sapj.or.jp/?p=28147 第2回 開講日:2024年3月16日(土)

接続テスト時間 12:30~13:00
受付時間 13:00~13:20
インフォメーション 13:20~13:30
第1講義 13時30分~15時30分
木材劣化の基礎と対策①

[木材腐朽菌・乾材害虫の生態と対策]

簗瀬佳之/京都大学大学院農学研究科准教授

第2講義 15時45分~17時45分
木材劣化の基礎と対策②

[シロアリの生態と蟻害の事例、防蟻対策]

水谷隆明/阪神ターマイトラボ代表

懇親会 18時00分~19時00分 (※参加任意。意見交換や交流を目的とした懇親会)

スクール カリキュラムは こちら

スポット受講 お申込みは こちら

※ライブ講義配信会場【参加者募集中!】
3月16日(土)のライブ講義は、住宅医協会事務局(大阪市福島区)より配信します。
配信会場参加者を4名募集します。(※先着順。定員になり次第、締切とさせて頂きます)
講師の方々とリアルにお会いして講義を視聴されたい方は、下記申込フォームよりお申込みください。
ご自身の講義資料や視聴用のノートPC等は、各自で持参して頂く形になります。

お申込みは終了しました。

 

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