改修事例 №0153 「八王子の古民家再生」
松井郁夫(住宅医 / 松井郁夫建築設計事務所 / 東京都)
計画
八王子の小高い敷地に立つこの家は、明治40年代に建てられたといいます。およそ百年を生きた家です。元は農家で、茅葺きでしたが、「暗くて寒いので、改修して終の棲家にしたい。」との依頼です。
そこで、耐震改修はもちろんですが、古民家といえども暖かい家にしたいと考えました。古民家の耐震・エコ改修です。オーナーとは現場で何度も工事内容を確認しながら進め、延べ6年の歳月をかけました。
屋根は茅葺きの形状を活かして、勾配屋根にします。茅は今では手に入りにくいので、ガルバニュウム鋼板に葺き替えます。小屋裏から光と風を呼ぶために、ハッポウという明かり窓を開けました。
右の古い写真は「高ハッポウ」という山形県の月山の麓、田麦俣集落に多い屋根です。ハッポウは、兜造りの屋根の中腹に作られる明かり窓のことです。古民家の屋根は地域の気候風土によって形づくられます。今回は板金屋根になりますが、その美しい姿を今の時代に伝えたいと思いました。
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施工写真
茅葺きの形状を活かして、ガルバニュウム鋼板に葺き替えます。
床下は柱の石場置き部分や足固めの補修をして、防湿コンクリートを打ちました。断熱材を充填して、床下エアコン一台で温かい古民家にします。
屋根工事:茅の撤去 |
叉首(サス)構造の丸太を残します |
内部工事 |
石場建て を生かし一部補修の上、防湿コンクリート打設 石の廻りは空間をあけて すべる余地を残します。さらに夏結露をさけるために束の周囲にウレタンを吹き込みます。 |
内部工事:茅葺に使われていた煤竹を再利用 |
古い格子建具を使って、むかしの外観を再現 |
耐震性能
構造計画は、限界耐力計算で地震にどこまで耐えられるか算出し、石場建てのまま、古民家の木組みを生かした計画を行う。限界耐力計算は、株式会社悟工房 山中信悟氏。
改修前 |
改修後 既存の石場建て、木組みを生かした構造計画 |
温熱計画
日本の家は、高い床下が特徴ですが、ここでは床下を密閉してエアコンの暖気を入れます。
窓際のガラリから暖気を吹き出すことで、ガラス窓の冷えた重い空気を暖めながら室内に暖かな空気を送ります。床下から屋根上までは断熱材の入れ方を工夫して外断熱を施しています。エネルギー効率の良い断熱材を選んで温熱性能を向上させています。
ワークショップ
住みよい木の家を、未来につなく活動として様々なワークショップに取り組んでいますが、「むかしといまをみらいにつなぐ」をテーマに、八王子の家でも施主の協力を得て、学生さんや設計者、これから古民家の再生をされる建主さんに、私たちの古民家の改修を知っていただく事が出来ました。私達の活動を社会や未来につなぐことが出来ればと思います。
スケッチ
もとは茅葺きの古民家です。改修後は屋根裏のハッポウから、光と風が一階に届くように、吹き抜けを計画しました。最初に建物を見て描いたスケッチを施主が気に入り、そのままのイメージで改修を行うことになりました。
© 松井郁夫建築設計事務所
竣工写真
床下エアコンを一台設置。窓の下、ガラリから エアコンの暖気が室内を暖める
小屋裏:叉首(サス)の丸太を残すために、棟の上に新たに構造材を加えた。ハッポウから光と風が入る
まとめ
古民家が壊される理由は耐震性と「暗い」「寒い」です。そこで架構はスケルトンにして耐震改修はもちろん、屋根に窓(ハッポウ)を開け、明るい室内を実現しました。さらに断熱材を充填して、床下エアコンと薪ストーブを設置しました。エアコン一台で 充分暖かい家となりました。温熱環境は、辻さんの環境デザインツールを使って熱損失計算をしています。八王子の家はHEAT20 G2レベルに達しています。
2021年には「ウッドデザイン賞」を受賞しました。明るくて暖かい家は、さらに100年生きる新しい古民家となりました。
LINK
・ 松井郁夫設計事務所 https://matsui-ikuo.jp/