住宅医の改修事例№173 安心な自然素材で性能向上改修を行う
相河 真弓( 住宅医 / 相河真弓設計工房 / NPO法人もく(木)の会 )

経緯と今回の改修
この家の履歴は築37年の建売住宅で以前から丁寧な改修が行われています。今回は 住まい手が長く安心して暮らすための耐震改修など6つの性能向上改修が行われました。安心出来る建材が選定され、身近な木材を活かしたインテリアに暮らしの豊かさを感じます。そして環境負荷やシックハウス問題など社会問題に真摯に取り組まれた改修事例です。(住宅医通信編集部)

これまでの改修履歴(2022年時)
【改修履歴】建物は、昭和61年竣工の建売住宅。大手不動産が開発から販売まで手掛けたものでモニエル瓦とモルタル吹付の在来木造住宅である。べた基礎で構造金物もある程度設置され、筋かいによる耐力壁はバランスよく配置されている。上図はこれまでの改修履歴(2022年時)
既存建物調査
建物詳細調査は2022年8月から9月、複数回にわたり行った。建物内外装、床下、小屋裏、設備機器の状況を確認。床下は湿気もなく、基礎周りも小さなひび割れが見られるが、築年数は経っているわりに全体に健全。外壁は通気層がなく、ラスシートモルタル吹付仕上げのため、シートが湿潤していた跡も見られた。外部バルコニー手すりなど鉄部の錆があった。水回り設備は竣工当初から交換されておらず、浴室のタイルの剥がれ等問題が多い。冬季の玄関等非居室の寒さが厳しいとのこと。
建物調査写真![]() 屋根:モニエル瓦 |
■![]() 小屋裏換気口:天井面積の1/250以上 |
![]() 外部バルコニー:鉄部の錆 |
![]() 鴨居:雨漏り痕 |
![]() 基礎高さ 400mm |
![]() 床下有効高さ 330mm |
既存建物性能 レーダーチャート
| Before
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Before![]() 事例№173:(改修前) |
改修プラン
住まい手の要望は、これから先も長くこの家に住み続けるために、「冬期の玄関まわりの寒さの解消」「設備の更新」「地震対策」「薪ストーブの設置」を行うこと。
■改修内容
・水回り設備の更新
・冬期の住戸内温度差解消として玄関に薪ストーブ設置
・これまで手を入れていなかった部屋を無垢の木と自然素材で改修
・できる範囲で耐震性・断熱性・省エネルギー性を向上
■改修においての留意点
・できるだけ環境に負荷のかからないようにしたい(ライフサイクルカーボンを意識)
・住まい手にとって心地よい安心できる住環境に(室内空気環境を含め)
・普通の人々が支払えるコストで改修工事を行う
Before
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After
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住まい手は50代の夫婦。要望は玄関に薪ストーブを設置し、冬期の玄関の寒さの解消と暖房方法を灯油・ガスストーブから変更し近くにあるエネルギーの有効活用をすること、竣工当時から更新していない水回り設備の更新と内装材や建具等に日本の無垢の木・和紙・漆喰を使いたいというものだった。
そこで今回の工事範囲の断熱性・耐震性の向上を目指しながら設備の更新と薪ストーブを設置するために玄関収納スペース部分の増築を行った。
既存建物の性能向上を検討する
基礎は鉄筋コンクリートでアンカーボルト。換気口が適宜設置されており健全なことから既存を利用。
プランは変更せずポーチ部分に前室2.48㎡を増築したので、このプランでバランスを見ながら耐力壁の追加と金物の追加により耐震性を向上させた。
改修後伏図 基礎伏図 |
改修後伏図 2F床伏図 (新規梁を設けた) |
今後、来ると言われている大地震に備え、制震装置を設置。
1度目は耐震補強で耐えることができても損傷により耐力は低下する。少しでも揺れを吸収し、複数回の地震に対応できれば。2階胴差・梁と1階柱に取りつく。配置は▲上右図。
【 耐震性能 】
上部構造評点を0.87から1.42まで向上させた。
![]() <現状> 0.87 精密診断による既存建物の耐震診断を行った。 竣工図から読み取れる耐震要素、筋かい33×103(方向も記載)を配置。 筋かいはバランスよく配置され、偏心率は「0.07」 基礎は鉄筋コンクリート造のべた基礎 t120 金物は基礎のアンカーボルト・柱頭柱脚に山形プレート・梁に羽子板ボルト。筋かいに平金物が確認された。 |
![]() <補強計画> 1.42 面材耐力壁(かべ大将・Jパネル)・面材非耐力壁(構造用合板・PB)Y6通り中央の1・2階に壁がある部分にかべ大将で補強。 Jパネルは前室収納内に現しで使用。 既存床を残した改修工事のため、Jパネル以外は床〜天井間に施工。 金物は可能な限り取り付けた。 |
■
補強計画![]() 柱頭柱脚金物算定平面図: ホームズ君耐震診断計算より |
■■■■■![]() |
■
施工写真 壁面:解体時 |
壁面:Y6通り かべ大将で補強 |
壁面:Jパネル 現し補強 |
壁面:Jパネル に棚板を施工 |
制震装置 |
金物補強1 |
金物補強2 |
【温熱性能 】
断熱性能 改修前 UA値1.49W/㎡K → 改修後 UA値0.94W/㎡Kに向上
玄関まわりの隙間風や住宅内での温度差も改善した。
| After 防露と材料選定
・外壁・天井には可能な範囲で既存のGW50㎜からパーフェクトバリア13K100㎜へ変更。前室・玄関・浴室土間基礎立上り部分にネオマフォーム25㎜を施工。 |
断熱材施工![]() |
シミュレーションでは開口部の熱損失が大きく減少 |
温熱性能を比較 貫流熱損失量は37%削減 夏季の日射熱取得量は36%削減 ホームズ君省エネ診断より |
【 省エネルギー性 】
改修後の一次エネルギー消費量の計算結果は77,684MJ(基準値84,223MJ)

・照明はリビングの多灯分散照明方式、白熱灯もLEDへ。
・暮らし方の工夫、日射取得と遮熱・暖気調節
・水回りの設備を全て更新したので、水栓は節湯型、節水型トイレ、高断熱浴槽へ変更。
・給気口と換気扇の設置により換気設備は増加。
![]() ηAC値 改修前4.5 → 改修後2.9 ホームズ君省エネ診断より |
暮らし方の工夫 〜日射取得と遮蔽・暖気調節

実測データで見る ガスの使用量の変化(2023年2月と2024年2月)

冬期の主暖房を開放式ガスストーブから薪ストーブへ変更したことによる効果が大きい
ガス料金は 26,035円 → 11,417円へ
料金の効果だけでなく、エネルギーを身近な資源から調達できるようになった
実測データで見る リビング 温湿度変化の比較(2023年2月と2024年2月)
| Before 2023年 2月 温度:平均14.5℃ 最低5.5℃ 湿度:平均62.4% 最高80% ![]() ■ SwitchBotによる計測 |
After 2024年 2月 温度:平均15.7℃ 最低8.5℃ 湿度:平均54.2% 最高74% ![]() ■ SwitchBotによる計測 |
最低温度が3℃上昇 10℃を下回る日数が大きく減少。湿度は平均で約8%減少 (薪ストーブへの変更による)
【 バリアフリー性 】
今回の改修ではバリアフリー性の向上は積極的には行っていないが、可能な範囲で下記の改修を行った。
浴室の更新を行ったことで段差が解消され、浴槽横手すりとシャワーフックにスライドバー(縦手すり)を設置。
玄関の段差は将来踏み台設置可能スペースを確保し、縦手すりと横手すりカウンターを設置。
今後必要な時期が来たら随時対応していく。
![]() 階段:三ツ割階段部に縦手すり取付 |
![]() 前室・玄関~ホール:縦手すり取付 写真※1 tani akiko |
![]() 玄関~ホール:横手すりカウンター取付 |
【 火災時の安全性 】
既存建物は必要な防火性能を満たしているため、未設置だった火災報知器設置による性能向上を行った。
キッチンは既存の壁タイルを残し、壁・天井は準不燃性能の壁紙を施工。
外部屋根・壁仕上げは基本現状に合わせた。
【 耐久性・メンテナンス性 】
床下と浴室・玄関は2F床組小屋組までホウ酸による防腐防蟻処理を行った。
書斎西側の雨漏り痕の原因調査を行い、外壁と内壁の修繕工事を行った。その後雨水の侵入は確認されていない。
バルコニー手すりはケレン・錆止め・塗装で補修。
水回りの設備機器は全て更新した。
メンテナンスしやすい自然素材を選定している。木部の塗装は蜜蝋ワックスなど子供でも塗装が出来る。
改修後の建物性能 レーダーチャート
After![]() 事例№173 :すまいの診断レポート(改修後) |
After![]() (改修後) |
ポイントは6つの性能を向上させコストを抑えること。
内装材や建具は室内空気環境の安全性や住まい心地を良くするために無垢の木や自然素材を使用すること、そして建物の改修から使用時だけでなく解体時の環境負荷も意識した。改修計画や材料の選択一つをとってもそれら全てを満たすことは難しく、それぞれと折り合いをつけながら進めた。完ぺきではないけれど、普通の人々が手に入れられる性能UP & 居心地UP & 環境負荷の少ない、そんな改修を目指した。
既存部分はプランを変えずに耐震性能を大きく向上させた。また今ある資源を有効活用し廃棄物をできるだけ少なく環境負荷を減らすことができた。薪ストーブを玄関に設置することで、冬期の温熱環境は劇的に変化し、玄関は居室となった。性能向上改修と共に豊かな暮らしを実現することができた。

改修前後の玄関
大切にしていること「できるだけ環境と住まう人に負荷をかけない」
① 資源を大切に使いゴミを減らす → 家具のリペア等 使えるものは使いつづける

30年使用したテーブルの天板のみ新しく、地元吉野のさくら材でスクエアからラウンドテーブルへ ■■写真※2 jun tomida
② 資源を大切に使いゴミを減らす → 日本の山の木を使う → 山の荒廃を防ぐ
~森林が豊かであることが私たちの暮らしを守ることにつながっている

■製材所で乾燥中の挽板■■■リビング出窓の窓台■■■■■■■■■■■■■玄関 横カウンター手すり・縦手すり■■■階段 縦手すり
■家具製作のために原木から挽いて余った南河内の杉板を使う
③ 室内空気環境を快適・健康・安心にする → 無垢の木・自然素材・自然系塗料を使う

■床・カウンター:蜜蝋ワックス、水回りは米ぬかワックス + 蜜蝋ワックス、■建具・扉・手すり:米ぬかワックス
■無垢の木の塗装(DIY)と施工:天然由来の塗料を使う。接着剤の使用は最小限
■
Before After
まとめ
この家は暮らしの変化に合わせ、以前からその時々の改修をしてきました。
過去の改修でも安心できる素材を選定し、床に無垢の杉厚さ30mmを敷き、壁天井は織物クロス・漆喰クリーム、断熱材はウールブレスを施工しています。
今回の改修では「冬になると玄関ホールで息が白くなる」「地震が心配」また、設備の更新が必要だったことから、これまで手を入れてこなかった部分を改修することになりました。
改修後は玄関に設置した薪ストーブが冬の暮らしに変化を与えました。住戸内の温度差解消はもちろん、増築面積はわずか2.48㎡ですが、居室空間を広げ居場所が増えました。また、耐震性能を向上したことは、日々の暮らしに安心感を与えています。
私が企業内設計士だった頃、シックハウスの問題が社会問題となり、子ども達が小さかったこともあり、住まう人・つくる人に安全な材料を使いたい、という気持ちが芽生え、今に至ります。
一方、住まいに求められる性能は仕上げ材料の安全性だけでなく、耐震性・省エネルギー性など多岐にわたります。
「性能を向上すること」「できるだけ環境に負荷をかけないこと」「心地よく安心できる住環境にすること」「できるだけ施工費を抑えること」これらは、私が住まいの改修に取り組む上で大切にしている視点です。しかし実際の改修工事を進める上で、それらは時に相反する解となり、日々悩みながらの選択の連続です。住まう人、暮らし方、地域、建物の状態、年齢、予算・・・など、改修ごとに最適な解は変化します。
これからもその解を求め、一つひとつの住まいと誠実に向き合っていきたいと思います。
文章・資料:相河 真弓
Photo by hirata photostudio tani akiko(※1), jun tomida(※2), Copyright 2026 Aikawa Mayumi, jutakui
住宅医の改修事例 №173 安心な自然素材で性能向上改修を行う
LINK
・ 相河真弓設計工房 / NPO法人もく(木)の会 / Instagram aikawa_muku_












基礎伏図
2F床伏図 (新規梁を設けた)



壁面:解体時
壁面:Y6通り かべ大将で補強
壁面:Jパネル 現し補強
壁面:Jパネル に棚板を施工

金物補強2

貫流熱損失量は37%削減 夏季の日射熱取得量は36%削減 


















