№0082〜N邸(建具屋さんの家→看護婦寮→子育て世代の家へ)

改修事例報告
■改修概要
設計者:フジモトミユキ設計室 藤本 美由紀
報告:フジモトミユキ設計室 藤本 美由紀
所在地:熊本県熊本市中央区 (準防火地域・2中高住居地域・Ⅳb地域)
主用途:一戸建ての住宅
築年数:1986年(築32年)
規模:木造二階建
敷地面積:176.36㎡(53.24坪)
建築面積: 95.68㎡(28.89坪)
延床面積:160.54㎡(48.47坪)
着工:2015年6月
竣工:2015年9月
(工事期間3ヶ月)
家族構成:世帯主(44才)、妻(42才)、子(長男、長女、次女) 計5名
改修内容:耐震改修、断熱改修、間取り変更、内外装や設備機器の更新など全面改修
■ご相談~竣工までのスケジュール
2014年11月
お子様方の成長に伴い、お住まいのマンションが手狭になってきたことがきっかけで、お父様所有の看護師寮として使われていた戸建住宅に引っ越されることを決意され相談を受けました。
元々建具屋さんの家でしたので、建具が凝ったものでしたので使えるものは残そうという考えに至りました。建替も検討されましたが、予算内で、同じ規模の住宅は難しいこともありましたので、全面改修をご提案しました。
2014年11月 設計監理契約
既設図面がまったくなかったことから、実測後図面を起し、基本設計を進めました。
2015年2月 隠蔽部の調査
既存建物の床下の状況や不陸等の調査、設備機器の劣化調査を行い、実施設計を進めました。
2015年6月 着工前確認
着工前に張替予定の既存床を解体し、腐朽状況を確認後、床下の改修をどこまで行うか検討しました。
2015年6月 着工
2015年9月 竣工
■改修前写真


1.外観               2.仏間・ダイニング

 

3.ダイニング・キッチン         4.中二階 和室
 

5.一階 和室           6.外部空間(濡れ縁)
 
 
   
7.一階ホール            8.二階ホール
 
■隠蔽部調査

LDK床下                 浴室・洗面脱衣室床下
 

LDK壁                   和室壁
 
(劣化対策)
・シロアリ駆除は定期的にされていたようで、土台・大引に防腐処理がみられた
・床下は意外とからっとしていた
・水廻り付近柱・土台に蟻害・腐朽が確認された
・布基礎には特にクラックは確認されなかった
(耐震性)
・耐力壁 片筋交い30×90を確認 全体的に筋交いが少ない
・一般診断法を用いて構造計算を行った結果、劣化度による低減指数は0.71であった
柱軸力はOK 床耐力はNG
(維持管理・更新)
・屋根、設備関係が経年変化による劣化が見受けられた
・ヒアリングより、東側中庭がじめじめしているとのこと
・南側縁側の木材が経年劣化の傷みあり
(省エネルギー性)
・壁の断熱材は密に入っていた。垂れも少ない
・Ⅳ地域内に建つ既存家屋の断熱性能は旧省エネ基準(S55年)を満たない数値であった
・外壁にグラスウール(ア)50mm、天井にはグラスウール(ア)100mmが入っていたが、その他の部位に断熱材は確認されなかった
・出窓の枠周りが結露により腐朽している
(バリアフリー性)
・各室出入口段差:15~20mm
・玄関土間-踏台段差:230mm 浴室-脱衣所段差:170mm
・階段:急勾配のストリップ階段であるため、小さいお子様の昇降時の転落・転倒を心配されていた
(火災時の安全性)
・準防火地域 第2種中高層住居地域
・屋根:セメント瓦
・外壁:モルタル+リシン吹付
・住宅用火災警報器:未設置
・火気使用室(台所)の内装:タイル張り
 
■ご要望
・子供3部屋、夫婦寝室、夫婦書斎が必要
・LDKを広く、快適に
・収納を多く
・家事のしやすい動線で
・台風で瓦が飛ぶのではないかと心配
・寒いのが苦手なので、これまでの住まい(マンション)と同じくらいの暖かさを
・道路側からLDKが見えないように
■ご提案
ご要望を受け、「家事ストレスの少ない、家族みんなが楽しく集える家」をテーマに計画しました。
・フルタイムで働く奥様の家事ストレスを少なくする家
・住宅密集地でも、外の目線を気にすることなく、リビングで楽しく集える家
・半屋外空間をもつ家(ウッドデッキ、洗濯干し場)
・片づけしやすい家(必要な場所に適当な収納の確保)
 
■平面計画

一階は南側和室の建具を撤去し、LDKを広くし、濡れ縁の延長としてウッドデッキを設け、屋内外一体的な利用ができるようにしました。北側和室はご夫婦の書斎とウォークイン・クローゼット(以下Wcloと表記)に変更しました。Wcloと洗面脱衣室を隣接させ、とりこんだ洗濯物をWcloに収納する際、入浴後に必要なタオルや着替えをどちら側からも使える棚に収納すれば片付けの時短につながります。
多くの図書や書類をお持ちのご夫婦なので、書斎は本棚をたくさん設けました。
中庭は隣の家の視線をゆるやかに遮り、晴れた日の洗濯物干しスペースとしました。キッチン~洗面脱衣室~Wclo~中庭の動線をコンパクトにし、家事のしやすい空間にしています。
スキップフロアの中二階は夫婦寝室としてだけでなく、雨天時の洗濯物干しスペースにもなります。
二階はほとんど間取りの変更はしておりませんが、朝の身支度の時間が集中しているため、二階ホールを少し広げ、洗面化粧台を新設し、渋滞緩和を図りました。
階段は急勾配のストリップ階段でしたので、新しい階段は勾配を緩やかにし、階段下部には収納をつくり、収納スペースをできるだけ多くしました。
寒がりの奥様のため、床は床下断熱、窓は全てペアガラスに取替え、断熱効果を高めました。
■劣化対策

・床撤去 → ポリエチレンフィルム敷込・鋼製束に取替え
・腐朽している土台や柱・大引撤去 → 新しい材に取替え
・数年誰も住んでいなかったこともあり、今回防蟻工事も行った

 
■耐震性
・主寝室(和室):じゅらく壁の上構造用合板(ア)9mm
間仕切・内壁改修部分についてはPB(ア)12.5mmを増し張り
・一階床:大引+構造用合板(ア)12mmの上無垢フローリング(ア)15mm
二階床:既設床の上に下地調整構造用合板(ア)9mm+フローリング(ア)12mmを増し張り
 
■維持管理・更新

・屋根:セメント瓦を防災瓦に葺き替え(一部下地補修、アスファルトルーフィング取替え)
・樋は経年劣化していたため、全て取替え
・外壁は出窓・一部窓の撤去に伴い、建具枠周辺の補修もあるため全体をメンテナンスすることとし、シリコン塗装を施した
 
■省エネルギー性
 
・一階居室床:スチレンエースⅡ(ア)40mm/通路:スチレンエースⅡ(ア)25mm/ガレージ天井:ホームマット425(ア)100mm
・外壁側:内側を取り外した箇所のみ、ホームマット425(ア)75mmで断熱性能を確保
・二階出窓は未断熱のため窓枠が結露により腐朽していたため、全て撤去
・吹抜FIX窓以外の建具:アルミ+樹脂サッシ(ペアガラス) に変更
・設備機器も省エネ機器を選択
 
■バリアフリー性
 
・階段:段数を増やし、緩勾配に(階段下は収納設置)
・階段手すり:木製で握りやすい形状に
・玄関、一階LDK、洗面脱衣室等、家事動線部分に絡む部屋は引戸に
・床:すべて張り替え、部屋間の段差を解消
・浴室、WC:手すり設置
 
■火災時の安全性

・寝室、階段:住宅用火災警報器を設置
・ガスコンロ側の壁:不燃キッチンマグボード張り
・LDK壁:PB(ア)12.5mm+準不燃ビニルクロス張り
・屋根:防災平瓦に全て取り替え
・外壁:高圧洗浄の上、弾性系塗装
 
■性能診断結果

住宅医スクールに参加して、受講以前に改修した建物について見直しができました。お施主様には明るく、暖かい、住みやすい家になったと感想をいただいておりました。お言葉通り、数値的にも
劣化対策、省エネルギー性、バリアフリー性、火災時の安全性については性能向上できたことがわかりました。床耐力が低かったので床の補強は行いましたが、柱軸力は満たしていたこと、外壁は触らないことから壁の補強はしませんでした。
 
■竣工
外観
 ⇒ 
 
リビング・ダイニング
 ⇒ 
 
ダイニング・キッチン
 ⇒ 
 
中二階和室を寝室に
 ⇒ 
 
一階和室を書斎とWcloに
⇒ 
 
一階ホール
 ⇒ 
 
 
二階ホール
 ⇒ 
 
 
外部空間
 ⇒ 
 
■総括
設計当時は予算の都合上、経年劣化した設備機器の省エネルギー改修、台風災害予防としての防災瓦屋根改修に重点を置いていました。住宅医スクール講義受講後、耐震性、断熱性に関して抜本的な改修ができなかったことについては配慮が足りなかったと反省しております。改修から7ヶ月後に起こった熊本地震で被害がなかったことは幸いでした。
住宅医スクールの検定発表会において、耐震補強については、二階外壁がセットバックしていること、スキップフロア(中二階)があることから、慎重な検討が必要とのご指摘を受けました。より耐久性を高めるためには構造の詳細な検討が必要だと感じました。
まだ復興は道半ばです。今後は住宅医として学んだことを改修設計に活かしていきたいと思います。
藤本美由紀