№0083〜「墨田の家2」改修事例報告
■ 改修概要
設計者・報告者:伊澤計画 伊澤淳子
所在地:墨田区墨田(近隣商業地域・準防火)
用途:一戸建ての住宅
築年数:1964年(築64年工事が終った去年から考えると63年)
前面道路:二項道路
規模:木造二階建て
敷地面積:71.96㎡(23.28坪)
建築面積:43.27㎡(13.08坪)
延べ床面積:86.54㎡(26.16坪)
着工:2016年10月中旬
竣工:2017年2月末
家族構成:クライアント65歳(障碍者認定3級)、30代子供夫婦、孫。計4名
改修内容:耐震改修、断熱改修、防火改修、間取り変更、内外装や設備の更新等全面改修
■ ご相談〜竣工までのスケジュール
2015年12月相談を受ける。
・ クライアントは足を煩い、階段の上り下りが難しくなった。 そのためダイニングにベットを置いて、プライバシーのない生活している。それを改善するとともに、将来車椅子の生活を想定した改修をしたい。
・ 古い建物で、断熱性能が無い。
・ 地震に強くして欲しい。
・ 家の中が暗い。
・ 建て替えると家が小さくなってしまう。
○2016年1月耐震診断契約
・ 5名で調査を行う。
・ 診断結果説明、補強計画案提示。
・ 新築と改修それぞれについて比較検討。
・ 改修基本プランを提示。→改修を選択
○2016年2月設計監理契約
改修の実施設計を始める。
○2016年10月中旬着工
○2017年3月工事完了
■改修前写真
▲改修前外観
▲南側庭 ▲1階ダイニング
▲階段 ▲2階寝室
▲2階和室
■調査写真
(外部)
▲外壁:ラスモルタル仕上部分に大きなクラック ▲クラック巾0.7㎜程度
▲ 外壁錆
(内部)
▲1階床下 ▲浴室入り口部:土台腐食部分
▲浴室:タイル割れ ▲鉄筋探査
▲2階床下 ▲小屋裏
▲含水率測定
■調査結果
○劣化診断
1.外部
・ 外壁はトタン張りで、全面に錆が進行しており、下端には欠損がみられる。モルタル部分にもクラックが多数見られ、過去の内部雨漏りとあわせると、壁下地が腐食、クラックが出来たものと思われます。
・ 増築部外周一部CB基礎のところあり。
2.内部
・ 倉庫の壁仕上に雨漏り跡あり。
・ 浴室タイルの割れは土台が腐っている事が原因。基礎はCB
・ 脱衣部床の蟻害による劣化の補修跡
・ 2階北側の雨漏り跡がある。
・ 階段部分のクロスの剥がれ。
・ 小屋裏は金物、筋交い、火打梁なし。隙間がみられ、断熱材なし。
○耐震診断(一般診断)
・ 1階X方向が一番弱く評点は0.43
・ 偏心率は大きくない(最大で0.057)
・ 劣化度が高く×0.7となる。
・ 接合部は釘打、ほぞ差し
・ 筋交い、火打梁無し。
・ 壁の耐力が弱い。
・ 基礎鉄筋なし
○省エネルギー
• 床:1,2階一部:発砲スチロールt30
• 窓は単板ガラス、ガラスには梱包材が張ってある。
• 開口部:アルミサッシ単板ガラス+大きな窓には梱包材張り
• 小屋裏、外壁には断熱材が入っていない。
• UA値:2.96W/㎡K>0.87W/㎡K
• Q値:10.52W/㎡K
• 一次消費エネルギー:77.92GJ
○バリアフリー性
• ダイニングにベットが置いてあり、プライバシーが保てていない。
• 浴槽の縁が65cm、湯船につかれない。窓が大きく浴室が寒い。
• トイレや水回りの入り口はドア。
• 倉庫から玄関の段差は275mm
○火災時の安全性
• 屋根:ガルバリウム横葺き
• 外壁:波板鋼板一部ラスモルタル。
• アルミサッシではあるが、網入りガラスの所がない。
• 排気口に防火ダンパーがついていない。
• 住宅用火災報知器がついていない。
• 壁仕上、下地に合板を使っているところが多い。
■ ご提案
• クライアントの寝室の近くに水回りを配置
• 将来介助スペースとして洗面所とトイレの壁をとりはずせるようにした。
• 南側の庭を生かす。(狭いダイニングを少しでも広く見えるようデッキを作る。)
• 1階南側デッキに洗濯物を干せるように(クライアントの家事参加ができるよう)
• 子供部屋は後に分けられるよう。
• なるべく引き戸。
• 階段、欄間から光が入るように。
○ 劣化対策改修
• 柱及び間柱の防蟻処理。
• 床下の防湿土間コンクリートの打設。
• 樋の交換、軒天のモルタル部の補修。
• 腐食部の外壁下地、土台、柱の入替。
• 屋根の立ち上がり部を片流れに改修。
• 外壁は金属サイディング、通気工法とする。
○ 耐震性能の向上
• N値計算の上、金物補強。
• 基礎を新設あるいは一部補強。
• 筋交い、一部構造用合板で耐震壁を新設。
• 1階X方向1.433 Y方向1.534。
• 2階X方向2.375 Y方向2.096。
▲壁:筋交い90×45設置 ▲火打梁設置
▲土間打設状況 ▲基礎補強:既存無筋ろうそく基礎→添え基礎
○断熱改修後
• 壁・2階天井裏:GW24K100㎜(気流止めなし)。
• 床:根太間フクフォーム45㎜。
• 開口部:複層ガラス、金属製樹脂アングルサッシ
• 外壁:金属サイディング張り通気工法。
• UA値:0.73W/㎡K。
• Q値:2.85W/㎡K。
• 省エネについては、照明器具のLED化、採光、通風を意識して窓を配置。
• ダイニングの入り口には引き戸を設けて冷暖房のゾーニングが出来るよう。
• ユニットバスは断熱タイプを採用。
▲壁:通気胴縁20㎜ ▲壁:断熱材施工状況GW24KG100㎜
▲2階から採光が取れるような階段のつくり ▲開け放せる高さに窓を設置
▲1階床:根太間断熱材 施工状況 フクホームt45
○バリアフリー改修
• 寝室と水回りを近く
• 玄関に折りたたみベンチ設置
• 玄関、廊下、トイレ、浴室に手摺
• 浴室のバリアフリー化(低浴槽、入口フラット)
• デッキに物干設置
• なるべく引き戸
※将来車いす対応を考えて
• 簡易スロープで出入り
• トイレの間仕切り撤去
• 入浴は介護サービス利用予定
▲改修前浴室 ▲改修後浴室
▲改修前:玄関 ▲改修後:玄関外側
▲改修後:玄関内側 ▲改修後:寝室横洗面トイレ
○防火改修後
• 外周部壁:金属サイディング+石膏ボードt15+断熱材グラスウール100㎜ (準耐火構造45分)
• 開口部:網入りガラス、あるいはシャッター設置
• 1階天井:強化石膏ボードt15
• 各居室、クローゼット、階段に住宅用火災警報器設置
• コンロまわり不燃仕上(キッチンパネル)
• コンロの排気はスパイラルダクトRW巻、ベントキャップはFD付き。
• 軒天:ケイカルt16
■性能診断結果概要
• 火災時の性能、耐震性、断熱性に 関しては長期優良住宅レベルを満たす。
• 劣化対策については、南側に向って地盤が高くなっており、基礎の高さが、地盤面から土台下端30cmを確保できないところがあった。
• 地盤の防蟻をしていない。
• バリアフリーに関しては部屋の面積が 収納を除いて4.5畳であり、6畳に満たない。
• また、トイレの入り口がW700であり満たない。
• 省エネルギー性については、数値としては少ない向上であるが 住まい手の体感としてはとても良くなったとのこと。
• 高齢者自立支援、介護保険、防火改修、耐震改修、耐震診断、5つの助成金を利用している。
おわりに
今回、自分で改修設計したものを検証するよい機会となりました。
特に省エネルギーの計算については少しハードルが下がりました。
感覚的なものを数字にし、一つの目安として、またそれに振り回される事なく設計に生かして行きたいと思います。
伊澤淳子