住宅医の改修事例№172 140年前の原型に立ち戻る、二世帯の暮らしを包む民家改修

中土居 宏紀住宅医 / 中土居宏紀建築研究所 / 大阪府


Photo by © hiroki_nakadoi

【建築概要】
・所在地 / 用途地域:山形県山形市 / 第一種住居地域
・構造・築年数:伝統工法(平屋)築140年 + 在来軸組工法(二階建)築40年
・面積  : 延床236㎡(71.39坪)
・工事費 :約3,600万円(坪 約51万円)2025年時 税別
・用途  :住居(祖父母+夫婦+子3人+大型犬1匹)
・地域区分:4地域(準寒冷地)
・温熱性能:UA値1.80W/㎡K→0.54W/㎡K ηAC値3.7→2.0
・耐震性能:上部構造評点Iw0.23 → 1.11

・改修設計:中土居宏紀建築研究所

改修の経緯

夫の両親、若夫婦と子供達の暮らす 築140年、古民家の美しい性能向上改修です。
若夫婦家族が移り住むことが決まり、新築も検討されましたが 家族の関係性と建物の最も自然な形が「改修」であったことをプランからも読み取れます。
遠方の現場でありながら素晴らしい連携と計画で、低コストでバランスの良い性能向上改修が行われました。改修後の写真からは、過去の改修で失われつつあった民家の大らかで豊な暮らしを未来へ残すことが出来た喜びを感じます。(住宅医通信編集部)

既存建物調査

建物は推定1880年ごろ創建の平屋建部分(伝統工法)と、1980年ごろの増改築による二階建部分(木造軸組構法)からなる。外部はシージングボードの上リシン吹付塗装、室内側ボードに聚楽塗りの真壁納まり。建物詳細調査は2023年6月、7月に小屋裏および床下、外観や設備機器などについて目視調査を実施。解体工事の際に壁体内など未確認範囲について追加調査を行った。

【 外部 】モルタル瓦に劣化が見られた。小屋裏は断熱材の脱落等が見受けられたが雨漏りはなく柱梁等に腐食等はなかった。

増築時に葺替えられたモルタル瓦は塗装が剥がれ、劣化
外周部は窓周りにところどころクラックが見られた
増築部基礎にクラックや蟻道は見当たらなかった

登り梁、野地板状態良く雨漏れ等も見られなかった

【 床下 】床下はシロアリの食害などは見られなかった。平屋部は石場建で不安な箇所も多かった。

平屋部分の基礎外周は立上がりなしだが腐朽も見られない
石に直接土台(栗)が乗る平屋部分の床下構成、地盤は乾燥状態
調査範囲でのシロアリ被害はなし

【 室内 】


段差が大きく荷物、玄関収納がなく、物が散乱
分散した水回りの中央に設けられた大きすぎる廊下

7人家族には狭すぎるダイニングキッチン

中廊下が各室の見通しを妨げていた
リビング見上げ

既存和室(仏間兼寝室)

二階洋間(空き部屋)

既存建物性能【レーダーチャート】

Before【改修前 性能診断結果】


事例№172 :「すまいの診断レポート」(改修前)

Before
事例№172:(改修前)

温熱性が最も低く、家族が健康で安心して暮らすことが出来る改修が必要である。

改修計画

70坪を超える家屋は何度も増改築を繰り返して当初の姿を失っていた。
部屋が細かく仕切られ、大家族が集う場所は狭く、収納も足りない。
使われなくなった個室は物置と化し、冬の寒さや水回りの分散など、問題は多くある。
しかし、ふと天井を見上げると、過去の囲炉裏の煙で黒光りする太い梁と、そこに鎮座する神棚が目に入った。代々受け継がれ、時を重ねてきた家が、静かに語りかけてくるようだった。「建替える」という選択肢はその瞬間、心の中から消えた。

また、夫婦は共働きで、平日は祖父母が三人の孫を見守っている。
それは核家族化以前の日本の家族の姿であり、同時に共働きが珍しくない今となっては現代的にすら思えた。
親子が助け合いながら暮らす様子を見ていると、「別棟を建てる」よりも自然な道があるようだった。

そこで、二世帯、七人家族が共に暮らせる「改修」を提案した。
限られた予算の中で、家の性能と機能を現代の水準に引き上げつつ、この地方の古民家にみられる、無骨さ、大らかさのようなものを取り戻すことを目指した。

Renovation for Minka in Sugesawa © Nakadoi Architect & Artisans

方針
・育児と家事がしやすく、7人家族が問題なく暮らせる間取りへと改修する
・コストの許す範囲で、現況よりも耐久性、耐震性、断熱性を高める
・外装は最小限の屋根の葺替え、外壁補修程度とする
・耐力的に必要な部分は補強しつつ、既存の仕上げもなるべく生捕りにする
・施主希望により、居ながらの改修を行う

性能向上・プランニング

二階が乗る位置に重点的に耐力壁を増やし、プランを整理

Before After


[改修前の耐震性能は大地震時に「倒壊する可能性が高い」耐震性能を積雪時に1.0以上とする。(CG:大地震時 ホームズ君使用)]


全体の収納量を増やし、かつ必要な位置に分散する間取りへ


中廊下を取り払い、LDK+和室を一体化、見通し良く広々とした間取りへ


無駄に広い廊下を整理し、表玄関と裏玄関を通り土間でつなぐ


居間を通り土間を3か所の動線でつなぎ、家族の往来を円滑にする


分散し、段差の多かった水回りを集約、フラットにし(両親)寝室と近づける


荷物置き場となっていた縁側を外部化し、庭への眺望を確保


解体・施工の様子

構造体柱はすべて活かし、スケルトンに




支保工で順次躯体を浮かし、薬剤散布した檜□120の土台を付替え



床下通気のまま、床根太間の断熱を施し、24mm 剛床にて気流止め、土間コンはコスト上 断念したが、防湿シートを全体に敷設



母屋部は階高が高かったため、すべて合板による面材によって補強し既存筋交いは残した。コスト抑えるために画像でのやりとりも工夫した



二階増築部、床根太を撤去し24mm構造用合板にて床構面補強を行った。



ご要望と耐久性・構造的なことから大黒柱をパテで埋めた。野地板を磨いた。

耐震性能

・大平面を活かして耐力壁をバランスよく配置、偏心率を小さくするよう工夫
・引抜き力が局所的に大きくならない配慮
・プラスターボード等の下地壁は耐力上非算定とする
・柱は増築部は□120、平屋部は□150と□180


居ながらの改修+コスト分配が難しく、補強不確定な床構面は既存の低倍率で計算・後から順次補強



改修前の上部構造評点は「倒壊する可能性が高い」 無積雪時 Iw0.31 → 改修後は「一応倒壊しない」積雪時 Iw1.11

温熱性能



Renovation for Minka in Sugesawa © Nakadoi Architect & Artisans

一次エネルギー 消費量の判定
事例№172 シミュレーション:改修後の光熱費 264,556円(年間) 削減  ホームズ君使用2024年



事例№172 断熱性能 UA値:改修前 1.80W/㎡ ホームズ君使用

施工写真:工程は支保工による基礎やり替えの前に屋根を改修し、建物を軽くした。
既存外周壁はひび割れ等補修の上、再塗装し内側から高性能グラスウールによる断熱を施した。

 

改修後の住み心地は「とても暖かく快適」とのこと
二階のセカンドリビングは冬とても暖かい。LDK、厳冬期は高性能エアコン+ヒーターによる運用で、ファンを回すとより暖房が効く。個室は個別電気ヒータ等を使用している。

改修後の建物性能【レーダーチャート】

After

赤:改修前の建物性能 / 青:改修後
事例№172:一社)住宅医協会「すまいの診断レポート」 改修後
After

赤枠:改修前の建物性能 / 点線:改修後
事例№172:改修後

コストを抑えて各性能をバランス良く、性能向上改修をすることができた。

既存材の活用


内装は、解体中に露わになった創建時の天井や梁柱、増築時の深緑の聚楽壁をなるべく生け捕り、それらに馴染むよう、新調する床や壁は灰色の濃淡でまとめ上げた。 こうして、創建時、増築時、今回の改修時、それぞれの素材が地層のように重なり、調和して現れる状態を目指した。

土壁
解体時に間仕切りの奥から]現れた100年以上前の壁[を補修し仕上げにした。
板張り天井天井は補修の上、現しとすることでコスト削減と意匠性の向上に寄与した。 構造材既存の梁柱は補修+L型金物、短冊金物等を適宜用いて脱落防止補強を行った。
改修前
南面外観
改修後の欄間
欄間を残し、外周部のアルミサッシ短板ガラスを撤去し、樹脂Low-E複合サッシをインセットした。庭に開かれたインナーバルコニー(外縁)へ。

 

まとめ

築140年の平屋部分は、追加された間仕切りや天井を取り払い、南の庭に面した一室の居間へと再編した。
中廊下がなくなり、見通しの効く一室空間となったキッチンからは、子供たちが遊ぶ様子と四季の表情豊かな庭の光景を望むことが出来る。
七人が囲う大きな食卓は一枚のLVLで作り、大黒柱を中央の支点として据え付けた。
かつて物置だった縁側はベンチのように腰掛けられる濡れ縁とした。
今ではバーベキューや庭遊びなど、家族の憩いの場となっている。

築40年の増築部分(二階建て部分)は、補強をしながら間取りを大きく見直した。
家族用の裏玄関を新設し、表裏の玄関を通土間でつなぐことで、光と風が通り抜け、子どもたちが自由に駆け回れる空間にした。

この通土間と居間は3つの動線でつながっている。
1つ目は子どもたちの遊び場・学習室にもなる和室を通る「表動線」
2つ目は裏玄関~衣類収納~洗面室を経由する「帰宅動線」
3つ目は食品庫を通り台所に至る「水回動線」
この3本の機能動線が、大家族の往来をスムーズにし、ハレとケ、現代の暮らしと古民家を仲介する役割を担っている。

階段を上がると、光あふれる若夫婦のためのセカンドリビングがある。
窓からは、蔵王山と山形盆地を一望する景色が眼下に広がる。
ここは、都会の利便性とは異なる、本当の豊かさを教えてくれる場所だ。

写真

Before 

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内縁 → 外縁
荷物置きとなって室内を暗くしていた内縁の廊下は、欄間を残しつつ、外周部のアルミサッシ短板ガラスを撤去し、樹脂Low-E複合サッシをインセットした。縁側欄間は保存、樋はすべてやり替え南の庭に開かれたインナーバルコニー(外縁)へ。減築を主としながら現代の二世帯住宅へと再編。
After

Before 

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日常とハレをつなぐ和室
既存の床の間を活かしながらお仏壇を設置し、玄関に近い場所に配置することで、来客にも対応しやすい仏間となりました。
また、子どもたちの学習室や遊び場としても工夫をこらしています。和室の凛とした雰囲気を残しつつ、多目的に使える空間となりました。
After



Before

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原型に還す
築140年近い古民家の平屋部分は、中廊下や天井を取り払うことで、キッチンから居間、さらに庭まで一直線に見渡せる広いワンルーム空間になりました。
頭上には過去の煤で黒く光る曲がり梁が現れ、奥行きのある民家本来の姿がよみがえりました。
After


Before

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大黒柱のある食卓
生活動線の先に佇む大黒柱が、この家の中心です。
2m超のLVLの天板と黒皮鉄の脚を組み合わせた造作のテーブルは大黒柱を支点にしてたわみを防ぎ、二世帯の家族が集う象徴的な食卓となりました。
After

Before

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改修の地層
和室はご両親のスペースに。衣類箪笥が収まる独立した壁を設け、縁側と寝室をゆるやかに仕切る。今回の改修時の仕上げはグレーの色調でまとめ、既存部分と区別しながら明度をそろえ 創建時・増築時・今回の改築の痕跡が地層のように現れています。

Before 

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通り土間
築浅の増築部は間取りを大きく変更。
二世帯の間を緩やかに区切る土間は、光と風が抜けてゆき、子どもたちが元気に走り回れる外部空間の続きのような場所に。
After

Before

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通り土間のオルガンホール
玄関から続く通り土間の突き当たりにはオルガンが据えられています。開口部越しに見える植栽が、通り土間に四季折々の彩りを添えます。
After



Before

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盆地に開く明るい部屋
二階は一階と対比的に明るい内装とし、小上がりとなった書斎をご夫妻のためのセカンドリビングへと改修しました。横長窓からは山形盆地の風景を見渡すことができます。
After

最後に

一年半にわたる改修を終え、一世紀半を生きた家は再び息を吹き返した。
家は二世帯の生活を包み込み、次の百年へと静かに時を刻み始めている。

日本の地方には、忘れられ、朽ちていく古民家がまだ数えきれないほどある。
それぞれが未来へ引き継ぐべき、現代では再現不可能な過去の工匠たちの遺産でもある。
既存のポテンシャルを最大限に活かしつつ、現代の暮らしの水準に間取り・機能・性能を向上させることにより、再び人の気配とぬくもりを宿す場を次の世代に継承していきたいと考えている。

文章・資料:中土居 宏紀
Copyright © 2026 Nakadoi Hiroki, jutakui

172「140年前の原型に立ち戻る、二世帯の暮らしを包む民家改修」
施工:大友建設株式会社 丹野 睦 (現場監督) 青木 力 (棟梁)
照明計画:U Lighting Office 藤嶋 祐紀
改修設計 写真撮影:中土居宏紀建築研究所


LINK
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